パブリッシャーが新しいポッドキャスト番組を制作し続けるなか、この分野の統合も進んでいる。Spotify(スポティファイ)のようなポッドキャスト大手がザ・リンガー(The Ringer)やギムレット・メディア(Gimlet […]
パブリッシャーが新しいポッドキャスト番組を制作し続けるなか、この分野の統合も進んでいる。Spotify(スポティファイ)のようなポッドキャスト大手がザ・リンガー(The Ringer)やギムレット・メディア(Gimlet Media)といった自社制作部門を立ち上げる一方で、メディア企業も同様に、飽和状態にあるポッドキャスト市場で目立つための方法を模索するよう迫られている。
本記事では、米国の各パブリッシャーが、2022年にポッドキャスト事業をどのようにスケールアップしようとしているかを解説する。
主なキーポイント:
- アトランティック(The Atlantic)、ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times)、ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、オーディオ部門の新責任者を任命した。
- 米国の各パブリッシャーは、2022年にオーディオチームの人員を増やすと思われる。
- スレート(Slate)とボックス(Vox)は、最大の番組のいくつかでエピソードの公開頻度を増やそうとしている。
- パブリッシャーとほかの組織とのパートナーシップが増えるだろう。
- バイス(Vice)とワシントン・ポストは、自社のポッドキャストに世界のニュースルームからより多くの情報を集めたいと考えている。
注目すべき点
ポッドキャスト分析および広告プラットフォームのバックトラックス(Backtracks)によると、2020年1月から2021年10月にかけて、市場に出回る英語版ポッドキャストシリーズの数は39%増加したという。ポッドキャストのエピソード数は、同期間に20%増加している。
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パブリッシャーにとって幸運なことに、ポッドキャストのリスナーの需要も同様に高まっている。ニールセン(Nielsen)とポッドキャストのホスティングと収益化を手がけるエーキャスト(Acast)が米国の成人2000人を対象に行った最近の調査では、少なくとも毎月ポッドキャストを利用する調査対象者の52%が、過去6カ月間に視聴に費やす時間を増やしたことが判明している(ただし、この調査にはポッドキャスト全体の視聴時間に関するデータは含まれていない)。
2022年にリスナーの視聴をより多く獲得するために、パブリッシャーはポッドキャストへの取り組みを強化している。ポッドキャストチームを拡大し、新しいオーディオ部門責任者を任命し、より多くのエピソードを、より多くの地域で配信することを計画しているのだ。
新しいオーディオ部門責任者は以下のとおり。
- レニータ・ヤブロンスキー氏は、ワシントン・ポストのオーディオディレクターとして2021年7月にチームに加わった。
- 同月、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、ポーラ・シャッチマン氏を初のオーディオディレクターに指名した。
- ジャスミン・アギレラ氏は、11月にロサンゼルス・タイムズのオーディオ部門責任者に指名された。
- アトランティックは12月13日、クロディーヌ・エベード氏がエグゼクティブ・プロデューサーとしてアトランティックのオーディオチームを率いることになったと発表した。エベード氏は以前、ニューヨーク・タイムズに所属しており、NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)にも8年いた。
2022年には人員が増える
ロサンゼルス・タイムズの新イニシアチブのマネージングエディターを務めるシャニ・ヒルトン氏は、ロサンゼルス・タイムズのオーディオチームは、アギレラ氏の下にいる現在の10人から「倍になるだろう」と考えている。
また、ワシントン・ポストには、現在約20名で構成されているオーディオチームを拡大する計画もあるとヤブロンスキー氏は述べる。ヤブロンスキー氏は、ワシントン・ポストが何人を採用しようとしているかは明言していないが、企業との協働やニュース速報に取り組む一方で、「一度に起こる多くのこと」に対応できるチームにしたいと述べている。「企業向け業務を継続しながら、誇りをもってニュース速報に対応できるよう、一度に多くのことに取り組めるチームを作りたい」とヤブロンスキー氏は話す。
またCNNの広報担当者は、CNNは2022年、編集とオーディオ製品のチームを成長させ、オーディオとポッドキャストのプロジェクトを開発すると述べたが、具体的なことには触れなかった。CNNは2022年に、ポッドキャストにさらに多くの人材を投入し、番組をホストする予定だ。
エピソードの公開頻度を上げる
スレートは、「マム・アンド・ダッド・アー・ファイティング(Mom and Dad Are Fighting)」「ワッツ・ネクスト:TBD(What Next: TBD)」「ポリティカル・ガブフェスト(Political Gabfest)」など、長寿で人気のあるいくつかの週刊ポッドキャストの公開頻度を増やす予定だという。広報担当者によると、これらの番組の正確な頻度変更はまだ未定だという。
ボックスメディアでは、「デコーダー(Decoder)」と「バージキャスト (Vergecast)」のエピソード公開を週2本に増やすと、ボックスメディア・スタジオ(Vox Media Studios)のプレジデント、マーティ・ムー氏は電子メールで声明を発表した。「クリミナル(Criminal)」は、エピソードの公開を(隔週に1本から)毎週1本に変更する予定だ。
ニールセンとポッドキャストホスティングおよび収益化企業のエーキャストが行った最近の調査によると、ポッドキャストを少なくとも毎月利用する米国の成人2000人の4分の3は、毎週ポッドキャストを聴くと回答しているが、毎週エピソードを公開しているポッドキャストは43%しかないという。エーキャストの米国担当セールスおよびブランド・パートナーシップディレクター、ニック・サウスウェル・キーリー氏は、「要望はある」と述べている。
ポッドキャスト制作に関するパートナーシップをさらに強化
バイスのオーディオ担当バイスプレジデント、キャスリーン・オズボーン氏によると、バイスのオーディオチームは2022年、より多くの外部組織やプラットフォームと協力してポッドキャストを制作する予定だという。「オーディエンスにとって本当にプラスになるような、志を同じくする、補完的な部分での協力関係を続けていきたいと思っている」とオズボーン氏はいう。パートナーシップの利点はクロスプロモーションと、より良い番組をより多く制作できることだとオズボーン氏は述べ、「来年は、(まだ)発表していないだけで、もっとやるつもりだ」と付け加える。
ボックスメディアでは、WNYCスタジオとの新たなラジオ配信パートナーシップにより、「トゥデイ・エクスプレインド(Today, Explained)」がより多くのオーディエンスに届くようになるとムー氏はいう。カーラ・スウィッシャー氏とスコット・ギャロウェイ氏がホストを務める「ピボット(Pivot)」は、企業や専門家向けの新しいストリーミングサービス 「セールスフォース・プラス(Salesforce+)」の動画コンテンツを制作する予定だ。
スレートは、国際女性メディアバンク(International Women’s Media Foundation)からの助成金を受けて、ロー対ウェード裁判(Roe vs. Wade)に関する新しいポッドキャストシリーズを2022年5月開始予定で制作している。
世界のリスナーに届ける
バイスは世界中にオフィスがあるおかげで、オーディオチームも「グローバル化した仕事」にフォーカスしている、とオズボーン氏はいう。「どのような番組であっても、英語圏のリスナー、あるいは英語を理解するリスナーを対象として考えている」とオズボーン氏は語る。バイスのポッドキャストのリスナーの70~80%は米国に住んでいるが、海外のリスナーも増えているとオズボーン氏はいう。ただし、オズボーン氏はリスナーのデータや詳細については明らかにしていない。バイスはこれまでにスペイン語と日本語のポッドキャストを制作しており、現在アラビア語の新番組に取り組んでいる。また、ヒンディー語と日本語のポッドキャストの制作も検討していると、オズボーン氏は付け加える。
ワシントン・ポストが国際的なチームへの投資を続けるなかで、「その規模拡張にオーディオがどのようにフィットするか、そしてワシントン・ポストが得意とするものをより多くの人に届けるにはどうしたらよいかをよく考えている」とヤブロンスキー氏は述べる。具体的な内容は不明だが、「毎日の習慣を考え、消費する時間帯を考え、人々がいつ何を聞きたいか、聞く必要があるかを考える」ことから開発プロセスは始まっていると、ヤブロンスキー氏は話す。
全体として2022年はポッドキャストが増加
ヤブロンスキー氏によると、ワシントン・ポストは2022年初めに向けて、ふたつのパイロット版を制作中で、2021年内にはほかの試験版も予定していたという。全体として、2021年よりも多くのポッドキャストを導入することを目標に掲げている。
バイアコムCBS(ViacomCBS)は2022年も「ザ・デイリー・ショー(The Daily Show)」や「フォーティーエイト・アワーズ(48 Hours)」などのフランチャイズを中心にポッドキャストを開発する予定だ。現在、ザ・デイリー・ショーを中心に3つの新番組が試験的に放送されている。バイアコムCBSポッドキャスト(ViacomCBS Podcast)のシニアバイスプレジデント、スティーブ・ライゼズ氏は、来年はバイアコムCBSからさらに多くのオリジナルポッドキャストが出ることを期待していると述べる。また、番組化されないテレビ番組の企画をオーディオ化する機会もあると考えている。「ポッドキャストとTVのパイプラインは(中略)リニアとは異なる経済規模で試験的にコンセプトを実証する素晴らしい機会になる」とライゼズ氏は語った。
[原文:Media Briefing: How publishers plan to step up their podcast strategies in 2022]
TIM PETERSON(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)