ここ数年、メディアビジネスは「受難の年」を迎えることが定例になってきている。収益面だけをみると、米国のパブリッシャーはそれほど悪くない。2023年第2四半期の場合、広告事業こそ2022年に比べるとやや落ち込んでいるものの […]
ここ数年、メディアビジネスは「受難の年」を迎えることが定例になってきている。収益面だけをみると、米国のパブリッシャーはそれほど悪くない。2023年第2四半期の場合、広告事業こそ2022年に比べるとやや落ち込んでいるものの、サブスクリプション事業で一定以上の成果を得ているニュースパブリッシャーが多い。さらには第3四半期以降は広告収益増加が期待できるとする予測もある。
しかし、クォーターごとの収益の増減など、いま現在メディアを取り巻く膨大な問題が複雑に作用して現れた現象に過ぎない。加熱された鉄板の上に立っているのに、「Q4は期待できそうだからよかった」と安心している場合ではないのだ。
例えば、MFA(made-for-advertising)サイトの問題だ。ついこの間まで、ほかの広告よりも人目につきやすく、しかも価格の安い広告枠を大量に用意できるパブリッシャーは重宝されていた(一応いまでもされてはいる)。トラフィックを有料で獲得していても特に文句は言われていなかったが、「MFAサイトの高いビューアビリティなど虚栄の指標」とされその存在は否定されるようになったのだ。そして、悩みの種はMFAだけではない。
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1. ブランドセーフティ
いまや多くのマーケターはよほど明るく心温まるものでないかぎり、ニュースのそばに広告を提示すること忌避しており、すべてのニュースをブロックするという極端な手段を取る広告主も存在する。パブリッシャーたちは「ブランドセーフティがニュースビジネスの衰退の一因になる」と声高に訴えているものの、ブランドセーフティフィルタはもはやキャンペーンにデフォルトで組み込まれている機能だ。
一部のエージェンシーは広告主を説得し、厳格すぎるニュースブロッキング手段を緩和させるといった取り組みを進めているものの、一般化しているとは言い難い。ブランドセーフティからブランドスータビリティへの転換も、目に見えるほどの変化にはなっていないと、デンマークのパブリッシャーであるエクストラブレード(Ekstra Blade)で広告販売および技術担当ディレクターを務めるトーマス・ルー・リッツェン氏は指摘している。
2. AI
ブルームバーグやニューヨーク・タイムズなどの大手パブリッシャーがオープンAIのウェブクローラーによる自社サイトへのアクセスをいち早くブロックし、コンテンツがAIに収集されるのを防ごうとしているが、「意思表示以上の効果があるかは疑問」と指摘するパブリッシャーは多い。そもそもオープンAIは、AIツールやシステムのLLMを訓練するためにウェブクローラーを使っているテクノロジー企業のひとつにすぎない。Googleやマイクロソフトのウェブクローラーは、パブリッシャーのコンテンツをインデックス化し、Google検索やBingの検索結果に表示するのに不可欠なものだが、これらのウェブクローラーは同時に自社のLLMやAIチャットボットを訓練するためのコンテンツも収集している。
そして、パブリッシャーはこれらのクローラーまでブロックしたいとは考えていない。なにより、大半の中小パブリッシャーは、大手テクノロジー企業とコンテンツの使用について交渉できるほどの力を持っていない。とあるパブリッシャー幹部は、「各社のウェブクローラーをブロックしたら、ツールの使用を禁止されないだろうか? ツールは動かなくならないだろうか?」と不安の声を漏らす。
3. Facebook
ソーシャルメディアとパブリッシャーの関係は冷え込んでいる。少なくとも、トラフィック源としての期待はもはや存在しない。今年5月にFacebookが行ったアルゴリズムの変更は、パブリッシャーサイトへの参照トラフィックを大幅に減少させた。メタはあくまでも「バグ」であり今後回復するとしているが、4カ月以上経過した現在、特に回復した兆候はない。
Facebookに限った話ではないが、ソーシャルメディアはパブリッシャーへの投資を削減している。Facebookの場合、パブリッシャーのニュース記事をアプリ上で迅速に読み込むインスタント記事機能を廃止し、10月上旬にはニュースパートナーシップ担当責任者であるキャンベル・ブラウン氏が退社している。
一方でFacebookがトラフィック源として重要な位置を占めているパブリッシャーも少なくはなく、懸念を示しながらも関係は維持し続けるというスタンスが多い。ただし、一部のパブリッシャーは、Facebookをはじめ主要なソーシャルメディアに依存しない戦略の多様化を模索したり、非Facebook系プラットフォームとの関係構築を強調する意見も出ている。
主な数字
1000万ドル(約14億8364億円):あるMFAサイトが得ている広告収益額。ただし、このうち900万ドル(約13億円)はトラフィック獲得コストに費やされるという。
90%:某ストリーミングサービスがブランドセーフティツールの独自フィルタリングを実施した結果、減少したニュースパブリッシャーの広告収益。事実上ほぼすべての「ニュース」がブロックされたため。
62%:2022年8月から2023年8月にかけて減少した、世界約30の主要ニュースサイトへのFacebookからの参照トラフィック。多いところでは84%のマイナスを記録している。