Cookie廃止後に移行が想定されるeメール中心のアイデンティティ構想は、十分な規模を持たない圧倒的多数のパブリッシャーにとっては問題でしかない。むしろ、コンテキストデータに基づいてキュレーションされたマーケットプレイスのような非eメールベースの代替手段は、パブリッシャーにとってひとつの選択肢となり得る。
Cookie廃止後に移行が想定されるeメール中心のアイデンティティ構想は、十分な規模を持たない圧倒的多数のパブリッシャーにとっては問題でしかない。
むしろ、コンテキストデータに基づいてキュレーションされたマーケットプレイスのような非eメールベースの代替手段は、パブリッシャーにとってひとつの選択肢となり得る。
しかし、最終的な解決策は、オンライン広告市場を完全にリセットすることかもしれない。
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ウェブのアイデンティティクライシス
あるメディアエグゼクティブの言葉を借りれば、ウェブのアイデンティティクライシスは「かなり実存的」になりつつある。
一部のパブリッシャーはすでに、サードパーティCookie廃止後、個人レベルのターゲティングを目論む広告主の要件を満たす十分なメールアドレス獲得は現実的に難しいだろうという結論に達している。その判断は、2022年1月初めにNBCユニバーサル(NBCUniversal、コムキャスト傘下のコングロマリット企業)がファーストパーティIDプラットフォームの開発・リリースを発表し、同プラットフォームが有するメールアドレスが1億5000万人分に及ぶと報じたことで、さらに間違いのないものとなった。
別のメディアエグゼクティブは「我々のようなパブリッシャーの力では、オープンウェブ上でメールアドレスを増やすような芸当はできない」とこぼす。「NBCやABC、そしてCTVやストリーミングプロパティを持っている会社、つまりこれらのような、アプリ起動時にユーザー認証が必要になるようなメディアを持っている企業ならどこもが、アイデンティティ獲得競争の勝者になれる可能性がある」。
「大手には規模で太刀打ちできない」
冒頭のメディアエグゼクティブは、大手通信会社のエグゼクティブと交わした最近の会話を思い出していた。その会社では、既存顧客を中心に4000万~5000万人分の個人情報をオプトインの形で集めて、自社ファーストパーティデータプラットフォームに組み込むという目標を設定したという。「その会社は、おそらく900万人分は組み込めていると思う」と、そのメディアエグゼクティブは話す。しかし、この通信会社にはファーストパーティデータをロードできる強みがあったにもかかわらず、目標の20%から25%程度しか達成できていないことを考えると、「おそらく、残りの我々は、規模で競おうとするべきではない」。
「広告主はより具体的に、オーディエンスをもっと深く理解して特定したいと考えているので、基本的にインターネットを中心に据えて、その方法を考え出すのは、我々には難しいだろう」と、前出の2人とはまた別のメディアエグゼクティブが述べる。
「データの面では、我々のような会社はNBCや大手テレビ局の規模には太刀打ちできない」と、さらに別の(4人目の)メディアエグゼクティブがこぼす。
独自マーケットプレイスに活路あり?
では、残りの多くの中小規模パブリッシャーはどうしたらいいのか?
「パブリッシャーは、本当にすべてを焼き払うことを検討する必要がある」と、5人目のメディアエグゼクティブが言った。もちろん冗談だ。ただし、彼やほかのメディアエグゼクティブたちは、オンライン広告市場に火をつけるつもりはないが、野焼きに似た何かを望んでいることは間違いない。野焼きとは、かつてネイティブアメリカンの部族たちが、広範囲にわたる山火事を避け、植物の成長を促すために行っていたものだ。
たとえば、パブリッシャー自身がeメールベースによるCookieの代替手段を「オプトアウト」することは、いずれ業界内で標準化された選択肢のひとつになるだろう。実際、インサイダー(Insider)やBuzzFeed、グループ・ナイン(Group Nine)など、一部の企業はすでにeメールアドレスを中心とした自社データプラットフォームの構築を控えている。またほかの企業は、インベントリーの多くをオープンなプログラマティックマーケットプレイスからキュレーションされたマーケットプレイスへ移動させることを検討している。
イールドモ(YieldMo)やガムガム(GumGum)などのアドテク企業や、CMSであるコンサート(Concert)を所有するボックス・メディア(Vox Media)などのパブリッシャーによって運営されるキュレーションされたマーケットプレイスは、選択されたパブリッシャーからのインベントリーのみを提供し、ときにはカテゴリー固有のセグメントにグループ化されることもあり、広告を掲載しているページのキーワードのようなコンテキストデータに基づいてターゲティングする。
「キュレーションされたマーケットプレイスとは、私が自由にコントロールできるマーケットプレイスであり、そこでは広告主の好みに応じて常に最適なインベントリーに提供できる市場だと考えている。また最低料金を設定しているので、それに基づいたエンゲージメントのルールも設けている」と話すのは、前出の5人とは別の、6人目のメディアエグゼクティブだ。
「規模のコントロールとアクセスに関する問題」
しかし、キュレーションされたマーケットプレイスを懐疑的に思うメディアエグゼクティブも多い。これらのメディアエグゼクティブは全般的に、外部の企業に自社の情報をやすやすと公表することを良しとしない。その「外部の企業」には、キュレーションされたマーケットプレイスを運営している企業だけでなく、代替の識別子を提供している企業も含まれる。
「これは、規模のコントロールとアクセスに関する問題だ。勝手にあなたの会社のページのデータが収集されたり、安全だと感じないページにあなたの会社のデータがコードされる環境になることは、パブリッシャーにとっては致命的だ。あり得ない」と、前出の2人目のメディアエグゼクティブは語る。
一方で、「リスクはおそらく技術的なものではなく、より戦略的なものだろう。もしあなたの会社のデータがすぐ取り出せるようにデータプールにある場合、それがスタンドアロン方式でのみ利用可能であるなら、会社にもたらされる価値は半減するのではないだろうか? もしそうなら、半減してまで得たい見返りとは何なのか?」と、前出1人目のメディアエグゼクティブは話す。
パブリッシャーにとっての最大のリスク
パブリッシャーにとっての最大のリスクは、Cookie廃止後の身のこなし方だ。サードパーティCookieがパブリッシャーにもたらした弊害と言って良い。ただし、サードパーティCookieは当初、パブリッシャーがインベントリーとオーディエンスをまとめて、大規模な個人レベルのターゲティングに対する広告主の高まる需要を満たすための手段として採用された。広告主はGoogleやFacebookを利用して、そうしたことに味をしめていた。しかし、時の経過とともに、アドテク仲介業者がパブリッシャーと広告主の取引に介入できるようになり、その結果、パブリッシャーのインベントリーの価値が下がってしまった。そして今、それが再び起ころうとしているのかもしれない。
「とにかくアドテク仲介業者がくそみたいに多い。おっと、汚い言葉を使って失礼」と、5人目のメディアエグゼクティブは言い放つ。「まるで変化があるたびに、ただ中間にいる誰かを儲けさせるために、我々は常に新しい方法を考え出しているかのようだ」。
だから、また繰り返すが、残りのすべてのパブリッシャーはどうしたらいいのか? どうやら、火をつける時期が近づいたようだ。
「すべてが完全に生まれ変わると私は思う」と、3人目のメディアエグゼクティブは言う。「いや、それを願う」。
TIM PETERSON(翻訳:SI Japan、編集: 猿渡さとみ)