人材解雇の「第2波」に備える、パブリッシャーたち:「良い危機を無駄にしてはいけない」

州や連邦政府によるコロナ禍支援策の影響で、メディア企業たちによる従業員の解雇に対するアプローチも段階的になっている。解雇の第1波は、企業が実際に経験した広告収益の減少よりも小さなレベルがほとんどであった。米国では、5月に全体の失業率が驚くほど低下したが、これは主に政府の雇用主への融資と、エッセンシャルサービスを提供するパートタイム労働者の雇用によるものだ。

しかし、その資金も底をつき、秋のコロナウイルスの第2波に対する恐怖が持ち上がるなかで、メディア企業たちは難しい判断を迫られている。広告収益の減衰が第2四半期の問題ではなく年を通じての問題へと移行しようとするなか、事態は特に深刻化している。最高収益責任者たちのなかでも、今年の広告収益に関してV字回復を期待している人はほとんどいない。

ドイツのウイルス対策を参考に

レストランや学校が再開しはじめているドイツでは、大規模な解雇を避けるために従業員賃金の最大67%までの助成金をほとんどの大手メディア企業が受け取った。ユーロスタット(Eurostat)によると、この結果、4月の失業率は3.5%であった。昨年4月は3.1%であった。

「これ(経済支援)がいつ終わるのか、が問題だ」と語ったのは、デジタルコンサルタントのオリバー・フォン・ウェルシュ氏だ。「(助成金は)問題を年の後半へと先延ばしに延期しているだけで、問題解決になっていないという者もいる。しかし一方で、経済は停滞しており、この対策は人々の助けとなっている。従業員たちはまだ給与を受け取っている。経済の再開と再活性化の基盤となる」。経済に対する自信とモチベーションを回復させることは、ドイツの素早いウイルス対策の背景にあった。

秋が訪れ、状況がより明確になればドイツの会社のほとんどがオフィスでの勤務に戻ることが予測されている。しかし、ドイツでは広告市場はまだ縮小している。今年の広告減退は、10%から20%のあいだと推計されている。デジタル広告は戻ってくるだろうが印刷物の広告がコロナウイルス前と同じレベルまで戻る可能性は低い。「パブリッシャー企業のなかでも(印刷物広告は)難しい仕事だ」と、フォン・ウェルシュ氏は言う。いくつかの会社では、削りとる余分が少ない状況だ。

「良い危機を無駄にするな」

一方で、コロナウイルス・パンデミックの第2波に対する恐怖は、さらに大国の経済をさらに借金へと導いている。ブルームバーグ(Bloomberg)のデータによると、アメリカ企業の資金調達率は記録的な山を見せた。今年は2019年の2倍にもなる1兆ドル(約107兆円)が借りられている。企業は今年後半にさらに状況が厳しくなることに備えて、貸借対照表にテコ入れをしている。

独立系のメディアコンサルタントであるイアン・ウィットテイカー氏は、「コスト削減に何ができるかが主要な牽引力となるだろう。不景気の影響は、ビジネスモデルが崩壊し、企業がこれまで通りの人数を雇えなくなることを意味している。多くの企業は『良い危機を無駄にしてはいけない(never let a good crisis go to waste)』という格言に頼ることになるだろう」と語った。

パブリッシャー企業ピープル(People)では印刷物と不動産がコストの大部分を占めている。英国最大手の新聞グループのひとつリーチ(Reach)にとっては、2019年の運営コスト5億5100万ポンド(約728億円)のうち44%は、従業員雇用で最大のコストだった。ウィットテイカー氏によるとエージェンシーたちの状況はさらに悪い。オムニコム(Omnicom)の純収益のほぼ75%は従業員コストだった。

「かなり大きな解雇をすべてのパブリッシャーが発表することを確信している」と、独立系メディアコンサルタントであるアレックス・デグルート氏は言う。賃金の80%を支払う英国政府の助成金は先細りになるだろうとも語った。

無駄を省いて、未来に投資

メディア企業がコロナ禍のような危機を利用してコストを削減することを示す明確な証拠が出されているわけではないが、どのような不景気においても人々が予想することではある。メディア業界に循環的にやってくる性質でもある。「短期における削減を行い、チームのサイズを補正してからまた大きく構築していく。これは我々が長年行ってきたことだ」と、グローバル雑誌のパブリッシャーにおけるエグゼクティブのひとりは語った。

アトランティック(The Atlantic)とエコノミスト(The Economist)ではイベント部門の人員は解雇された。ほかの企業でも減った需要に合わせて、営業エグゼクティブたちの数も減らされた。BuzzFeedは利益をあまり牽引していなかった英国とオーストラリアのニュース部門を閉鎖した。マイクロソフト(Microsoft)は、MSNウェブサイトとエッジ(Edge)ブラウザのニュース部門を運営していた27人のジャーナリストを人工知能で代行できるとして解雇した。マイクロソフトはアップル(Apple)と合わせるとドイツの上場市場全体よりも大きな時価総額を持つ。

コロナウイルスの影響で、デジタル化は社の存続がかかるレベルにまで必須の事業として加速された。WPPのCEOであるマーク・リード氏は、マイクロソフトチームズ(Teams)の利用に躊躇いを感じていたが、先月60倍の増加があったと述べた。ウィットテイカー氏が語るところによると、ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のCOOであるジョン・ウォルドロン氏は、コロナ禍がそれまで人間のスタッフが必要だとされていた分野でも人間の仲介の必要性を取り除いたと述べたという。

「企業と人材がリセットする機会」

ほとんどのメディア企業にとって、別の側面として、印刷物へのフォーカスを減らし、デジタルに注力することは目新しいことではない。印刷物のメインの販売経路は破壊されてしまった。雑誌販売はレジで閲覧する消費者の存在によって以前は支えられていた。しかし、いまではこういった店舗を訪れること自体が退屈な行いではなく、覚悟を決めた仕事として捉えられており、雑誌売り上げは苦しんでいる。

プログラマティック広告取引、コンテンツとサービスをカスタマイズするためのマシーンラーニング、より機能的な報道を生み出すための人工知能関連の技術に、長年企業は取り組み自動化を進めてきた。広告市場が底を売ったことで、読者収益モデルの構築に多くが群がることになった。

「(オーディエンスの)ボリュームはサブスクリプションに対しても存在している。しかし、いかにそれを収益につなげるかが問題だ」と、エグゼクティブサーチ企業SRIのパートナーであるアダム・ヒラー氏は言う。「読者収益に対する注目は高まっている。企業が読者収益を牽引するための特別なカスタマイズをさらに進化させようとするなかで、デジタル戦略とインフラストラクチャーを技術的な性能が下支えとなるか、価格設定戦略や顧客維持モデリングに関する技能に対する需要が生まれるだろう。企業と人材にとってリセットする良い機会だ」。

アフターコロナに求められる職種

パブリッシャーたちにとってコロナ後の人材関連のアジェンダは変わるだろう。人材解雇を行う会社、自分の役職が持つ新しい意味に対してスタッフが躊躇いを持つこともあるなかで、より安定した分野に自分を見つける人々にはチャンスでもあるだろう。それに対してパブリッシャーのなかには一時的な計画を立てているところもある。

「今年後半には人材が(市場に)生まれるだろう。そのためいま、どのような技能を必要とするかについて考えている」と、コロナ後について考えはじめたコマーシャルパブリッシングのエグゼクティブのひとりは述べた。「リモートワークができる人々と深いコンタクトを持つ人々や電話サービスを強化するかもしれない。すべての(人材の)幅の上も下も視野に入れている」。

Lucinda Southern(原文 / 訳:塚本 紺)