収益目標に達しなかった企業が、リストラを展開する。そんな時期がやってきた。メディア業界のこういったホラー話はレガシー、デジタル両方のパブリッシャーが体験するものだ。広告側でも、デュオポリーの状況によってデジタル広告支出の3分の2が吸い取られている。
収益目標に達しなかった企業が、リストラを展開する。そんな時期がやってきた。
収益で5%不足となったリファイナリー29(Refinery29)は全体の10%に相当する40人のスタッフを解雇。ベライゾン(Verizon)子会社のオース(Oath)は、収益の増加は見られず、2020年目標として掲げた大きな収益ゴールには届かないだろうと報告した。コンデナスト(Condé Nast)も昨年の1億2000万ドル(約135億円)と報じられた損失を削減するために営業部門のリストラを大量に行っている。
メディア業界のこういったホラー話はレガシー、デジタル両方のパブリッシャーが体験するものだ。広告側でも、デュオポリーの状況によってデジタル広告支出の3分の2が吸い取られている。従来のメディアセラーも、衰退しつつある彼らのレガシー側のビジネスをデジタル側のビジネスで補填できていない。また、デジタル側も広告への依存を減らすことは出来ていない。ギズモード・メディア・グループ(Gizmodo Media Group)や元タイム社(Time Inc.)、コンデナスト(Condé Nast)による雑誌タイトルなど、メディアプロパティは供給過剰な状況だが、今日において広告でサポートされているメディアは人気ではないのだ。
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「市場には飢えが存在」
「新しいメディアでない限りは、指数関数的な成長は起きない、という現実が理解されてきている。グロースをマネタイズして、新しい収益ラインを追加する。それをどうやったらいいか? 簡単な答えは存在しない」と、パブリッシャー出身で、現在はメディア・エージェンシーノーブル・ピープル(Noble People)のプレジデントであるトム・モリッシー氏は語る。「カンファレンス・ビジネスの参入障壁は高く、マージンは低い。広告を上下逆さまに出しても上手くいくような時代があった。いまは昔よりもはるかに複雑になった」。
景気後退に対する不安や、不安定な政治、もしくはほかの要素であれ、今年は広告セラーにとって厳しい年であった。そのためこの第4四半期はいつもよりも深刻な様相を呈していることになる。「私が話した人は全員が、第3四半期が最悪だったという」とデジタルセラーのひとりは語った。エージェンシーとの交渉の場や、公になっている高レベルのスタッフの離職において、企業たちの苦しみが明らかだ。
「市場には飢えが存在している」と、メディアソシエイツ(Mediassociates)のマーケティング兼コンテンツ部門エグゼクティブ・バイスプレジデントであるベン・カンズ氏は語る。「以前ならなかったような、大手のパブリッシャーたちからの中規模エージェンシーに対する注目が増えている。これは会社もしくはプラットフォームがプレッシャーにさらされていることを意味する」。
「業界全体の責任だ」
PHDのパブリッシュド・メディア部門グループ・ディレクターであるジョン・ワグナー氏は、「非常にアグレッシブになっている。交渉や値段設定においては少しだけ柔軟さを見せているか、そうでなければたくさんの悲しい状況が生まれている。『どこで失敗したのか?』と人々が尋ねる電話をたくさん受け取っている。提案依頼書(RFP)を勝ち取れなければ、さらに多くの正当化のための理由が必要となる」という。
デジタルメディアに関して言うと、ビジネスとしては良いが、ベンチャー・キャピタルのバッカー(投資家)たちが設定する成長の期待値があまりにも非現実的だ、という意見がある。代表的な例としてはデジタルの申し子であったマッシャブル(Mashable)が、かつての企業価値の5分の1である5000万ドル(約56億円)で売却された件だ。
「ベンチャーキャピタルと、何であれ頼っていたソーシャル・メディア・ネットワークに依存してしまったことの、業界全体の責任だ。コンテンツで金持ちになれると誰しもが思っていた」と、とあるベンチャーキャピタルに支援されたメディアのセールス・エグゼクティブのひとりは語った。
「いまは確実に厳しい」
現実の波はここにも強く訪れている。ここ3年の間、メディアへと流れ込むベンチャーキャピタルの資金は一定に保たれてきた(ピッチブック[PitchBook]による2018年第3四半期ベンチャー・モニター報告書によると、2017年のベンチャーキャピタルからの資金は17億ドル[約1924億円]であったのに対し、2018年9月30日の段階では13億ドル[約1471億円]となっている)が、メディア側からは、ベンチャー・キャピタルの忍耐が切れ始めているという声が上がっている。
ベンチャーキャピタルの資本によって支援されているメディア企業に長年務めているスタッフのひとりは、(VCたちが持っている)手綱は短くなってきているという。彼の会社はまだ利益を出せていないなか、追加で資金調達をしようとしたが、ベンチャーキャピタルからの救いの手は得られなかった。利益を出すために結局、スタッフを解雇することになったとのことだ。
「投資家は会社が利益を出せる方向に向かっていることを確認したい。5年前であれば彼らが見たいのはグロースだった」と、この人物は言う。「いまは確実に厳しくなっている。真の価値がないところで資金調達はできない」。
Lucia Moses(原文 / 訳:塚本 紺)
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