多くの製品やサービスがサブスクリプション型のビジネスになっている。そのため、パブリッシャーは見込み購読者でファネルを満たるために最適な候補者を特定し、適切にアプローチすることがこれまで以上に重要になっている。ガネット、サロン、アトランティック、デイリー・ビーストの取り組みを紹介。
ガネット(Gannett)、サロン(Salon)、アトランティック(The Atlantic)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)は、とりわけ多くの製品やサービスがサブスクリプション型のビジネスになっているいま、読者が購読するものを選択するようになったことを認識している。そのため、見込み購読者でファネルを満たすには、最適な候補者を特定し、適切にアプローチすることがこれまで以上に重要になっている。
本記事では、4つのニュースパブリッシャーが2022年、サブスクリプションビジネスにどうアプローチしているかを紹介する。
主なポイント:
- ガネットやサロンは、購読者ではないユーザーのサイト滞在時間を伸ばそうとしている。
- アトランティックは、異なる購読者獲得戦術をテストし、サイトへのトラフィックの50%をそれに充てる。
- デイリー・ビーストは、「既知のユーザー」の購読者ファネルの強化に注力している。
ガネット、読者にとって「より粘着性のある体験」を構築
ガネットの最高マーケティング責任者(CMO)、マユール・グプタ氏によると、毎月平均2億人の読者が同社のデジタルサイトを訪れ、2021年第3四半期には購読者が150万人に到達した。ガネットの既存読者から有料購読者へのコンバージョン率は1%未満で、業界平均の7~8%を下回っているという。このギャップを埋めることは、ガネットが2025年までに1000万人の購読者を獲得するという目標を達成するために重要な要素だ。
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グプタ氏のチームはコンバージョン率を上げるために、ニュースサイクルが変わっても陳腐化しないエバーグリーンなストーリーが掲載されているランディングページを増やし、未購読の読者が自社運営サイトに長く滞在したくなるような「より粘着性のある体験を構築し続けたい」と、同氏は述べる。
現在、ガネットのローカルニュースサイトの一部だけを対象にメーター制のペイウォールモデルのテストをしている。USAトゥデイ(USA Today)はメーター制ではなくフリーミアムモデルを採用しているため、「大量の無料コンテンツがあることになるが、これは我々の責任だと考えている」とグプタ氏は話す。メーター制モデルは今年、ローカルメディアグループ全体でテストされる予定だが、グプタ氏は、ガネットがカバーする250の市場で画一的なアプローチは通用しないと考えており、時間をかけて各オーディエンスや多様なマーケットのさまざまなアーキタイプ(型)に最適化する必要があると付け加える。
「マーケティングで重視しているのは、ユーザーが時間をかけずに関連性のあるトピックを発見し、また、犯罪ドキュメンタリーや宇宙など特定の分野に特化した話題につながれる場所をいかに構築するかだ。我々は、そのようなユーザーに対して、発見、認識、リーチを推進できるようにしたい」とグプタ氏は述べる。そうしたページには、プレミアムコンテンツとして有料で提供されるものと、すべての読者に公開されるものがあり、それぞれのトピックに含まれる数十年分のストーリーがまとめられる。
「我々は、必ずしもファネルトップを拡大しようとしているわけでないが、彼らに関連するトピックについて、彼らの行動とより関連性のあるフォーマットや方法で、これまでとは異なる方法でアプローチしている」とグプタ氏は語る。
サロン、購読者の心をつかむカギは胃袋にある
2020年の米国大統領選挙以降、ニュースサイクルが緩やかになり、人々が日ごとにサロンを訪れる理由が少なくなったため、サロンでは、政治以外のコンテンツを読者の維持に役立てようとしていた。現在は、コンテンツが魅了した読者を購読者に変える機会として注目している。
2021年、サロンのページビューのうち20%を料理コンテンツが占め、リピーターの11%がサロンの料理コンテンツをチェックしたあとにメインサイトに移動したと、サロンの最高収益責任者(CRO)を務めるジャスティン・ウォール氏は述べる。
ウォール氏は「我々は、(読者の)ロイヤルティを高めて人々がサイトに戻ってきてくれるようにしたいと考えている。そのうえで、サブスクリプションの提供を行っていける。彼らが、自分の時間をサロンに投資してくれるようになったら、そのときが定期購読者の候補になる」と述べた。
アトランティック、テスト期間に入る
アトランティックの最高経営責任者(CEO)、ニック・トンプソン氏は、約2年半にわたってペイウォールを成功させるためのテストを行った結果、読者を購読者に変えるためになにが効果的かについて、一般的に受け入れられている真実が数多くあるとわかった、と述べる。そのひとつが、読者がペイパル(PayPal)で支払えるようにすることであり、もうひとつが、ペイウォールの前に月2本の記事を無料で読めるようにすることだという。また、購読を申し込む際に無料トライアルを提供することは、提供しないよりも理にかなっている。
「つまり、我々はいま、10月に行っていたことよりも良い状況にある、あるいは良いメニューが提供できているということだ。しかし、もっと良いものがあるかどうかはわからない」とトンプソン氏は話す。
それを理解するために、この春、5つの異なる仮説をもとに、メーター制ペイウォール、無料トライアル、価格設定のさまざまな方式をテストするシーズンとした。アトランティックのサイトトラフィックの50%がテストに割り当てられ、各仮説にはそれぞれトラフィックの10%が割り当てられる。異なるバーティカルからのコンテンツを再循環させ、読者がなにをクリックするかをもっともよく推測する方法も、このテスト戦略の一部となる。
「人々は、複数のバーティカルのストーリーを読むと購読する傾向があることが分かっている。我々は、より多くの人々をほかの分野に送るような再循環アルゴリズムをテストしたが、これまでのところ、どのテストもあまりうまくいっていない。どれもニュートラルという結果だった。だが我々は、人々がより購読しやすくなるような適切な組み合わせを見つけることを期待して、さまざまなアルゴリズムや再循環ユニットをテストしている」とトンプソン氏は語った。
デイリー・ビースト、見込み購読者のすべてを知りたい
デイリー・ビーストの最高収益責任者(CRO)、ミア・リビー氏は、同社のチームが今年、既知のユーザー(known users)と呼ぶ人々を優先して、「購読へのファネルを構築する」ことに取り組んでいると語る。既知のユーザーとは、ニュースレターやデスクトップ通知へのサインアップ、アプリのダウンロードや利用によって、パブリッシャーとある程度のファーストパーティデータを共有しているが、まだ購読料を払っていない読者を指す。
既知のユーザーは貴重だ。デイリー・ビーストは、既知のユーザーから、未知のユーザーよりも平均169%多くの売上を得ているとリビー氏はいう。既知のユーザーは、デイリー・ビーストのエディトリアル製品とのやり取りでかなりの時間を費やしている。そのため、有料会員になる確率が高いというが、コンバージョン率の数値は公表していない。 また、これらの読者は、より多くのコンテンツへのアクセスと引き換えに、自分自身に関する情報を提供するため、ファーストパーティデータの観点からも価値があると、リビー氏は付け加える。
デイリー・ビーストは2022年、2月から新しいニュースレターを始めるなど、これらの製品の改善に投資していくことにしている。また、未知のユーザーを既知のユーザーに変える方法について、前述の3つの製品とサイト上の登録ウォールを通じて、より深く理解することに努めるという。
TIM PETERSON and KAYLEIGH BARBER(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:小玉明依)