2020年のネット通販市場の急激な拡大を受けてeコマースは利益の高い収益源として期待されているが、期待するほど手堅いのか、予断を許さない状態だと考えるパブリッシャー企業もある。サプライチェーンの不足や出荷の遅れ、SNSコーマスでのポジティブなショッピング体験が足りないことなどが大きな原因だ。
ソーシャルコーマスについて、アパートメント・セラピー(Apartment Therapy)やグループ・ナイン(Group Nine)のようなパブリッシャーは、その限界に対して、いかに対処しているのか。
おもな動向:
- eコマースの収益向上に鈍化が見られるようになり、パブリッシャーにとって、その収益源としての重要性がわずかながら薄らいでいる。
- SNSプラットフォームは、幅広いオーディエンスに製品を売り込む手段を提供するものの、パブリッシャーにしてみれば補助的な収益源のままである。
- TikTokのようなプラットフォームにおけるライブストリームショッピングのパス・トゥー・パーチェス(path-to-purchase)、購買への道のりは、とくに大きな課題だ。
2020年のネット通販市場の急激な拡大を受けてeコマースは利益の高い収益源として期待されているが、パブリッシャーのなかには、期待するほど手堅いのか、予断を許さない状態だと考える企業もある。サプライチェーンの不足や出荷の遅れにも原因はあるが、「SNSプラットフォームでよい買い物できた」というプラスのショッピング体験が足りないことも大きな原因だ。
パブリッシャーによると、ソーシャルコマース、インスタグラムやTikTok、Snapchatを利用したショッピングには問題が山積している。たとえば、がっかりするようなショッピング体験をしたユーザーがアフィリエイトリンクを避けて、自分で商品を検索するのもその一例だ。これはとくにTikTokで見られる問題である。とはいえ、オンラインのオーディエンスにとってTikTokは極めて重要なデスティネーションなので、まだ撤退できないとパブリッシャー各社は感じている。
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現在のところ、ライフスタイルとインテリア関連の情報を発信しているアパートメント・セラピーとデジタルメディア持株会社グループ・ナインの場合、アフィリエイトリンクに関するやりとりはSNSプラットフォームではなく、同社のサイトや自社で所有・運営するO&O(owned & operated)サイトなどで見られる。たとえば、アパートメント・セラピーでチーフレベニューオフィサー(CRO)を務めるリバ・シロップ氏は、同社のサイトとメールは、ソーシャルコマースの売上の90%以上を占めていると話す。しかしながら、SNSはオーディエンスの大半をしめており、各ブランドのインスタグラムのフォロワー数は両社とも何百万人におよび、TikTokのフォロワー数も数十万人になる。
eコマースの凋落
パブリッシャーのeコマースが成長を見せる一方で、2021年はその勢いが一部で陰りをみせ、パブリッシャーのあいだでもこの収益源の重要性が低下している。
たとえば、BuzzFeedは投資家に、eコマースは2021年に市場が67%拡大したと伝えているが、同社の第3四半期収支報告書によると、第1四半期と第2四半期に80%という急激な伸びを示したものの、第3四半期の成長率は14%まで減少している。アパートメント・セラピーのシロップ氏によると、同社では収益全体の約15%をeコマースが占めるという。また、業務提携および戦略を担当するジェネラルマネージャーのヤスミン・ラシュリー氏は、2020年から2021年の収益は約20%上昇しているが、「急激な増加」を見せた2019年から2020年と比べると成長は鈍化していると話す。この20%という成長率はわずかであるものの予測を上回る数字であり、2019年から2020年で前年比約100%の成長を見せたことを考えると、すばらしい結果だと同社は判断しているとラシュリー氏は述べている。
2022年1月10日、ロイター研究所(Reuters Institute)は報告書で、eコマースを「重要な」収益源に位置付けているパブリッシャーが減少したと伝えている。調査に回答した企業216社をみると、2020年と2022年ではその数字が32%から30%と2%減少している。
SNSプラットフォーム内のパス・トゥ・パーチェス
ライブショッピング動画やショッパブル動画は、メディア各社がeコマース戦略をSNSに結びつける一手段であり、とくに2021年第4四半期は、eコマース向け動画コンテンツの試験導入にはもってこいのタイミングだった。
アパートメント・セラピーはショップ・トーク(Shop Talk)と呼ばれるライブストリームショッピングを10月に開始した。この動画は、TikTokとインスタグラムにも同時配信される。このシリーズは長さが1本5分で、時間がないときのギフトのアイデアやクリスマスパーティに持っていくプレゼントの候補、ホームパーティを準備するポイントなど、さまざまなテーマについて編集者が語る。このシリーズの収益について具体的な数字は明らかにされていないが、平日のストリーミングを数百人というオーディエンスが視聴しており、視聴者の購入はかなりの額になるとシロップ氏は話した。
インスタグラムのリールを活用した「アパートメント・セラピーでもおなじみの(As Seen On AT)」というシリーズも開始している。商品や購入できる場所などを編集者が紹介するこのシリーズは、シロップ氏によると、1本の動画で200万ビューに達しているという。
それはつまり、ライブ動画ではショッピングの精算ができないのが課題であるということだ。シロップ氏のチームは精算関係のテクノロジーが追加されることを切望しているという。
「TikTokやインスタグラムのライブストリーミングで購入ボタンが直接使えるようになれば、私たちももっと投資するだろう。購入時に別のステップを踏むのは面倒。オーディエンスにしてみれば避けたいことだ。オーディエンスと商品を最短で結びつけることができるプラットフォームに対して、集中的に投資したい」とシロップ氏は話す。
継ぎはぎで問題をカバーする
がっかりするようなショッピング体験が原因で購入に踏み切れない人がいることから、グループ・ナインではこうした細かい問題点を継ぎはぎでカバーできないか検討した。同社のCROジェフ・シラー氏によると、そこで考えられたのが、ショッパブル動画を自社のウェブサイトだけでなく、TikTok、インスタグラム、Facebook、YouTube、Snapchatでも同時配信するという方法だという。
たとえばポップシュガー(PopSugar)は、第4四半期にホリデーシーズンのギフトガイド用動画を用意し、同ブランドのSNSやO&Oのチャネルすべて同時配信した。この録画プログラムはTikTokのオーディエンスをメインターゲットに設定し、TikTokでもっとも人気の高いセレブやユーモア、エンターテインメント中心のコンテンツに仕上げたとシラー氏は話す。
しかし、ギフトガイド動画からの売上は大半がTikTok経由ではなかった。目標は、買い物のしやすさはほかのプラットフォームで実現しながら、TikTokのコンテンツをより刺激的で楽しいものにすることであるとシラー氏。
「爆発的な成長を続けているTikTokは当然のことながら当社にとってもっとも重要なプラットフォームである。ほかのパブリッシャーと違わず、当社もTikTokの展開の速さに助けてもらっているところがあるが、それには、我々もレーザー光線のように焦点を絞ることができなければならない。同時にリスク分散も肝要だ」と話した。
「ライブコマースは非常に優先順位が高いが、ホリデーギフトのガイドなど、これまで実施してきたことにも投資を続け、同時配信を継続する予定だ」。
[原文:Media Briefing: Publishers confront leaky social platforms as commerce revenue growth slows]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)