新型コロナウイルス に神経を尖らす、イベント主催者たち:「保険は使わないほうがいい」

新型コロナウイルス(COVID-19)の脅威が、イベント主催者たちの神経を尖らせている。

「モバイル・ワールド・コングレス(Mobile World Congress:以下、MWC)」への出展を予定していたノキア(Nokia)やAT&T、Amazonら大手企業が、新型コロナウイルスに対する懸念を口にし、参加の中止を相次いで発表した。これを受けて、MWCを主催するGSMアソシエーション(GSM Association:以下、GSMA)は2月12日、渡航に対する懸念をはじめとするさまざまな現状を考慮した結果、MWCの開催は「不可能」になったと発表、2月に予定されていた同見本市を中止にした。

たしかに近年、MWCは広告業界人にとってマストな見本市のひとつとしての重要性を失ってはいた。だが、バルセロナ行きを中止せざるをえなかった10万人の来場予定者のなかには、大手テレコム企業、携帯電話機メーカーのマーケターや、アドテクベンダーの幹部らもいた。MWCは2月24~27日にバルセロナで開かれることになっていた。

グローバルカンファレンスを主催するほかのオーガナイザーたちも、新型コロナウイルスの感染者数や死者数が世界全体で増えていく様子を不安げに見守っている。起こりうるキャッシュフローの問題にナーバスになっているのは、イベントに特化した企業だけではない。いまやイベントは、そのビジネスの中心にあるサブスクリプションや広告の先を見据えて、売上の多様化を試みる多くのパブリッシャーにとっても、新しい魅力的な成長エリアになっているのだ。

WHO(世界保健機関)は1月30日、新型コロナウイルスのアウトブレイクに対して「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」を宣言した。WHOはその時点では、渡航制限も貿易制限も勧告しなかった。

だがそれ以来、一部の国の政府や企業は新型コロナウイルスに対して警戒を強めてきた。米国務省領事局は市民に、今回のアウトブレイクの起点となった中国への渡航を控えるように呼びかけ、同国に滞在中の市民には出国を勧告している。筆者(米DIGIDAYのララ・オライリー記者)がこの記事を書いている2月13日現在、アメリカ国内では新型コロナウイルスの感染症例が14件、疾病管理予防センター(CDC)により確認されている。FacebookやGoogle、WPP、Appleなどの企業はここ何週間か、従業員の中国出張を制限している。

続行するかどうかの難しい判断

トリリアムパートナーズ(Trillium Partners)でメディアアナリスト兼シニアアドバイザーを務めるアレックス・デグルート氏によれば、イベント企業は保険の適用を受けられるものの、経営陣はイベントを続行すべきかどうかの難しい判断を迫られているという。

「(保険は)使わないほうがいい。もし使えば、保険料が上がってしまうからだ」と、同氏は語る。「すべての情報が集まるまでは、このオプションの行使は避けるべきだ」。

すでにザ・ドラム(The Drum)が報じているように、猛威をふるう新型コロナウイルスにより、アジアで予定されていた広告業界イベントがいくつか延期になっている。そのなかのひとつが世界広告主連盟(WFA)が主催する「グローバル・マーケティング・ウィーク(Global Marketing Week)」で、予定では3月31日からシンガポールで開かれることになっていた。

アジア以外に目を向けると、広告関連企業幹部の多くの予定に入っているであろう次の世界的イベントといえば、「サウス・バイ・サウスウエスト(SXSW)」だ。同イベントは3月13日からテキサス州オースティンで予定通り行われることになっている。SXSWはウェブサイトで、来場予定者にWHOの安全勧告(定期的に手を洗う、咳をするときは口と鼻を覆う、くしゃみをするときは肘またはティッシュを口に当てるなど、通常の予防措置の実践)について触れている。米DIGIDAYは同イベントを主催するSXSW、LLCにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

ビーチ借用だけで1.6億円も

「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」は、広告業界にカネの雨を降らせる一大イベントと、いまなお広く認識されている。同フェスティバルは毎年6月後半、南仏コートダジュールにあるカンヌで開かれている。コンサルタント企業のR3によれば、昨年6月17~21日の開催期間中にビーチロケーションを借りるのにかかる費用は、20万~150万ドル(約2200万~1億6500万円)と推定されるという。

カンヌライオンズ(運営:アッセンシャル[Ascential plc])の広報担当者によれば、同イベントは「あくまで開催に向けて動いており」、「会場やWHO、フランス当局の正規のガイダンスに従い」つつ、事態の進展を注意深く見守っているという。

3月にロンドンで開かれる「アドバタイジング・ウィーク・ヨーロッパ(Advertising Week Europe)」(運営:スティルウェルパートナーズ[Stillwell Partners])の広報担当者も、6月にトロントで開かれる「コリジョン(Collision)」(運営:マンダース・テラス・リミテッド[Manders Terrace Limited])の広報担当者も同様のメッセージを発しており、地元政府機関の最新のアドバイスに従うよう、来場者に呼びかけている。

企業の代表者や出展者についてはどうかというと、状況は流動的だ。

「DMEXCO(ディメクスコ)に出展するつもりでいたが、二の足を踏んでいる」と、某アドテク企業の幹部は話す。毎年ドイツのケルンで開かれているDMEXCOは、今年も9月に行われることが決定している。「いまのところ、事態の規模がわかっていない」と、同幹部は付け加える。米DIGIDAYはDMEXCOにコメントを求めたが、回答は得られなかった。

SARSの際のイベント対応

今回の新型コロナウイルスのアウトブレイクは、2003年に発生したSARS(重症急性呼吸器症候群)のアウトブレイクを思い出させる。SARSでは、26以上の国々が影響を受け、8000件以上に及ぶ症例が確認された。

「約12カ月のあいだ、見本市やイベントの大規模なキャンセルが相次いだ」と、デグルート氏は当時を振り返る。「現実的に、こうした事態はかなりの長期に渡って続くおそれがある」。

たとえば2003年5月、B2Bイベント企業のユナイテッド・ビジネス・メディア(United Business Media:のちにインフォーマ[Informa]が買収)は、同年の前半に最大で800万ポンド(現在価値で約11億円)の損失が出る恐れがあると発表した。そしてこの損失を、SARSのアウトブレイクと、中止・延期を余儀なくされたイベント、開催に踏み切ったイベントの来場者数の低下により被った。同社は2003年12月、これに関連する利益の不足は380万ポンド(約5億3900万円)という保険金の支払いによっていくらか緩和されたと発表した。

Lara O’Reilly (原文 / 訳:ガリレオ)