ブロックチェーンはまだ初期段階にあるが、その魅力は、多くのメディア企業を惹きつけている。米DIGIDAYは複数のパブリッシャーへ、どのようにベンダーについて精査・調査しているのか、そしてブロックチェーンの不透明な世界を切り抜けるパートナーとして候補企業にどのような質問をしているのかを尋ねた。
ブロックチェーンはまだ初期段階にある。だが、その魅力は、非代替性トークン(NFT)の販売から暗号通貨による支払いの受け入れまで、この技術を使って提供できるあらゆるサービスやツールを試したくなるほど、多くのメディア企業を惹きつけている。
しかし、ドットコムブームと同じく、この新しいテクノロジーも、怪しげなセールス企業に悩まされている。彼らは、食いつこうとする人なら誰にでもベーパーウェアを販売して、暗号資産の分野への新規参入者を利用しようと手ぐすねを引いて待っている。したがって、ブロックチェーンで積極的に活動する準備ができているメディア企業にとって、ベンダー候補にどのような質問をしたら良いかを知り、適切なチームメンバーをそうした会話に参加させることは、パートナーを評価する際の最大の強みになる。
米DIGIDAYは複数のパブリッシャーへ、どのようにベンダーについて精査・調査しているのか、そしてブロックチェーンの不透明な世界を切り抜けるパートナーとして、候補企業にどのような質問をしているのかを尋ねた。以下に、次のブロックチェーンビジネスミーティングで使える質問とアドバイスを集めた。
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重要事項:
- パブリッシャーは、ブロックチェーンの分野に参入して日が浅いベンダーは避けるべきである
- ベンダーがどのブロックチェーンを扱っているかを知ることは、選択の妥当性を引き上げる要因となり、たとえば深く掘り下げて調べることで隠れたコストを明らかにできる
- パブリッシャーは、ブロックチェーンや暗号資産を取り扱う会社を広告主として評価する準備も必要だ
自身の会社はこの分野に参入したばかりかもしれないが、パートナーは長くこの業界にいるプロでなければならない
ターナースポーツ(Turner Sports)のデジタルリーグ事業運営・成長・革新部門シニアバイスプレジデントのヤン・アディジャ氏は、2017年以来、ブロックチェーンを自身の会社に適用する方法を考えてきた。しかし、社内にはフルタイムおよびパートタイムの社員が12人しかいないため、このイノベーションを実装するにはサードパーティ企業やエンジニアとのパートナーシップがきわめて重要になってくるという。
彼の最初の質問は?
「当社は参入間もないため、売り込みにばかり熱心な人々をどうしても警戒してしまう。彼らはまだ何も成し遂げていないのに、実際の仕事を始める前に夢ばかり語る。私が話し合いたいのは仕事の内容についてだ」とアディジャ氏は述べ、さらに、こうした売り込み企業は起業後1年足らずのものが多いと付け加えた。
アディジャ氏がパートナー候補に尋ねるその他の質問:
- これまでの実績
- 現在、何を構築して、それに取り組んでいるか?
- ブロックチェーン技術における既存の問題点について、自社またはクライアントのために開発している技術やツールはあるのか? そしてそれらは問題解決に実際に寄与しているのか?
- ほかにクライアントはあるのか? ある場合、そのクライアントとどのくらい長く取り引きしているのか?
- 候補企業がツールを構築している場合は、ツール周辺技術を掘り下げて、彼らが宣伝しているものと齟齬がないかを確認する
- 候補企業が自社のビジネスにおけるデータおよびデータ保護についてどのように考えているか? また候補企業が、依頼主の遵守するデータプライバシーの法律や慣行に準拠しているかどうかを確認しなければならない
- 依頼主の法務チームが暗号資産の分野に精通しているなら、そのチームにCYA(隠蔽工作)に関するいくつかの質問をさせて、候補企業との契約が依頼主にとって有益か否か、そして彼らがマネーロンダリングや収益の不正操作を行い一部をかすめ取るような行為をしていないかを確認する
独自の暗号通貨またはトークンを持っているベンダーには気をつける
「これは常に注意すべき点だと思っている。彼らはユーザーを使ってトークンの価値を上げることにしか興味がないように見える。だから非常に慎重に検討すべきだ」とアディジャ氏は語る。そこでアディジャ氏は、彼らのトークンエコノミクスを理解するために以下のような質問をするようにしている。
- トークンの価値上昇の背後に何があるか?
- どのように金銭的分配がなされるか?
つまり、ベンダーが販売しているトークンまたは暗号通貨のユニークな点は何か? それはニッチな利益団体を対象としているのか、それともより大きな金融プラットフォームに結びついているのか? あるいは、それはミームコインであり、ジョークに投資したがる人々のみをその対象としているのかもしれない(もしミームコインならば、当然疑り深くなるべきだ。特にそれらのトークンの所有者がすべての収入を持って突然消える可能性がある場合には、と彼は警鐘を鳴らす)。
金銭的分配に関しては、運用費をカバーするために購入時に支払う料金があると予想される。一般に、コインのメーカーが購入されたトークンからある程度の取引収益を生み出すこともあるが、それが法外な額である場合、危険信号であることは言うまでもない。
どのブロックチェーンが使用されているかに注意
ブロックチェーンによっては、ほかのブロックチェーンよりも表現力があり、開発者はプラットフォームでよりクリエイティブなことができると語るのは、アドバンスローカル(Advance Local)の社内技術およびメディアインキュベーターであるアルファグループ(The Alpha Group)の研究開発責任者デイビッド・コーン氏だ。たとえば、一部のブロックチェーンはNFT作成が可能だが、ほかのブロックチェーンではできない。
一部のパブリッシャーはこれに関心があり、ベンダーがどのブロックチェーンを利用しているか(つまり、どのテクノロジーによって製品やビジネスが推進されているか)を知りたいと考えるパブリッシャーもあれば、ポピュラーなブロックチェーンのひとつだと知るだけで満足するというケースもあるとコーン氏は語る。「もちろん、そのブロックチェーンが依頼主の活動にとって妥当なものか否かを確認すべきだ。ブロックチェーンとは何か? ほとんどの人にとって、それはさほど重要ではない。聞いたことがある名前である限り、何でもかまわないのだから」とコーン氏は付け足した。
複雑なことに踏み込むのは面倒かもしれないが、隠れたコストがわかるはずだ
パブリッシャーは、製品またはベンダーのオファリングの背後で動いているコインの種類や数を知っておく必要がある、とコーン氏は述べる。そこに暗号通貨が多ければ、いわゆる「ガス代」が高くなる可能性がある。
ガス代とは、「購入であろうと販売であろうと、ブロックチェーン上でミント(新しいコインの鋳造)またはトランザクション(取引)を実行する際に発生する追加料金だ。そして場合によっては、それは莫大な金額に膨れ上がる可能性がある。資産自体よりも不釣り合いに大きな額にだ」と、リーフグループ(Leaf Group)が所有するアートマーケットプレイスであるサーチアート(Saatchi Art)のゼネラルマネージャー、ウェイン・チェン氏は話す。
イーサリアムは、この分野で人気があり多くの人に信頼されているが、サポートするコインの数が多いため、ガス代が非常に高くなる傾向があるとコーン氏も同調する。
これらの料金は、とりわけ早い段階で特定して回避することが重要だ。もしできなければ、サーチアートのNFT顧客候補(アザーアバターズ[The Other Avatars]と呼ばれるサーチアートの最初のNFTコレクションの顧客など)が、ブロックチェーン分野への参画を思いとどまる可能性があるとチェン氏は語る。
複数の部門にわたるスタッフでチームを構成し、新しいパートナー、特に新しい広告主を精査する
Yahooファイナンスが過去1年間にブロックチェーンおよび暗号資産の対象範囲を拡大した。そのため、ブロックチェーンや暗号資産を取り扱う企業(暗号ウォレット企業のレジャー[Ledger]や暗号通貨資産管理会社グレイスケール[Grayscale]を含む)による、同サイトでの広告購入への関心が高まったと、Yahooの消費者本部長ジョー・ランバート氏は話す。
新しい広告収入はもちろん好ましいが、Yahooのようなパブリッシャーは、最終的にユーザーの個人的な資産をだまし取る可能性のある企業にはデジタルスペースを提供していないことを保証したい。
「私たちはパートナーシップを結ぶにあたり、相手のことを非常に詳しく調べる。大規模なオーディエンス向けに提供されている情報が正確で、しっかり精査されており、投資家が真に優れた投資決定をくだせるものであるようにしたい」とランバート氏は語る。
これを行うために、ビジネス開発チームとYahooの各パブリケーションの製品および編集責任者で構成される委員会を招集して、これらの広告主候補を精査し、すべての関係者がYahooの資産にスペースを得る広告主に満足していることを確認する。ビジネス開発チームと製品責任者は、パートナーが提供しているデータを理解し、それが製品に使用できるものかどうかを確認する責任があり、編集者は、適切な質問がなされ、これらの会社について検証済みの情報源があることを確認する責任がある。
「ギミックに頼りすぎないように注意している。私たちは信頼される存在でありたいし、顧客のニーズに正直に応えたいと思っている」とランバート氏は締めくくる。
[原文:Media Briefing: What publishers should watch for when meeting with blockchain vendors]
Tim Peterson(翻訳:SI Japan、編集:猿渡さとみ)