権利を買い漁る Netflix 、クリエイターにとって毒か薬か?

Netflix(ネットフリックス)のCEOを務めるデビッド・ウェルズ氏が2018年2月に公開した新しい資料は多くの人を驚かせている。ウェルズ氏はメディア・テクノロジーカンファレンスで、Netflixは2018年中におよそ700のオリジナルの番組を公開予定だと語った。これには、2018年にNetflixが公開予定の80のオリジナル映画、80の外国語オリジナル番組、そして数々の英語圏向けの番組やスタンドアップショーが含まれる。

Netflixは、他社の追従を許さない全世界向けの大きなストリーミングネットワークであるとはいえ、エンタメ業界において1つのネットワークから700ものプロジェクトが公開されるというのは前例のないことだ。これは、80億ドル(約8500億円)にも及ぶ、Netflixの2018年におけるコンテンツ予算の一部を狙う、テレビスタジオやデジテルメディア企業などの制作元にとっても大きなチャンスだ。1億1180万人のユーザーの関心を満たせるように、あらゆるコンテンツの提供をもくろむNetflixにとって、これは当然の戦略だといえる。

「700という大きな数字だが、それを気にしている人などいない。だが理論的には、サブスクリプションを継続するうえで、コンテンツがたくさんあることが多くの人の満足感に繋がっている」と、Netflixで番組を持つ、長年テレビ・デジタル部門のトップを務める人物は語った。「これはバカげたやり方などではない。なんだかんだで見てしまう、これまでのテレビのやり方とは違って見えるだけだ」。

だが、制作者側にはチャンスがある一方で、番組を見つけて視聴されるという確約のないまま、肥大化するコンテンツの海のなかで番組が埋もれてしまうリスクもある。

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NOというのは難しい

Netflix向けに番組を制作するメリットが高いのは周知の事実だ。Netflixは、欲しいと思う番組に対しては躊躇なく他社よりも高い値段をつける。番組やエピソードの購入に関しては、ほかのどのストリーミングプラットフォームやテレビネットワークよりも大きな力を注いでいる。また、制作元への干渉も強くはなく、クリエイターの自由にできる余地も多い傾向がある。さらに、Netflixは大きな成功を手にしたことにより、HBOやAMCネットワーク(AMC Networks)、ブロードキャストネットワーク(broadcast networks)やHulu(フールー)とともに、エミー賞の運営にも関わっている。

主要なテレビスタジオのトップによると、これによって多くのテレビスタジオはNetflixに「ノー」ということが難しくなっているという。「コンテンツの販売元が、年次決算で最低ラインを満たすことを考えた場合、概して一番大きな額を支払ってくれる相手に頼ることになるだろう。そして多くの場合、これはNetflixが満たしてくれる」とその人物は語った。

テレビスタジオやそのほかのコンテンツ販売元は、Netflixとの契約に際してはライセンス契約やシンジケーションを通じた追加収入の道が閉ざされることになる。これは、Netflixはオリジナルのシリーズ番組や面倒なライセンス契約よりも、権利のすべてを保有する方針を強めているためだ。制作元は、それによりライセンシングが可能なオリジナル番組の制作活動を続けることと比べても利益が取れる、ということを認めなければならないという面もある。

「Netflixが映画やテレビ番組をジャンルを問わず見境いなくガツガツと買いあさっている結果、売り手市場になっている」。メディアコンサル企業のクリエイティビーメディア(Creatv Media)の創設者であるピーター・チャシー氏はそう語る。「Netflixと仕事をしているクリエイターやコンテンツオーナーにとっての主なマイナス要素は、Netflixが紹介する新しいオリジナルコンテンツの数が多すぎて、オーディエンスの注目を引くことがどんどん難しくなってきていることだ。より強いマーケティング戦略の確約なしには、こうした映画やテレビ番組は大量のコンテンツのなかで埋もれてしまうという厳しい現実に直面してしまう」。

Netflixのマーケティング協力が不透明な恐れ

最近Netflixに番組を販売した会社のトップの3名、そして以前こうしたマーケティングキャンペーンに際してNetflixと協働した1名を含む、計4名の情報元によると、Netflixは、特定のオリジナルのプロジェクトに対するマーケティング協力を保証しているという。常につきまとう問題は、Netflixのいう保証そのものが不透明でプロジェクトの種類によって度合いもさまざまになってしまうことがあるということだ。

ハリウッドに暮らす、あるベテラン幹部によると、Netflixとの契約では、映画スタジオやテレビネットワークとの交渉の仕方とそう大きく変わらないという。Netflixオリジナルの番組については、特にウィル・スミス主演の『ブライト(Bright)』やブラッド・ピット主演の『ウォーマシン(War Machine)』などの注目度の高い映画では、契約に際してマーケティングに関する内容が議論される。多くの名作を残しているテレビプロデューサーのライアン・マーフィー氏との3億ドル(約320億円)の5年契約など、Netflixがコンテンツに多大な額のコミットメントを行うような場合には、マーケティングにも莫大な力が注がれることになるだろう。

情報筋によると、Netflixはそのほかの個人とのオリジナルコンテンツ契約に関してもマーケティング協力を約束しているが、ほかのテレビネットワークとまったく同様に、契約文書内で明確な金額の記載がされるわけではない。「業界の常識のようなものがあるにせよ、いままでやってこなかった類のマーケティングにとらわれてしまうようなことはないだろう」と、そのベテラン幹部は語る。

このような例では、Netflixが行うオリジナル番組のマーケティング協力は、ぼんやりとした不明瞭なものになってしまう可能性がある。

「透明性のかけらもない。Netflixは、『マーケティング』という切り口で、さまざまな形でコンテンツが目に触れるように検討しているので、Android端末向けに配信された『セックス・アンド・ザ・シティ(Sex and the City)』を見た18歳から34歳までの女性には、(あなたの番組が)おすすめされていることを証明するだけで、契約条項を満たしているといい張ることができる」と、マーケティングキャンペーンでNetflixと協働したある情報筋は語った。「そんなこと、どうやってわかるというのか」。

Netflixがコンテンツの権利保有に力を入れている、または少なくとも10年単位での世界中でのライセンスを購入していることを受けて、情報筋のなかには、マーケティングのコミットメントをNetflixに求める必要などないと、主張する者もでてきた。「結局全部持っていかれるのだから、彼らのやりたい放題だ」と、そのハリウッドの幹部は語る。

別の情報筋は、Netflixは視聴者データの共有に難色を示しており、番組がどの程度視聴されているかを知るすべがないため、制作元や芸能タレントは逆境に立たされているという。

「ハリウッドでは、全員がスコアカードを渡される。映画が公開されると、全員の郵便受けが空になる。コメディドラマ『ロザンヌ(Roseanne)』は4月、180万人に向けて公開されたのは誰もが知っている。サブスクリプション型のストリーミングサービスでは、1年間に渡って何かに取り組んだとしても、アイオワ州に住んでいる自分の母親にランキングが1位だったことを教えることはできない。これはアメリカの文化にとって大切なことなのに、だ」と、Netflixにライセンスプロジェクトを持つスタジオ71(Studio 71)でCEOを務めるレザ・イザッド氏は語る。「これは新しいパラダイムだが、Netflixに限ったことではない」。

ライバルにとってはチャンス

HBOは最近になって、制作元や芸能タレントへの売り込みに力を入れはじめている。「あなたを忘れるようなことは決してないので、一緒に仕事をしましょう」。HBOで番組制作部門のプレジデントを務めるケーシー・ブロイズ氏は、ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)のインタビューで、その売り込み文句を語った。「子供が50人いたら、全員のサッカーの試合を見に行くことはできないだろう」と、同氏は語った。「私たちは全員のサッカーの試合を見に行くし、すべての試合におやつまで用意してやる親のようなものだ」。同じインタビューで、HBOのCEO、リチャード・プレップラー氏は批判まじりにこう語った。「数が多ければ良いというものではない。質が良いものであるということが大事だ」。

Netflixから億単位の多額の報酬を得ていない制作元や芸能タレントにとって、これは魅力的な売り込みに見えるかもしれない。また、2017年に20億ドル(約2100億円)以上の予算を番組制作に費やしたHBOだけではなく、そのほかのネットワークや主要なストリーミングサービスも、オリジナル番組の制作を減らすことで、それぞれのプロジェクトにより多くの注目を集めることができる。2018年にオリジナルのテレビ番組制作に10億ドル(約1050億円)の予算を投入する計画のあるAppleでさえ、これまでのところ12の番組を制作中、というのが現状だ。

「これが、AppleやHBOに行く人が増えている理由だ」と、Netflixに番組を販売したひとりのメディア幹部は語った。「彼らがいうには、番組数が(Netflixよりも)少ないプラットフォームであり、ひとつひとつの番組により多くの力をかけられる」。

制作元のなかには、すでにこれをNetflixによって肥大化しすぎてしまったプラットフォームに、新しいアイデアを持ち込むチャンスだと見ているものもいる。

「プレミアム感を出そうとしているフランスのカナルプラス(Canal Plus)などの国際的なプレイヤーですら、コンテンツプールは小さくなっている。これはNetflixが権利をがんじがらめにしているのが要因だ」と、そのメディア幹部は語る。「これは私たちにとってはチャンスだ。なぜなら、私たちがやっているようなカテゴリの番組を購入できる機会を失っている世界のバイヤーたちに売り込みがかけられるからだ」。

マーケティング計画を強めるNetflix

2018年初頭、Netflixはマーケティング費を50%増額し、20億ドル(約2100億円)にまで引き上げる計画を発表している。ブルームバーグメディア(Bloomberg Media)によると、このストリーミングの巨人はマーケティングやPRの専門家の雇用にも力を入れているが、多くは同業他社から倍額のオファーで引き抜いているという。Netflixのウェブサイトには、50以上のマーケティングやPRの求人枠が載せられている。

このNetflixのマーケティング戦略のいくつかは、すでに目に見える形で世に出てきている。スーパーボウルの期間中、ホラー映画の『クローバーフィールド・パラドックス(The Cloverfiled Paradox)』のトレイラー動画が試合直後に公開され、大きな注目を集めた。そしてつい先週、Netflixはカナダ人の有名俳優、セス・ローゲンとの専属契約を伝えるプロモーションを行った。

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Netflixに番組を販売したメディアエグゼクティブのひとりによると、彼はNetflixにはオリジナルプロジェクトのプロモーションにもっと注力してくれることを期待しているという。Netflixはマーケティング費用の具体的な数字を約束しなかったものの、『消費者の目に触れる』形でのキャンペーンが行われる予定だ、と彼は語った。

「契約書に明記はされていないが、機能はしている」と、彼は語る。「Netflixは(自身のオリジナルコンテンツに関しては)多額のマーケティング予算を投じている。つまり、マーケティングに大きな力を注いでいくというのは自然な流れだ。マーケティングへの投資によるバックアップ体制が必要だ」。

Sahil Patel(原文 / 訳:Conyac