レガシーパブリッシャー各社も、紙媒体を中心とした事業運営からデジタル志向の企業へと変革を続けている。なかでも他社より変革が進んでいるのが、ニューズ・コーポレーション、ガネット、メレディス、ニューヨーク・タイムズだ。本記事では、最新の決算発表から、各社のデジタルシフトの現在をまとめる。
いまや彼らはほぼすべて、デジタルメディア企業となった。
BuzzFeedといったデジタル媒体の寵児が上場を目前に控えるなか、すでに上場しているパブリッシャー各社も、紙媒体を中心とした事業運営からデジタル志向の企業へと変革を続けている。もちろん、他社より変革が進んでいるパブリッシャーもあり、それは特にデジタル購読で顕著に表れている。こうした状況が見られるのが、ニューズ・コーポレーション(News Corp.)、ガネット(Gannett)、メレディス(Meredith)、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)の最新の決算発表だ。
本記事では、その内容から各社におけるデジタルシフトの現在をまとめる。
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主なポイント:
- 2021年第3四半期、パブリッシャーにとってひとつ明るい話題となっていたのは、購読料収入をはじめとする直接収入だった。
- パブリッシャーの広告事業では、デジタルメディアが印刷メディアとの差を広げ続けている。
- 各社の購読事業も拡大しているが、どのパブリッシャーでもデジタル購読が紙媒体の購読を上回っているわけではない。
ダウ・ジョーンズ
ニューズ・コーポレーション傘下でウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)、マーケット・ウォッチ(MarketWatch)、バロンズ(Barron’s)などを擁するダウ・ジョーンズ(Dow Jones)の2021年第3四半期の稼ぎ頭は、購読と売店販売といった直接収入だった。
ダウ・ジョーンズの総収入は15%増の4億4400万ドル(約490億円)に達したが、その増加分5800万ドル(約64億円)の66%に当たる3800万ドル(約42億円)を、販売部数と購読料の伸びが占めている。
第3四半期終了時点でのダウ・ジョーンズの購読者数は、前年同期比18%増の460万人。そのうち約350万人がウォールストリート・ジャーナルの購読者で、デジタル版のみの購読者が全体に占める割合は、2021年第2四半期の79%から、第3四半期は80%に増えている。
ニューズ・コーポレーションはダウ・ジョーンズの購読・広告事業の収入について具体的な数字を発表していないが、購読収入は前年同期比で12%、広告収入は29%増えている。デジタル広告収入が38%伸びている一方で、紙媒体の広告収入も前年同期比で17%増と回復を見せる。
とはいうものの、全体の状況と同様、広告でもデジタルが紙媒体をはるかに大きく上回っていることに変わりはない。ダウ・ジョーンズの広告収入の61%はデジタル広告で、2021年第2四半期の56%からさらに拡大している。全体では、ダウ・ジョーンズの2021年第3四半期収入の75%をデジタルが占めている。
ガネット
USAトゥデイ(USA Today)を出版する ガネットでは、デジタルビジネスがまだレガシーの紙媒体ビジネスへのキャッチアップを図っている最中だ。
2021年第3四半期のデジタル収入は前年同期比18%増の2億6500万ドル(約300億円)に達し、全体の33%を占めるまでになった。だがこのデジタル収入の伸びも紙媒体の明らかな停滞を補うには十分ではなく、ガネットの総収入は前年同期比2%減の8億20万ドル(約880億円)に下がっている。
同四半期にはUSAトゥデイがUSAトゥデイスポーツ+(USA Today Sports+)の購読サービスをスタートさせ、ガネットのデジタル版のみの購読者数は前年同期比で46%増え、150万人となった。これは2021年第2四半期の140万人からの増加であると同時に、第2四半期の前年同期比41%増という伸びに比べてもさらに勢いを増している。同社は今後5年でデジタル版のみの購読者数を1000万人にすることを目標に据えている。
同時に、購読料をはじめとするデジタル版収入も、2570万ドル(約28億3000万円)と前年同期比で27%伸びているが、前年同期比で10%縮小しても2億8100万ドル(約310億円)に達している紙媒体の収入と比べると影が薄い。
対照的に、広告ではデジタルが紙媒体との差をさらに広げている。2021年第3四半期のデジタル広告・マーケティングサービスの収入は前年同期比で83%増の2億2200万ドル(約244億円)。紙媒体の広告収入は前年同期比で9%少ない1億9000万ドル(約210億円)だった。
メレディス
2021年第3四半期、 メレディスが同社の雑誌やデジタルメディアを擁する米国内メディア事業をIACに売却してドットダッシュ(Dotdash)と合併することに同意する一方で、そのレガシー事業の一部の落ち込みを新事業が補う様子が見られた。
メレディスのデジタル収入は24%増えて2億ドル(約220億円)に達し、なかでもデジタル広告収入は前年同期比24%増の1億3890万ドル(約153億円)となった。購読と売店販売を含む、米国内消費者向けメディア関連の収入は、前年同期比10%増の2億5450万ドル(約247億円)に達している。
これらのデジタル・消費者向け関連の収入拡大が、22%減少し9110万ドル(約100億円)にとどまった雑誌広告収入への打撃を和らげている。同社はこの落ち込みを、テレワークの継続とサプライチェーンの問題で食品、処方薬、美容品の広告主が出稿を控えていることが要因となっていると説明する。
消費者向け関連の収入で今も主な収入源となっているのは雑誌だ。消費者向けコンテンツのデジタル収入は6000万ドル(約66億円)だが、消費者向け雑誌の収入は1億9450万ドル(約214億円)に上る。そのうち売店販売が4330万ドル(約48億円)とかなりまとまった金額にはなっているものの、消費者向け関連収入の大半を占めるのは1億3690万ドル(約151億円)に達する購読料収入だ。ただし、メレディスの雑誌の購読料収入は前年同期比で3%の伸びしかなく、2021年第2四半期の収入の数字にも達していない。
ニューヨーク・タイムズ
ニューヨーク・タイムズの購読事業は、少なくともデジタル版については、順調に見える。
2021年第3四半期を終えた時点での購読者数は830万人。同四半期には45万5000人のデジタル購読者を追加してデジタル版のみの購読者数は760万人に達し、海外購読者の数も100万人の大台に乗った。新規購読者の大部分を占める32万人がニュースの購読者であるが、ニュース以外の料理アプリやクロスワードでも13万5000人の新規購読者を獲得している。
購読者数の伸びはその大小にかかわらず良いものであることに違いはないが、ニューヨーク・タイムズのデジタル版のみの購読者数は第3四半期も減速を続けている。2020年第2四半期には前年同期比の伸びが50%だったのが2021年第2四半期には26%となり、さらに第3四半期には25%といっそう鈍い伸びだ。海外購読者数が大台に乗ったことを同社が大きく取り上げ、国際舞台での成功を喧伝しているのはこのこともあるのかもしれない。
購読料収入の合計は前年同期比で14%増の3億4260万ドル(約377億円)。そのほとんどが、前年同期比28%増の1億9860万ドル(約219億円)に達したデジタル版のみの購読に由来している。逆に、紙媒体の購読料収入は前年同期比で1%減の1億4400万ドル(約159億円)だった。
ニューヨーク・タイムズの広告事業でもデジタルの好調さが目立つ。デジタル広告収入は前年同期比40%増の6700万ドル(約74億円)に達し、同社の広告収入全体の60%を占める。残り40%は紙媒体で、2020年第3四半期の39%からは回復を見せているが、2019年第3四半期に比べると25%低い。
[原文:Media Briefing: What four publishers’ latest earnings reports indicate about their digital makeovers]
Tim Peterson(翻訳:SI Japan、編集:長田真)