デジタルオーディオが躍進を続けている。イーマーケターの予測によると、2020年に勃発した新型コロナウイルス禍のさなかも堅調な成長水準を維持した結果、この分野の広告支出は2021年には55億9000万ドル(約6229億8000万円)に達する勢いだという。
2020年までの15年間、米国のラジオ放送の広告収入は、横ばいまたは微減の状況が続いてきた。しかしイーマーケター(eMarketer)の調べによると、2020年には28%減の100億ドル(約1兆1000億円)に落ち込んだ。今後数年間は、この水準で推移するものと予想される。
その一方で、デジタルオーディオは躍進を続けている。同じくイーマーケターの予測によると、2020年に勃発したコロナ禍のさなかも堅調な成長水準を維持した結果、この分野の広告支出は2021年には55億9000万ドル(約6229億8000万円)に達する勢いだという。この成長の牽引役となったのはポッドキャストだが、ほかにもSpotify(スポティファイ)やパンドラ(Pandora)をはじめとする音声ストリーミングサービスの継続的な拡大や、新たなプラットフォーマーの市場参入なども大きな後押しとなった。
「オーディオの黄金時代がやってきた」。そう話すのは、デジタルオーディオプラットフォーム、チューンイン(TuneIn)のリッチ・スターン最高経営責任者(CEO)だ。チューンインは7400万人のリスナーを抱え、アイハートラジオ(iHeartRadio)のような従来的なラジオ放送局が扱うコンテンツのほか、NFLの試合やCNNニュースなども配信している。
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ホライゾンメディア(Horizon Media)の音声クリエイティブ部門であるワーズワース・アンド・ブース(Wordsworth + Booth)のプレジデント、トニー・メヌート氏も、デジタルオーディオ分野は現在絶好調だという意見に同意を示す。「たとえばTikTokにしても、その人気を牽引しているのは音楽だ。音楽がなければ意味がない」。
デジタルオーディオの躍進
オーディオメディアには長らく大きな進展がなく、ラジオも収入面での停滞に見舞われていた。「我々はデジタル時代に合わせて、ラジオを一(いち)から作りなおそうとしている」とスターン氏は話す。「ラジオという媒体そのものを変えるわけではない。ラジオはいまも多くの人々に愛されている。変えるのは配信と収益化の方法だ。そしてプラットフォーマーの立場から、真の意味でのグローバル化とデジタル化を推進したい。このような意識こそ、この業界に長らく欠けていたものだと思う」。
新興勢力のなかでも、とくに威勢が良いのはポッドキャストだ。その魅力のひとつは、ごく自然な形で広告を埋め込むことができる点にある。ほとんどの場合、広告メッセージは番組のパーソナリティが読み上げる(もちろん限界もあるが、詳しくは後述する)。逆にマイナス要素を挙げるなら、バイヤーやプランナーにとって、効果測定やユーザビリティは必ずしも十分でない。さらに、規模に欠ける点も不安材料といえるだろう。そこに登場したのがバックトラックス(Backtracks)のような企業である。
「テニスをテーマとするポッドキャストで、テニスラケットのテクノロジーに関する広告が挿入されても、それは決して場違いではない。むしろリスナーが興味をもって耳を傾ける話題だろう」。そう話すのは、バックトラックスのジョナサン・ギルCEOだ。バックトラックスはポッドキャスト広告とその分析を行うテクノロジープラットフォームで、最近、IABテックラボ(IAB Tech Lab)の認定を受けた。「(テニスのポッドキャスト番組でラケットの広告を流すのは)文脈的に適切だ」とギル氏は話す。さらに驚くべきことに、ギル氏によると、いくつかのポッドキャスト番組が広告の全廃を試みたが、広告がないことに対してリスナーから苦情が寄せられたため、広告を戻さざるを得なかったという話を耳にしたことがあるという。
ギル氏はポッドキャストのメリットについて、こう説明する。「音声番組にタイムシフト機能を導入すれば、特に広告側では、ユーザー調査に基づく効果測定よりも正確で精密な計測が可能となり、優良なデータの取得、広告費の削減、ターゲティング能力の向上というスリーポイントシュートを決められる」。
いまや熱い注目を集めるポッドキャストだが、新たな広告の可能性を模索する必要はある。番組のパーソナリティがマーケティングメッセージを読み上げるという方式は、拡張性が乏しいからだ。ギル氏はさらにこう提案する。「広告主が提供し、パーソナリティが読み上げる広告をもっと形式化して、広告主が最適なフォーマットを選択できるようにするべきだ。パブリッシャーにとっても、承認や設定が容易になる」。
広告インフラとしては未成熟
他方、地上波ラジオは全力でデジタル化に取り組んでいる。しかしこの業界は、ローカル広告に大きく依存する従来的な基盤の縮小に苦しむ一方で、モバイルアプリの運営などによるデジタル化を推進しており、一種の板挟みに陥っている。
「オーディオ界の現状は、光と闇、希望と絶望の相克を描く、チャールズ・ディケンズの長編小説である『二都物語』を彷彿させる。デジタルも地上波も、希望もあれば課題も見られる」とチューンインのスターン氏は話す。「ポッドキャストは、多くのリスナーとエンゲージメントを獲得しているが、広告インフラとしては未成熟といわざるを得ない。対照的に、ラジオについては広告媒体としてのフリクエンシーやリーチがよく分かっている一方、十分な数のリスナーを集めるのに悪戦苦闘している」。
「メディアバイヤーに話を聞けば、ポッドキャストについてはまだ分からない部分が大きいと答えるだろう」と、スターン氏。「学びの遅れを取り戻さなければならない。従来のラジオ広告のバイヤーと、デジタルオーディオ広告を求めるバイヤーは同じ人々ではないのだ」。
「プランナーやマーケターは、いまだに、オーディオメディアをテレビその他のデジタル機器の後づけか何かのように考えている」。そう指摘するのは、W+Bのメヌート氏だ。「最大の問題のひとつは、彼らがこのメディアの使い方を分かっていないことだ。テレビのコンテンツをそのまま再利用していたり、広告枠の時間を賢く使っていないケースが多く見られる。その反面、正しい使い方さえすれば、非常に深いレベルでリスナーの感情に訴えることができる。なによりも、ラジオはいまだに全米の90%以上の消費者にリーチする媒体であり、そのほとんどがミレニアム世代であることを忘れてはならない」。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)