今週のトピックは、Medium CEOのエヴァン・ウィリアムズ氏は4日(現地時間)、ブログでセールスやカスタマーサービス50人のレイオフを明らかにし、広告モデルからの撤退を発表したことだ。偽ニュースとWELQ問題の後のデジタルパブリッシングにとって重要な意味合いが含まれていそうだ。
今週のトピックは、Medium CEOのエヴァン・ウィリアムズ氏が4日(現地時間)、ブログでセールスやカスタマーサービス50人のレイオフを明らかにし、広告モデルからの撤退を発表したことだ。偽ニュースとWELQ問題の後のデジタルパブリッシングにとって重要な意味合いが含まれていそうだ。
Mediumはブログに近いパブリッシングプラットフォーム。インターネット上に低コストで高品質なパブリッシング装置をつくり、パブリッシャー(媒体社・個人)に提供するサービスだ。モバイル時代に対応した簡素なフラットデザイン、ソーシャル投稿、レコメンデーション機能などが特徴。著名テックジャーナリストのスティーブン・レヴィ氏が編集する「Backchannel」などの独自コンテンツも提供した(Backchannelは後にコンデナストに売却した)。著名人、専門家、ジャーナリストが意見を表明するプラットフォームとして人気を集めていた。
ウィリアムズ氏はブログサービスBlogger(Googleが買収)の創業者であり、その後Twitterを共同創業し、2012年にMediumを創業した人物。手がけたプロダクトは「ブログ」「140字短文」「汎用性の高いブログ」であり、一貫してオープンなコンテンツ流通の構築を目指していると言っていい。
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同氏のポストによると、2016年はMediumにとってベストな年であり、投稿数、読者数は毎年300%伸びていた。Mediumは「インターネット上のメディアの新しいモデルを定義するプラットフォームを構築する」というビジョンを創業時に掲げていた。
ただ、質の高いコンテンツが報酬を受け取れていないという問題があった。広告ドリブンモデルを改善していくためセールスやカスタマーサービスを雇った。しかし、ウィリアムズ氏はオンライン広告は「壊れたシステム」であり、仮に成功したとしても、壊れたものをスケールさせることになるだけだと気づいたという。インターネットで広告によるコンテンツの収益化は難しいと確信したと語っている。
ウィリアムズ氏は「私たちはアイデアを書いてシェアする人々は、単に数秒のアテンションを引き出す能力ではなく人々を啓蒙し、情報を伝える力に応じて報酬を受け取るべきだと信じている」と書いている。新しいモデルについてはまだ明らかにしていない。
これは米大統領戦に絡んだ偽ニュースサイトの騒動が関係した可能性がある。ウィリアムズ氏は11月下旬のポストで、マーク・ザッカーバーグが偽ニュースに関してFacebookの立場を説明している文章の横に偽ニュースサイトの広告が並んでいるキャプチャを示していた。
右の二つがESPNとCNNを偽る「偽ニュースサイト」だったという(ウィリアムズ氏のMediumから)
偽ニュース問題ではGoogle、Facebook、コンテンツレコメンデーションなどがその流通と収益化に資したことが問題になっており、ウィリアムズ氏は「コンテンツ+広告モデル」に疑念を感じた可能性がある。
GQとの2015年初頭のインタビューでは広告の取引通貨としてページビュー(PV)/月間アクティブユーザーという一元的なもの物差しではかることを批判。Mediumは滞在時間を重視しているが、必ずしも「滞在時間の長さ=コンテンツの価値」ではないとも語っていた。
日本でもDeNAが運営する健康情報サイト「WELQ」で同様の問題が生じている。ウィリアムズ氏が今後どう質の高いコンテンツに報酬を与える仕組みを構想するかは注目に値する。Mediumの存在は、デジタルコンテンツをGoogleやFacebookのサーバーが提供するか、それとももっとディセントラライズド(非中央集権的)な形で提供されるかという点にも関わっている(伊藤譲一氏とウィリアムズ氏の会話)。
以下、今週の他のトピック。
■Huluのネットテレビは月40ドル以下
有料のAbema TVのような「ケーブルテレビストリーミング」の競争が始まった米国。Hulu CEOのマイク・ホプキンス氏は同サービスの価格を40ドル以下に抑えると決めたと明らかにした。現状の参入者はSling TV、Sony’s Vue、AT&T’ DirecTV Now。Amazonにも参入観測がある。
■AT&Tがテレビストリームで5Gテストへ
AT&Tがワイアレス5G通信を、自社の「ケーブルテレビストリーミング」サービスとなるDirecTV NowのためにテストするとAdageが報じた。Intel, Ericsson and Qualcommなどのパートナーとテキサス州オースティンの家庭に対し行う。
■ニューヨーク・タイムズがAR
ニューヨーク・タイムズはIBMがスポンサーする新アプリで拡張現実(AR)を行う。iTunesとGoogle Playで無料で提供する予定。360度動画などVRには関心が高かったがARは珍しい。
■KDDIのメディア広告ユニット、Supershipなどが合併
KDDI傘下のSyn.ホールディングス子会社であるSupership、アップベイダー、Socketの3社は、2017年2月1日(予定)をもってSupershipを存続会社とし合併する。Supershipはスケールアウト、nanapiなどを合併した会社で、KDDIは今後、どのような形で広告領域を展開するか。
■Apple、孫正義ファンドに10億ドル
Appleがソフトバンクが設立する「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」に10億ドル(1150億円)を投じたことを認めた。同ファンドは孫正義氏がドナルド・トランプ氏と会談し、設立で合意したもの。ファンドの運営場所は英国。シリコンバレーはEUのルールの届かないブレグジット後の英国に興味をもっている?
■アドテクVCが下火、業界の寡占傾向で
2016年はアドテク企業への出資が過去5年で最低とFTが報じた。ベンチャーファイナンス額は2015年比17%減。GoogleとFacebookの2社による寡占が要因とみられる。
Written by 吉田拓史
Photo by Christopher Michel – Ev Williams, CC BY 2.0, Link