パブリッシャーは最近、ますますサブスクリプションのマーケティングに力を入れている。広告収益の苦境、サブスクオファーの知見の蓄積、インフラ整備の完了、コロナ禍によるニュースニーズの高まりなどサブスク成長の要因は数多くあるが、いずれにせよ安定した収益確保を課題としてきたパブリッシャーにとっては「好機」と言える。
パブリッシャーは最近、ますますニュースサブスクリプションのマーケティングに力を入れている。
広告ビジネスの多くが(とりわけローカルニュースに関して)まだ不安定な状況である一方、有料サービスにユーザーを引き込むためにどのようなオファーが効果的かについて知見が集まってきたことで、パブリッシャーは年を追うごとにサブスクリプションのプロモーションに積極的になっているのだ。
積極的なオファーで購読者を獲得
ペイウォールプラットフォームのピアノ(Piano)がおこなった最近の調査では、同社の顧客パブリッシャーにおけるサイト訪問者に占めるサブスクリプションオファーを提示されたユーザーの割合の中央値が、今年9月には3月の値に比べて3倍近くに上昇していた。
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調査によるとサイト訪問者のおよそ6人に1人が同月にオファーを見ていたと、ピアノの戦略担当シニアバイスプレジデント、マイケル・シルバーマン氏はいう。だが、これでもまだパブリッシャーの「強引さ」を過小評価しているかもしれない。というのもシルバーマン氏によれば、このデータにはピアノの顧客が読者にオファーを提示するふたつの方法のうち、ひとつしか含まれていないのだ。
こうした傾向はピアノの顧客に限った話ではない。たとえばダラス・モーニングニュース(The Dallas Morning News)はここ半年、サブスクリプションオファーの種類を増やし、以前の長期契約主体から短期間でより手頃な価格のものに軸足を移している。
シカゴ・トリビューン(Chicago Tribune)やニューヨーク・デイリーニュース(New York Daily News)を所有するトリビューン・パブリッシング(Tribune Publishing)は、傘下の8つのメディアすべての非購読者に、新型コロナウイルス特集や購読者に支持されたそれ以外の記事を紹介するメールを送り、同社でもっともお得な割引価格である半年で1ドル(約104円)のオファーを提示した。
「我々は新たな一手を繰り出した」と、トリビューン・パブリッシングでオーディエンスエンゲージメントおよびリテンション担当バイスプレジデントを務めるイダルミー・カレラ=コルッチ氏はいう。同氏によればトリビューンのマーケティング戦略の一部は、新型コロナウイルス関連報道の大部分からペイウォールを外すという判断の結果に基づいている。この判断は、秋から冬にかけて米国の大部分が感染拡大の第2波に飲み込まれつつあるなかで、新たな意味を持ちつつある。
メーター制を強化する動きも
こうしたパブリッシャーのオファー戦略は功を奏しているようだ。ガネット(Gannett)のCMO兼CSO(chief marketing and strategy officer)であるマユル・グプタ氏によれば、同社は自社ネットワークの100以上の新聞でサブスクリプションプロモーションを定型化することに取り組んできたという。11月3日公開の第3四半期決算報告書で、同社はデジタルサブスクリプション登録者が100万人を突破したと発表した。この成長はガネットがひとつの目標を達成しただけでなく、今回の四半期における伸びが新規デジタルサブスクリプション登録者7万6000人と、第1〜2四半期をさらに上回った点でも注目に値する。
2020年上半期はコロナ危機報道の影響もあり、多くのパブリッシャーが購読開始数の大幅増加という恩恵を受けた。ダラス・モーニングニュースは第3四半期、サブスクリプション登録者数で前年同期比39%増を記録し、第2四半期にみられたサブスクリプション新規登録の増加に匹敵する好調ぶりを見せたと、親会社のA・H・ベロ(A. H. Belo)は報告している。
積極的なマーケティングと並行して、一部の出版社はメーター制の制限強化を進めている。ハースト・ニュースペーパーズ(Hearst Newspapers)のCMO(chief marketing office)、マーク・キャンベル氏は、同社のサブスクリプション登録者数の伸びは今年に入って加速しつづけており、具体的な数字を伏せつつもペイウォールの強化が大きな役割を果たしたと述べた。
「私が見るかぎり、メーター制を強化するほど、コンバージョン率は多少落ちるもののサブスクリプション登録者は増える。『多いほど豊か』ということだ」。
広告苦境も後押し
サブスクリプションの成長とは対照的に、ニュースパブリッシャーは広告事業で苦境に直面しており、多くは今年さらに悪化した。たとえばガネットの第3四半期の紙面広告は、前年同期比で30%減少した。つまり、サブスクリプション推進の動きの一部は、従来の主流であり現在は逆境にある、広告モデルからの脱却をはかるパブリッシャーが主導している。
広告の状況は別にして、数カ月にわたる準備を経てようやくパブリッシャーのサブスクリプションインフラ整備が完了した結果、という見方もできる。ダラス・モーニングニュースは、ワシントン・ポスト(The Washington Post)が運用するサブスクリプションツールのアーク(Arc)を、リリースから1年以上経った最近になってようやく自社システムに組み込んだ。
この移行の際には、社内で採り入れられていた6社のベンダーの技術を排除する必要があり、新しいCMSに切り替えるのと同じくらい時間と労力が必要だったと、CPO(chief product officer)のマイク・オーレン氏は述べている。
だがこの変更のおかげで、より多くのテストやプロモーションを実施できるようになった。オーレン氏によれば、ダラス・モーニングニュースは読者に提供するサブスクリプションオファーのA/Bテストを実施予定で、この機会を利用して読者の閲覧パターンや好みを学習し、それらに合わせてオファーを最適化するつもりだ。「過剰に押し売りする気はないが、それ(A/Bテストの増加)は我々が目指すところだ」と、オーレン氏は述べた。
[原文:‘More is more’: News publishers dial up the marketing heat on their subscription]
MAX WILLENS(翻訳:的場 知之/ガリレオ、編集:分島 翔平)