サブスクリプション事業が伸び悩むなか、パブリッシャー各社は既存購読者の維持が新規購読者の獲得と同じくらい重要であることに気づきはじめている。
しかしながら読者開拓の担当者たちが、長期的に購読してくれる新規の有料読者を獲得したいことは間違いない。その実現に向けて、必要かつ適切な戦略を見出すことが、いまや彼らの最重要課題となっている。
「パブリッシャーにとって、購読者の維持や定着、いわゆるリテンションはかつてないほど優先順位の高い課題だ」と、アトランティック(The Atlantic)で最高事業成長責任者を務めるメガ・ガリバルディ氏は話す。「リテンションと新規獲得の優先順位を比較すると、この2つはほぼ拮抗するが、糸がからみ合うように密接に関わり合ってもいる」。
新規獲得とリテンションの戦略は必ずしも同じではない
有料トライアル(最初の1ヶ月または1年限定で割引価格を提案するなど)は、無料の読者を有料登録させるには有効だ。しかしその反面、ピアノベンチマークス(Piano Benchmarks)報告書の2020年から2023年の分析を見る限り、正規料金で購読を始めた読者は、ほかの購読者よりも長い期間購読を継続する傾向が強いことがわかった。
そのため、新規獲得とリテンションを合わせた完璧な戦略を設計することは、期待するほど単純明快ではないようだ。そもそも、リテンションを促進するのに最適な戦略が、新規購読者の獲得に最適であるとは限らない。
それでも、ペイウォールプラットフォームのピアノで戦略担当シニアバイスプレジデントを務めるマイケル・シルヴァーマン氏によると、有料トライアルを提供するパブリッシャーの数が着実に減少していることから、一部のパブリッシャーは優先すべき戦略について方針を固めつつあるという。ピアノベンチマークスのデータによると、2020年第1四半期に成約した月額制のサブスクリプションのうち、正規料金での契約は約16%だったが、2023年第1四半期にはこの数字が27%近くに伸びている。
本記事では、リテンションと新規獲得を狙う有料トライアルの賛否両論について考察を試みる。
有料トライアルの賛成派
トライアル(いわゆる「お試し」)の提案は、読者にはじめから値引きなしの正規料金を支払わせるかわりに、当該のプロダクトを試用する機会を与えるものだ。シルヴァーマン氏によると、有料トライアルであれ無料トライアルであれ、あるいは登録ウォールであれ、ピアノのクライアントにはこうした機会を読者に提供すべきと必ず助言するという。
というのも、仮にその読者がトライアルを終えて購読を解約したとしても、少なくともパブリッシャーの手元にはその読者の電子メールアドレスが残るからだ。そして、この電子メールアドレスは、「ファーストパーティデータ戦略や、この読者に再度購読を促すキャンペーンで有効活用することができる」と同氏は述べる。
有料トライアルのひとつである割引価格の提案は、複数の商品をセット販売する「バンドル戦略」にも導入されはじめた。たとえば、ワシントンポスト(The Washington Post)は最近、メンタルヘルスのアプリを提供するヘッドスペース(Headspace)と提携し、新規の契約者にワシントンポストとヘッドスペースの両方を年間70ドル(約1万200円)で提供している。これは本来の年間購読料の6割引に相当する。この期間の終了後は、ワシントンポストは120ドル(約1万7500円)、ヘッドスペースは69.99ドル(約1万200円)で更新されるという。
ワシントンポストで定期購読部門の最高責任者を務めるマイケル・リベロ氏によると、このバンドル割りがポストにとって有用な理由は大きく分けて2つあるという。第1に、このセット商品はワシントンポストのオーディエンスだけでなく、提携相手のヘッドスペースのオーディエンスにも販売されるため、日頃ワシントンポストに馴染みのない人々に購読の訴求対象を広げることができる。第2に、この場合のヘッドスペースのように、他社を通じて別のサービスを追加することにより、ワシントンポストのサブスクリプションに付加価値をつけ、より魅力的な提案を行うことができる。
トライアル契約者のリテンションに関しては、いまのところよい数字は得られていないようだ。しかし、リベロ氏は「契約者がセット商品の両方のサブスクリプションを積極的に活用しているなら、もう1年購読を続ける可能性は十分にある」と見ている。
サブスクリプション事業が伸び悩むなか、パブリッシャー各社は既存購読者の維持が新規購読者の獲得と同じくらい重要であることに気づきはじめている。
しかしながら読者開拓の担当者たちが、長期的に購読してくれる新規の有料読者を獲得したいことは間違いない。その実現に向けて、必要かつ適切な戦略を見出すことが、いまや彼らの最重要課題となっている。
「パブリッシャーにとって、購読者の維持や定着、いわゆるリテンションはかつてないほど優先順位の高い課題だ」と、アトランティック(The Atlantic)で最高事業成長責任者を務めるメガ・ガリバルディ氏は話す。「リテンションと新規獲得の優先順位を比較すると、この2つはほぼ拮抗するが、糸がからみ合うように密接に関わり合ってもいる」。
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新規獲得とリテンションの戦略は必ずしも同じではない
有料トライアル(最初の1ヶ月または1年限定で割引価格を提案するなど)は、無料の読者を有料登録させるには有効だ。しかしその反面、ピアノベンチマークス(Piano Benchmarks)報告書の2020年から2023年の分析を見る限り、正規料金で購読を始めた読者は、ほかの購読者よりも長い期間購読を継続する傾向が強いことがわかった。
そのため、新規獲得とリテンションを合わせた完璧な戦略を設計することは、期待するほど単純明快ではないようだ。そもそも、リテンションを促進するのに最適な戦略が、新規購読者の獲得に最適であるとは限らない。
それでも、ペイウォールプラットフォームのピアノで戦略担当シニアバイスプレジデントを務めるマイケル・シルヴァーマン氏によると、有料トライアルを提供するパブリッシャーの数が着実に減少していることから、一部のパブリッシャーは優先すべき戦略について方針を固めつつあるという。ピアノベンチマークスのデータによると、2020年第1四半期に成約した月額制のサブスクリプションのうち、正規料金での契約は約16%だったが、2023年第1四半期にはこの数字が27%近くに伸びている。
本記事では、リテンションと新規獲得を狙う有料トライアルの賛否両論について考察を試みる。
有料トライアルの賛成派
トライアル(いわゆる「お試し」)の提案は、読者にはじめから値引きなしの正規料金を支払わせるかわりに、当該のプロダクトを試用する機会を与えるものだ。シルヴァーマン氏によると、有料トライアルであれ無料トライアルであれ、あるいは登録ウォールであれ、ピアノのクライアントにはこうした機会を読者に提供すべきと必ず助言するという。
というのも、仮にその読者がトライアルを終えて購読を解約したとしても、少なくともパブリッシャーの手元にはその読者の電子メールアドレスが残るからだ。そして、この電子メールアドレスは、「ファーストパーティデータ戦略や、この読者に再度購読を促すキャンペーンで有効活用することができる」と同氏は述べる。
有料トライアルのひとつである割引価格の提案は、複数の商品をセット販売する「バンドル戦略」にも導入されはじめた。たとえば、ワシントンポスト(The Washington Post)は最近、メンタルヘルスのアプリを提供するヘッドスペース(Headspace)と提携し、新規の契約者にワシントンポストとヘッドスペースの両方を年間70ドル(約1万200円)で提供している。これは本来の年間購読料の6割引に相当する。この期間の終了後は、ワシントンポストは120ドル(約1万7500円)、ヘッドスペースは69.99ドル(約1万200円)で更新されるという。
ワシントンポストで定期購読部門の最高責任者を務めるマイケル・リベロ氏によると、このバンドル割りがポストにとって有用な理由は大きく分けて2つあるという。第1に、このセット商品はワシントンポストのオーディエンスだけでなく、提携相手のヘッドスペースのオーディエンスにも販売されるため、日頃ワシントンポストに馴染みのない人々に購読の訴求対象を広げることができる。第2に、この場合のヘッドスペースのように、他社を通じて別のサービスを追加することにより、ワシントンポストのサブスクリプションに付加価値をつけ、より魅力的な提案を行うことができる。
トライアル契約者のリテンションに関しては、いまのところよい数字は得られていないようだ。しかし、リベロ氏は「契約者がセット商品の両方のサブスクリプションを積極的に活用しているなら、もう1年購読を続ける可能性は十分にある」と見ている。
リテンション率を上げるための手法を見極め中
一方、アトランティックのガリバルディ氏によると、トライアル経由の購読契約者のリテンション率が低いことは分かっているが、同氏のチームはこうした戦略を成功させるための努力を続けているという。
「トライアルで登録する人々にはまだ迷いがある。そういう人々には、まっすぐ我々のサイトに来て、正規料金で購読する人々とは別の入り口を用意する必要がある」とガリバルディ氏は述べる。
ガリバルディ氏のチームが進めている作業のひとつは、どのような割引提案がリテンション率に意味のある影響を与えうるのかを見極めることだ。トライアル期間が終了したら購読をやめてしまうような貧弱な提案ではなく、だからと言って、無料の読者が有料登録をためらうほど高価な提案でもない。「これを完璧に両立する提案がまだ定まらない」と、同氏は話す。
また、「そうは言っても、正規料金ですぐに定期購読を始めてくれればそれに越したことはない。そういう人々は、我々のことを気に入ったからその場で購読を決めてくれた。では、どんな道筋をたどれば、そういう態度に至るのか。リテンション率を上げるためにもその要因を解明したい」と言い添える。
有料トライアルの否定派
すでに立証された事実としては、トライアルなしのサブスクリプションはコンバージョン率が低い反面、正規料金を支払った契約者は購読を継続する傾向が強い。
正規料金で契約した月額購読者の1年後のリテンション率中央値が36%だったのに対し、トライアルで契約した月額購読者のそれは22%だった。年間購読者の場合、リテンション率の中央値はさらに高く、正規料金で契約した購読者は70%、トライアル経由の購読者は63%だった。
「これらの数字が明確に示すのは、トライアルを経由しない月額購読者の割合が着実に増加していることだ」とシルヴァーマン氏は指摘する。「つまり、パブリッシャーたちはより高い価格を維持し、当初の割引を低く抑え、究極的には顧客生涯価値を向上させようとしている」。
購読者数より売上
トライアル購読から正規購読への移行に伴う月額料金の増加は、年間のコスト増よりもストレスが大きく、たとえ最初の1カ月間でその購読に十分な価値がないとの判断に至らなくとも、解約を選択する可能性は高くなる。しかし、「正規料金を支払ったユーザーはすでに購読の価値を認めており、解約の可能性は低い」とシルヴァーマン氏は語った。
景気が低迷するなか、お試し割引を提案することなく、新規の購読者を増やすばかりか、長期的に購読を続けてほしいと期待することには迷うところもある。しかし、シルヴァーマン氏によると、トライアル購読は正規購読よりもコンバージョン率は高くなる傾向にあるが、その反面、1年後に購読を継続する者は前者の集団よりも後者の集団に多いという。詰まるところ、トライアルを提案しない方が、生涯価値の高い購読者がより多く集まるということだ。
「購読者の数よりも収益を重視するパブリッシャーが増えている。購読者100万人を獲得するよりも、100万ドル相当の金を稼ぐ方が重要ということだ」と、シルヴァーマン氏は説明する。
[原文:Media Briefing: The case for, and against, paid subscription trials]
Kayleigh Barber(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)