About.comは、自らの解体作業の真っ最中だ。パブリッシャーたちは、バーティカルサイトによって広告主との交渉がより円滑に行くことを期待している。ひとつのトピックに集中しており、ライフスタイル中心のストーリーを提供することで、ニュースよりもコンテンツの賞味期限が長いと考えているのだ。
About.comはもう少しで20歳になろうとするところだった。意識的にインターネット1.0なポータルサイトで有り続けてきた、このサイトは現在、自らの解体作業の真っ最中だ。
検索エンジンを駆動とする、総合商社的なサイトから丁寧に経営される専門ブティックの集まりへと変化しようとしているのである。これは規模を最優先事項としてきた戦略から離れようとする、彼らの長期戦略だ。
もちろん、メディア企業はいまだに規模を追いかけている。それはAbout.comも同じだ。しかし、ひとつのサイトでオーディエンス全体をカバーしようとするのではなく、ひとつのトピックを掲げたバーティカルサイトを立て続けにローンチするようになった。トピックは健康、テクノロジー、食といった、広告に向いているものが多い。
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スリム化する大手サイト
この動きは業界全体で見られている。この数カ月間に、NBCニュースは3つのバーティカルを立ち上げた。マック(Mach)、ベター(Better)、そしてシンク(Think)だ。ニューヨーク・タイムズは昨年、クッキング(Cooking)、ウェル(Well)、そしてスマーターリビング(Smarter Living)といったバーティカルを複数立ち上げ、そしてテクノロジーとガジェットのレビューサイトであるワイヤーカッター(The Wirecutter)を買収した。ハフィントンポストは長年、ハフポのブランドの下に新しいセクションを追加するという形で拡大してきたが、彼らもついにソーシャルを念頭においた健康トピックのブランド、ザ・スコープ(The Scope)をローンチした。さらに10代の女子をターゲットにしたニュースレター、ザ・ティー(the Tea)も開始している。
こういったサイトの台頭はひとつのことを示している。人々はニュースと情報を探すとき、専門化しているものを求めているということだ、と語るのはAbout.comのCEOであるニール・ヴォーゲル氏だ。このことをヴォーゲル氏以上に理解している人はいないだろう。彼は過去数年間、自身のポータルサイトをバーティカルサイトへと刷新しようと取り組んできたのだから。彼は2016年に3つのバーティカル、ベリーウェル(Verywell)、ザ・バランス(The Balance)、そしてライフワイヤー(Lifewire)をローンチし、今年に入ってザ・スプルース(The Spruce)とトリップサビー(TripSavvy)のふたつをローンチ予定だ。後者ふたつが公式に開始されれば、スケールを追求してきた検索エンジンを中心に据えたビジネスモデルの典型であったサイトがその長い歴史に幕を下ろすことになる。
「About.comが、40の異なる分野におけるエキスパートであると、誰も信じなかった」と、ヴォーゲル氏は述べる。
スリム化させる理由
このような転換は、ほかのメディアも通ってきた道である。アメリカにおいてテレビは地上波放送からケーブルへの転換を経験している。雑誌は全般的なトピックを扱うものからニッチなマーケットへの転換を遂げた。インターネットが成熟するなかで、かつて生命力としてウェブを動かしていたものはどんどんと消えていっている。バナー広告は20年前と比べて、その存在を15%にまで縮小した。パブリッシャーはそんななか、CPMの低いプログラマティック広告からなんとか離れようとあらゆる手段を試している。スポンサードコンテンツやネイティブ広告そして動画広告をなんとか広告主に売ろうとしているのは、そんな流れだ。
パブリッシャーたちは、バーティカルサイトによって広告主との交渉がより円滑に行くことを期待している。ひとつのトピックに集中しており、ライフスタイル中心のストーリーを提供することで、ニュースよりもコンテンツの賞味期限が長いと考えているのだ。
ニュースサイクルにとらわれていると、クリエイティブなことを実行することが難しい。またクリエイティブなことをしてもオーディエンスの注目を集めるのが難しい。バーティカル戦略によって、それよりも若干落ち着いた環境を広告に与えることができるのだ」と、NBCニュースのデジタル部門シニア・バイス・プレジデントであるニック・アシェイム氏は言う。
スリム化戦略の問題点
とはいえ、これまでやってきたことに新しい名前をロゴをくっ付けるだけでバーティカルサイトが出来上がるわけではない。サイトをちゃんと売り上げるためには専門のセールス戦略とチームが必要になる。しかし、バーティカルを運営するメディアの多くは、この手順をまだ実行できていないようだ。About.comがローンチした新しいサイトは、それぞれ異なるマネタイズ戦略をもっている。しかし、ほかのパブリッシャーたちは、既存のセールスチームが別案件として扱っているだけだ。
しかし、それはまだオーディエンスの規模が小さいからかもしれない。長年に渡って検索エンジン上で培ってきたドメインに対する信頼性をAbout.comは擁しており、それをドメインマッチングで活用することができる。しかし、ほかのパブリッシャーたちによる新しいサイトの多くは、新しいURLをもとのURLのなかに作ってしまい、オフサイトでのリーチを拡大しようとしている。
オーディエンスが同時にいくつも抱えている目的を達成させる方法は複数ある。それに広告主たちもどんどんと気付きはじめている。「リーチしたいリーダーを特定し、さまざまな方法でそのリーダーとコンタクトすることでもスケールを達成することができる」と、デジタスLBi(Digitas LBi)の最高コンテンツ責任者スコット・ドナトン氏は語る。
さらにニッチをめざす
健康、テック、そして食と言ったトピックですら、カテゴリーとして広すぎるようになってきた。パブリッシャーのなかにはさらにカテゴリーを狭めるものも出てきている。ハフィントンポストはFacebookでアイデンティティをベースにしたエディトリアル・ブランドを構築しようとしている。内向的な性格の人々を対象にしたキャンセルド・プランズ(Canceled Plans)、ミレニアル世代のイスラム教徒のためのコミュニティであるトゥモロー・インシャラー(Tomorrow Inshallah)がその例である。健康分野では糖尿病や乾癬といった特定の病気に特化したサイトも現れているとヴォーゲル氏は言う。
まだ現段階ではどれが成長するか予測するのは難しい。しかしこういった動きの原動力となっている気付きは明らかだ。「ひとつのサイトがすべてをカバーする、というアプローチはもう通用しない」と、ドナトン氏は言う。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)