広告主のあいだで、売上とリーチに関する情報の需要がさらに高まっている。メディアプランのうえでもその測定は不可欠だ。NBCユニバーサルはこのニーズに応え、テレビにおける従来の測定方法の刷新を図り、広告主の広告分析に加え、非広告要因も追跡し広告が企業の製品売上に及ぼす影響を評価するプログラムの試験運用を開始した。
広告主のあいだで、売上とリーチに関する情報の需要がさらに高まっている。コムキャスト(Comcast)が保有するNBCユニバーサル(NBCUniversal:以下NBCU)は、これに応えるため、テレビにおける従来の測定方法の刷新を図っている。
そのひとつが、自社開発した「トータル・インベストメント・インパクト(Total Investment Impact)」という独自の測定プログラムだ。同プログラムは、クライアントが同社や他社プラットフォームで展開する広告の分析に加え、自動車ブランドであればガソリン価格といったパフォーマンスに関与する非広告の要因も追跡し、広告が企業の製品売上に及ぼす影響を評価する。NBCUの分析測定担当を務めるカビタ・バジラニ氏は、同社が「最終的に広告を購入した企業に売上高を担保することを目指しており、トータル・インベストメント・インパクトはそのためのツールになる」と述べている。
メディアプランの判断材料にも
同プログラムはただの測定ツールにとどまらず、広告主とNBCU間のメディアプランニングにおいて大きな役割を期待されている。具体的には、プログラムによる測定で得られた情報は広告主がインプレッション数や広告クリック数、ブランド認知度、購入意向といった指標だけに依存しない計画を立てるために活用される。この結果、広告主が従来のリーチ数といった数字ではなく、最低限の売上を保証するメディアプランを設定できるようになるとされているのだ。
Advertisement
「測定と計画からさらに一歩進めて、マーケターのメディアへの投資が実際の売上に与える影響を測定することを目指している。この違いは大きい」とバジラニ氏は語る。すでにNBCUはホンダとともにプログラムの試験運用を開始しており、広報担当によれば第4四半期にはほかの広告主へのピッチを開始する予定だという。
同社の目的は、広告主に対して自社の広告インベントリの価値を実証すること、そしてコロナ禍によりさまざまな不確定要素が生じたなかで、広告への関連の有無を問わず広告主の売上に影響を与えうる要因の特定を支援することにある。広告主がプログラムを利用するために必要な広告費用の最低額は決まっているかを尋ねたところ、NBCUの広報担当は、契約ごとに事情は異なるため個別に交渉を進めていると回答している。
そのため、同社は広告主ごとに特有の非広告要因を考慮した測定プログラムを設定するという。ホンダはトータル・インベストメント・インパクトを試験運用している初の広告主で、両社はすでにプログラムの利用モデルについて会議を重ねている。NBCUはホンダに今後4年間に渡って提供するデータ内容について、主要な自動車メーカー25社の車の燃費、金利、自動車登録などのパラメーターで調整を進めているという。
特定のメディアチャネルの分析が可能
NBCUはサードパーティのソースを活用し、広告主がNBCU以外のメディアで使用した広告費のデータやガソリン価格、自動車登録情報といった非広告関連のデータを収集している。しかし、バジラニ氏によれば、広告主が望めばNBCUに広告主側のファーストパーティデータを接続することも可能だという。NBCUの広報担当によると、同社は広告主各社と協力してデータの使用および管理方法を決定するとのことだ。
NBCUのマーケティング担当は、トータル・インベストメント・インパクトはマーケティングミックスモデル(MMM)を用いたメディアへの広告費の割り当て分析に似ているという。では、マーケターがもともとMMMによる分析手段を有していれば、トータル・インベストメント・インパクトは不要なのだろうか? ここで考慮すべきなのは、一般的にマーケターが有するMMMの場合、個々のメディアチャネルの詳細は把握できないという点だ。つまり特定のネットワークごとの詳細な分析ではなく、テレビ広告全体のような大きなカテゴリーの分析をおこなう。
そこで、エージェンシー役員らはNBCUのプログラムであれば、同社への広告が売上に及ぼす影響をより深く掘り下げられるのではないかと期待しているのだ。実際、NBCUのポートフォリオはテレビ局にとどまらず、オンラインプラットフォームや配信サービスのピーコック(Peacock)など多岐にわたっており、その付加価値は高い。「少なくとも、全米で展開しているテレビ局がこれほどの規模のサービスを提供しているのは初ではないか」とあるエージェンシー役員は語る。
すべて「NBCU頼み」になるリスク
だが、トータル・インベストメント・インパクトの採用には広告主が躊躇するレベルの、NBCUに対する「信頼」が必要になるのも事実だ。エージェンシーの役員たちは同プログラムを利用する場合、インベントリの売上への貢献度評価を完全にNBCUに依存することになると指摘する。そのため役員らは、NBCUが同プログラムで使用しているデータを共有してもらいたいと望んでいる。「この件についてはNBCUからの説明がなく、多少懐疑的に見ている」とあるエージェンシー役員は指摘する。
これに対しバジラニ氏は、こういった広告主やエージェンシーから寄せられる透明性に関する懸念に対応するため、 測定に使用されるデータセットを含むトータル・インベストメント・インパクトのシステムについて広告主に説明すると語っている。また、同プログラムは商品売上に対する測定をおこなうため、広告主側でもこの結果と社内の数値が一致するか一定の判断は可能だ。
バジラニ氏は「論より証拠だ」とし、次のように述べた。「あるマーケターに対し『この広告を出した場合、これだけの売上になる』と分析結果を提供した場合、実際のデータと照らし合わせるだけで、プログラムによる分析のズレは広告主側で簡単に見極められる」。
[原文:NBCUniversal tests new measurement program to prove it can push product sales for advertisers]
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)