10月25日、Facebookがニューヨークでの招待者限定イベントでお披露目した、新たなパブリッシャー主体プロダクト「Facebook News」には、業界の有名どころの名前がずらりと並んだ。しかし、パブリッシャー5社への取材でわかったのは、彼らが今度こそ冷静さを保って参加していることだ。
パブリッシャーはそれでもFacebookをやめられない。
Facebookがオーガニックリーチを削減し、参照トラフィックに大穴をあけたとき、誰もがこれを教訓にすると誓った。うまくいかなかった動画への転換でも、自立の重要性とパブリッシャー自身について、多くを学んだはずだった。それでも今年10月25日、Facebookがニューヨークでの招待者限定イベントでお披露目した、新たなパブリッシャー主体プロダクト「Facebook News」には、業界の有名どころの名前がずらりと並んだ。
確かに、これまでと違う点もある。なにより、Facebookは今回、一部のパブリッシャー(200の参加媒体のうち4分の1)に直接報酬を支払っているのだ。広告収入の一部の配分や、閲覧数増加を約束するだけではない。加えて、同プロダクトは生身の人間のキュレーターの配置や、国民の重大関心事の強調など、多くの面でパブリッシャーの懸念を考慮したデザインになっているのである。
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しかし、パブリッシャー5社への取材でわかったのは、彼らが今度こそ冷静さを保って参加していることだ。Facebook Newsがゲームチェンジャーになる、あるいはすべての問題の解決策になるとは、誰も期待していない。彼らは今回、Facebookがジャーナリズムに対価を支払うことの象徴的意義を認め、またFacebookがプロダクトを続ければの話だが、Newsを通じて利益の漸増が見込めるかもしれないと期待を寄せているだけだ。
「動機ははっきりしない」
パブリッシャー幹部のあいだでは、FacebookがなぜNewsのような試みをはじめたのかをめぐり、憶測が飛び交っている。新プロダクトは規制の目をFacebookからそらす、あるいは少なくともGoogleに圧力をかけるためのものという見方もある。一部では、生身のキュレーターは、単に毛色の違った記事の選び方をFacebookのアルゴリズムに学習させるために置かれたにすぎないと見られている。
それでもパブリッシャーは概して、プラットフォームは高品質で独自性の高い報道に対価を払うべきだというメッセージとしての意義をFacebook Newsに認め、Facebookがようやくパブリッシャーの中心的プロダクトに脚光をあて、赤ちゃん画像、親戚が書いた無駄に長い駄文、キャッチーな動画との競争から解放したことを好意的に見ている。
同プロダクトが2020年の大統領選の終了後どうなるかは未知数だという声もあるが、Facebookが複数年に渡る契約を提示したことに、パブリッシャーは希望を見出している。ただし、同社がプラットフォーム上にニュース専用のスペースを確保する動機については、首をかしげる人が多い。
「彼らは長期的コミットメントの意思を示したものの、その動機ははっきりしない」と、ある関係者は話す。
いま見えていること
Facebook Newsの展開は段階的に行われ、まずは米国でスタートする。ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal:以下、WSJ)の報道によると、専用のタブにはWSJのほか、BuzzFeedニュース(BuzzFeed News)、BusinessInsider(ビジネスインサイダー)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)など200媒体のパブリッシャーの記事が掲載される。フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)によると、参加パブリッシャーのリストには、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:NYT)やAP通信といった、いくつかの有名どころが欠けている。
Facebookは、新プロダクトがもたらすインパクトへの期待が高まりすぎないよう調整しているようだ。BusinessInsiderの報道によると、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏はこの夏、少なくともひとりのパブリッシャー幹部に対し、Newsタブの利用者は最大でFacebookユーザーの15%になるだろうと話した。この数字はFacebookの最大の売りではなさそうだ。複数のパブリッシャー関係者の証言によると、FacebookはNewsタブにどれだけのコンテンツやオーディエンスが集まるかについて、一切の指針や予測を提示していない。代わりに、このプロダクトはパブリッシャーにとって重要なオーディエンスサブセットである、ニュースに関心をもつ層の注目を集めるものと位置づけているという。
初期段階においては、パブリッシャーはFacebookの言葉を額面通り受け取るしかない。サービス開始の時点では、パブリッシャーがNewsタブからの参照トラフィックと、Facebookのほかのセクション(たとえばニュースフィードやグループ)からのトラフィックを区別する方法はない。Facebook内部の関係者は、いずれ両チャンネルを区別する方法をパブリッシャーに提供する予定だという。
ニュースコンテンツのキュレーションを担うチームもまだ組織中だ。Facebookはリリースの1週間前まで、Newsタブを担当するキュレーター職の募集情報を掲載していた。また、複数のパブリッシャー関係者が、Facebookのチームと日常のやりとりや、編集者へのコンテンツの売り込みの方法がまだはっきりしていないと述べている。
技術的な問題もある。Newsタブへのコンテンツ掲載には、テクニカルな作業も必要だ。複数の関係者によると、Facebookは参加パブリッシャーに対し、プラットフォームに直接取り込める独立のAPIを構築するよう求めたという。これを相当な負担と考えるか、些事とみなすかは、パブリッシャーによって判断が分かれるところだ。
関係者たちの賛否両論
懐疑的な見方を保ちつつ、取材した関係者の多くは、Newsタブは正しい方向への第一歩だと考えているようだ。「Facebookが独自性の高いジャーナリズムに投資していることは間違いない。彼らは独自性のある報道を求めていて、それに対価を払う意欲をもっている」と、ある関係者はいう。
Facebookが報酬を支払うという単純な事実だけでも、パブリッシャーの注目を集めるには十分なようだ。Newsタブに参加していないあるパブリッシャーの関係者は、Facebookが一部の参加媒体に直接報酬を支払っているとの報道を受けて、事業開発部門が参加に乗り気になっていると話した。
「これから進化し、よりオープンになっていくだろう。最初のメンバーになるメリットはないように思える」と、ある関係者はいう。
とはいうものの、報酬が(比較的)たやすく手に入ると知ってなお、プロダクトを疑いの目で見ているパブリッシャーもある。「Facebookの3年後はまるで予想がつかない」と、別の関係者は語った。
Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)