競技ゲームの台頭により、制約に縛られない競技の娯楽価値が明らかになった。物理的なスポーツが完全復活したとき、パンデミック中にeスポーツに移行した選手と観客は、こうした従来型のスポーツが、かつて思えたほどダイナミックではなく、複合現実(MR)の競技によって埋め尽くされる可能性があることに気づくかもしれない。
競技ゲームの台頭により、テクノロジーや物理的な制約に縛られない競技の娯楽価値が明らかになった。
物理的なスポーツが完全復活したとき、パンデミック中にeスポーツに移行した選手と観客は、こうした従来型のスポーツが、かつて思えたほどダイナミックではなく、複合現実(MR)の競技によって埋め尽くされる可能性があることに気づくかもしれない。
たとえば、拡張現実(AR)スポーツ企業のアルカディア(Arcadia)は、仮想現実(VR)ヘッドセットとハンドコントローラーを利用して、現実世界にあるバスケットボールのコートほどの空間にVRの障害物をマッピングし、従来型スポーツの運動競技と、eスポーツにみられる物理の法則に反したゲームプレイが組み合わさった新しいスポーツを生み出している。「ヘリオカム(Helio Cam)」というツールを通じて、このMRの世界を選手たちが横切っていくのを観客が観戦できるようにしているのだ。
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だが、VR機器と広大なオープンスペースが必要なことが、潜在的ユーザーの参入障壁になっている。そこで、アルカディアは現在、主にエンターテインメント製品として、いわゆる「スーパースポーツ(super sports)」に取り組みはじめた。アルカディアの共同創設者、ジェレミー・ショルツバーグ氏は、次のように語る。「できるだけ多くの人々にリーチしたい。これはまったく新しいものであり、地元のジムに設置したら、100人の人々がアルカディアについて知るようになる。しかし、エンターテインメント製品を作る場合は、YouTubeやTwitch(ツイッチ)、ソーシャルメディアを利用すれば、膨大な数の人々に認知されて楽しんでもらえる機会がある」。
だが、アルカディアの計画は、限られた少数の人々が利用できるVRの遊び場で大衆を楽しませることではない。いつかサッカーやバスケットボールくらい広まる、まったく新しい形のスポーツを生み出すことだ。「これが主流のスポーツになるのが、最終段階だ。友人と地元のジムや地元の学校、コミュニティセンターに行き、そこにいる人を適当に集めて遊ぶことができる」とショルツバーグ氏は語る。
MRスポーツ市場の成長
それに、バーチャルアスレチックリーグ(Virtual Athletics League)の「VRサマーゲーム(VR Summer Games)」の成功は、MRスポーツ市場が成長していることを示している。VR専門ゲームセンターとして5年前に創設されたバーチャルアスレチックリーグは、パンデミック中に完全なデジタル事業モデルへと転向し、VRゲームのトーナメントの主催者かつ、他社のVRゲーム競技会を管理できるエージェンシーとして自社を位置づけた。9月12日まで開催されたVRサマーゲームは1万人以上が参加し、「ウォークアバウト・ミニゴルフ(Walkabout Mini-Golf)」や、色鮮やかな武器を使ってプレイヤーが決闘する1人称シューティングゲーム「ブラストン(Blaston)」のような人気ゲームが組み込まれている。
バーチャルアスレチックリーグは、こうした転向によって、パンデミック中も黒字を維持できた。CEOのライアン・バーニンガム氏は、カジュアルゲームファンとより熱心なアスリートのあいだで、VRゲームの人気が高いおかげでもあると考えている。「VRのeスポーツの方がダイナミックで、ある意味面白いのではないか。たとえば、人々は汗だくになってプレイしている。今はブラストンを運営しているが、背の高いプレイヤーの方が有利だ。プレイヤーが楽曲のビートを表すシンボルをバーチャルな剣で斬るリズムゲーム『ビート・サバー(Beat Saber)』のトッププレイヤーは皆、クロスカントリー選手のように見える。デジタルeスポーツと現実のスポーツを融合させたようなものだ」。
こうしたMRゲームのなかには、有名なeスポーツから直接ヒントを得ているものもある。12月には、ベルリンのゲーミングスペースLVL(Berlin gaming space LVL)が国連人口基金(UNFPA)と協力し、自動車を遠隔操作して、本質的に「ロケットリーグ(Rocket League)」の現実バージョンをプレイできるゲーム「ダス・レース・ゴール(Das Race Goal)」をリリースした。ダス・レース・ゴールは、いずれはUNFPAの資金調達イベントを支援するために、世界中に送られることになる。「誰もが遊べるゲームを作るのであれば、体験はフィジカルでもバーチャルでも構わない、それはインクルージョンだと思っている」とUNFPAのコミュニケーション担当アドバイザー、アルバロ・セラーノ氏は語る。
LVLのCEOを務めるトーマス・フェルガー氏によると、ダス・レース・ゴールは将来的には、アルカディアと同様に、バーチャルの障害物やパワーアップを組み込むようになるという。「『スーパーマリオカート』を体験するようなものだ」と、同氏は話す。
ブランドパートナーシップ
新しいタイプの競技会を構築するのに加えて、MRスポーツは、従来型スポーツでは決して成功しなかったマーケティング・アクティベーションのチャンスを十分にもたらす。アルカディアはすでに、このようなコラボレーションに投資し、7月にバーチャルアリーナ「スペース・ジャム(Space Jam)」を構築。そして公開が予定される映画『トロン3(Tron 3)』のような、ほかの適合するパートナーシップに注目している。「『フォートナイト(Fortnite)』向けに知的財産(IP)を用いたアクティベーションの可能性があるが、この新しいタイプのスポーツでは、映画の登場人物のスキンを付けたアバターを用意したり、避けている障害に映画の要素が取り入れたり、映画に登場する何かをベースにしたスポーツを生み出したりできる」とショルツバーグ氏は話す。
ポップカルチャーの共同広告に加えて、MRスポーツは、スポーツイベントでブランドとのパートナーシップを強化する機会を提供する。
2021年の全米オープンでは、テニスコートがスポンサーの社名に囲まれ、メルセデス(Mercedes)などのロゴがネットに記載されている。ARやVRのスポーツであれば、ボールが地面で弾んだときにロゴが四方にはねるようにしたり、コートチェンジのときにスポンサーの社名が拡大してコート全体に広がるようにしたりできる。バーニンガム氏によると、バーチャルアスレチックリーグには、2021年のVRサマーゲームの直前に大手スポンサーからアプローチがあったが、イベントにブランドを組み込むには遅すぎたという。「最近のVRサマーゲームでは視聴回数が500万回くらいだったので、現在、ノン・エンデミック(非ゲーム関連)のスポンサーを探しているところだ」とバーニンガム氏はいう。
「これぞ、Z世代のスポーツ」
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で様変わりした世界で、物理的なエンターテインメントとバーチャルエンターテインメントが融合し、ハイブリッド型イベントが標準になりつつある。人々をこうしたイベントに引き付ける競技とパフォーマンスも、徐々にハイブリッド型になりつつあるのは当然だ。
「長期的には、これがスポーツでの主流の分野になると確信している。メタバースのスポーツであり、Z世代のスポーツなのだ」と、ショルツバーグ氏は語った。
[原文:Mixed-reality sports companies are building the pastimes, and brand activations, of the future]
ALEXANDER LEE(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:)