覚えているだろうか。高校のフットボールやバスケットボールの試合をどれだけ楽しみにしていたか。地元チームの応援にどれだけ熱狂したか。メディアエージェンシーやメディア企業、あるいはブランドたちのあいだで、この情熱をテコに将来的な消費者の支持を勝ち取ろうという動きが活発化している。
覚えているだろうか。高校のフットボールやバスケットボールの試合をどれだけ楽しみにしていたか。地元チームの応援にどれだけ熱狂したか。メディアエージェンシーやメディア企業、あるいはブランドたちのあいだで、この情熱をテコに将来的な消費者の支持を勝ち取ろうという動きが活発化している。
実際、アメリカにおいて高校スポーツに関するメディアの扱いや広告は、20年前の大学スポーツの状況を彷彿(ほうふつ)させる。今日の「マーチマッドネス(3月の熱狂)」やカレッジボウルをめぐるマーケティング活動を見ても、この傾向は明らかだ。
しかし、それはまだ地域的なビジネスの域を出ない。持株会社傘下の大手メディアエージェンシーの一部に取材したところ、高校スポーツを組織化する試みはいまだトップクラスのナショナルクライアントを引きつけるレベルには達していないとして、どのエージェンシーからもコメントは得られなかった。確かに、高校スポーツの広告収入に関しては、その総額を示す統計を見つけることすら難しい。あえて推測するなら、現時点ではせいぜい数億ドル(数百億円)規模といったところだ。しかも現状では、高校スポーツ協会とマルチメディアの権利契約を結ぶことが、すべての州で認められているわけではない。
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それでも、メディアでの扱いをより洗練されたレベルに引き上げようとする企業の試みはとまらない。高校スポーツを扱うメディア企業やマーケティング企業の多くは、実は10年以上前から存在しており、その代表格がプレイオン!スポーツ(PlayOn! Sports)やプレイフライ・スポーツ・プロパティーズ(Playfly Sports Properties)などだ。実際、トヨタの地域販売店が高校スポーツ協会と連携したり、国防総省がプレイフライを通じて学業やスポーツに秀でた子どもたちの採用活動を展開するなど、大手の広告主の注目も集まりはじめている。
情熱や忠誠心を効果的に活用
メディアエージェンシーのあいだでは、大規模なフォロワーは持たないが、ファンとの関係が深いインフルエンサーとの連携に注力する傾向が強まっている。同様に、広告バイヤーも、高校スポーツへの情熱や忠誠心を効果的に活用する道を模索している。
「もっとも重要なポイントは、スポーツを応援するコミュニティ、家族、サポーターたちとのつながりを築けることだ」と、サーチ・アンド・サーチ(Saatchi & Saatchi)のマネジメントディレクター、シドニー・ラスロップ氏は述べている。ラスロップ氏は、オレゴン州やアイダホ州などで、高校スポーツ協会とトヨタ自動車の販売店協会のあいだに立って、両者の提携交渉を支援してきた人物だ。「これは高校スポーツがもたらす新しい機会の一例だ。ブランディングや広告メッセージを押しつけるのではなく、高校スポーツにまつわるエクスペリエンスを強化できる。我々にとって、これはコミュニティ施策にほかならない」。
こうしたスポンサーシップ契約の多くは、従来的なメディア露出にとどまらない。ラスロップ氏によると、トヨタ車のキーフォブ(リモートキー)を見せると駐車料金が無料になるとか、良い席で試合を観戦できるとか、あるいは販売店のソーシャルチャネルで毎週、最優秀の学生アスリートを祝福するなど、「地元のディーラーがそれぞれの地域社会で家族や子どもたちをサポートできる」という。「私の仕事は、このような活動を、単なる広告やコマーシャルにとどまらず、イベントやアクティベーションやエンゲージメントのレベルに引き上げることだ」とラスロップ氏は話す。なお、同氏によると、クライアントの支出が25%増えたというが、具体的な金額には言及しなかった。
特殊なメッセージを発信する場に
現在、ペンシルヴァニア州は、高校スポーツ協会がマルチメディアの権利契約を結ぶことを認めていない。しかし、フィラデルフィアのエージェンシー、ブラウンスタイン(Brownstein)でプレジデント兼最高経営責任者(CEO)を務めるマーク・ブラウンスタイン氏は、そのような契約が可能なら、クライアント(保険会社のNJMや配車サービスのリフト[Lyft]などを含む)に勧めるだろうと述べている。「あれほど強い情熱と妥当な価格でつながることができる」とブラウンスタイン氏は話す。「しかも、学校やアスリートを支援することにより、地域社会への貢献を明確に示すことができる」。
プレイフライのバイスプレジデントでエグゼクティブディレクターを兼務するチャック・シュミット氏によると、国防総省との契約(金額への言及は避けた)は、まずワシントン州で開始された。(プレイフライはオレゴン、アイダホ、カリフォルニア、アリゾナ、ネヴァダ、ニューメキシコ、ルイジアナ、ミシガン、およびヴァージニアの各州で、高校スポーツ協会との広告契約も成立させている。)基本的には、精鋭部隊向けの新兵採用のツールとして機能している。シュミット氏によると、銃器、酒類、避妊具など、広告禁止のカテゴリーもあるという。
シュミット氏は、昨秋、ルイジアナ州の医療機関、オクスナーヘルス(Ochsner Health)が結んだ複数年契約にも関わった。このケースも単なる広告取引ではなく、インターンシップの実施、医療スポーツ諮問委員会の設置とナレッジの共有のほか、新型コロナウイルス禍の際には学生アスリートにメンタルヘルスサービスを提供するなど、多面的な契約となった。
「ルイジアナ州の重要な市場で、医療機関として成長してきた我々にとって、またとない好機だと考えた。ルイジアナ州の高校では各種の選手権大会が開かれ、ネットワークもある。我々としても、十分な相乗効果を期待できるものだった」と、オクスナーヘルスで企業スポンサーシップを統括するデイヴ・ミューラー氏は述べている。「この契約により、我々はブランドメッセージを継続的に発信し、これら主要な大会の中心的な存在として、コーチやアスレチックディレクター、アスリートの保護者たちから年間を通じて注目を集めることができる」。
「これは単なる金の問題ではない」
プレイフライのシュミット氏は「今後2、3年は、継続的な収益増が見込まれる」と述べている。「さまざまな投資をおこない、アプリやウェブなど、テクノロジーの面で各州を支援してきたからだ。学校やスポーツ協会に収入源を提供するだけでなく、スポーツの管理運営の効率化も支援している」。
プレイフライ・スポーツ・プロパティーズの新プレジデントに就任したクリスティ・ヘッジペス氏は、自身も高校・大学時代にバスケットボール選手として活躍した人物だ。「[資金繰りに苦しむ学校は少なくないが]これは単なる金の問題ではない。重要なのは、問題解決に寄与する製品やサービスを提供できる企業パートナーと学校を適切にマッチングすることだ。そしてこの分野は未開拓の領域だと考えている」。
MICHAEL BÜRGI(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU