サブスクリプション事業の成熟を背景に、一部のパブリッシャーが既存および潜在的な有料会員のLTV拡大を模索しはじめている。既存会員の解約を抑制しつつ、いかに課金し続けることへの動機となるコンテンツを提供できるか。複数製品のバンドル化や、一部ペイウォールの公開など、各社は様々な手で収益最大化に取り組んでいる。
パブリッシャーたちは、既存の有料会員はもとより、有料会員化しそうな読者からも追加的な収入を獲得する道を模索している。
既存の有料会員に追加的なサービスを購入させるアップセル、および一般読者の有料会員化に加えて、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times:NYT)やデイリービースト(The Daily Beast)らは既存および潜在的な有料会員からファーストパーティデータを収集することで、広告事業を強化したいと考えているのだ。
主なキーポイント:
- サブスクリプション事業の成熟を背景に、一部のパブリッシャーが既存および潜在的な有料会員のLTV拡大を模索しはじめた。
- NYTは、有料会員のリテンションを改善するため、複数のサブスクリプション製品のバンドル化を計画している。
- デイリービーストは、ペイウォールと登録ウォールを組み合わせた新しいモデルを準備している。その狙いは、まだ購読料の支払に踏み切れないユーザーの有料会員化を促し、この人々から当座の収入を獲得することが狙いだ。
NYTはさまざまなバンドル化に賭ける
今年、NYTは既存のメディア資産とさきごろ買収に合意したスポーツ専門サイトのアスレチック(The Athletic)を抱き合わせ、包括的なアクセスを提供する新たなサブスクリプション製品を発売する。同社のCEOプレジデントを務めるメレディス・コピット・レヴィアン氏が投資家向けの収支報告で語ったところによると、NYTでもっとも高額なサブスクリプション製品になる見込みという。
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先般報じた通り、複数のメディア資産のバンドル化は、個々のサブスクリプションサービスよりも、ユニークサブスクライバー数にフォーカスしようという同社の戦略転換の一環でもある。
バンドル化を進めるNYTの狙いは、解約を減らすことにほかならない。複数のサブスクリプション製品を抱き合わせることにより、既存の会員に解約の理由を与えず、リテンションの改善とLTVの拡大につなげたい考えという。
ディズニーをはじめ、定額制を基本とする動画配信サービスも、複数製品のバンドル化を活用して市場の変動に対応している。ニュースサイクルも同様だ。選挙もなく、トランプも不在で、ニュースの読者数や購読契約にはマイナスの影響がおよぶ反面、スポーツや料理やワードゲームなど、趣味のサイトを訪問したり購読したりする読者は増えるかもしれない。
ニュースサービスの解約に傾きそうなNYTの有料会員も、アスレチックやワイヤーカッター(Wirecutter)、あるいはワードル(Wordle)へのアクセスを維持するために、解約を思いとどまるかもしれない。
有料会員をつかまえておくことには別のメリットもある。定期的な購読料収入に加えて、この人々はファーストパーティデータの継続的な供給源ともなる。NYTのようなパブリッシャーは、このデータを活用して、広告事業にテコ入れできる。しかも、パブリッシャーのファーストパーティは潜在的な有料会員の供給源ともなるため、双方向のメリットが期待できる。
デイリービーストはデータ獲得へ全力
一方、デイリービーストのミア・リビーCROによると、今年同社が採用する戦略はファーストパーティデータ事業とサブスクリプション事業の連携だという。具体的には、従来的なペイウォールと登録ウォールを組み合わせ、動的に運用することを計画している。
通常、ペイウォールでブロックされた記事にぶつかると、読者は購読料を支払ってこの記事にアクセスするが、一部の読者には、電子メールアドレスの提供と引き換えに、閲覧を続ける選択肢が提示されるという。ファーストパーティデータの収集という形で、収益化の機会を広げることが狙いだ。これにより、有料会員化に至らない人々からも、追加的な収入を獲得する道が開かれる。
デイリービーストにとって、ペイウォールと登録ウォールのハイブリッドは、支払情報の提供に至らない人々からもファーストパーティデータを収集するひとつの手段にすぎない。ほかにも、モバイルアプリ、電子メールベースのニュースレター、あるいはデスクトップ通知など、あらゆる手を尽くしてファーストパーティデータを収集している。もちろん、このなかには既存の有料会員から集めるデータも含まれる。
リビー氏によると、デイリービーストに電子メールアドレスを提供しているユーザーは「既知のユーザー」と呼ばれ、その価値は未知のユーザーよりも約169%高いという。この人々はニュースレターやデスクトップ通知などの利用者で、より多くのファーストパーティデータをもたらし、同社が所有運営するサイトやアプリとの関与も深い。結果的に、セッションあたりの広告収入は増加し、有料会員化の傾向も強くなる。
「ニュースレターやデスクトップ通知を利用している人々の有料会員化率は、そうでない人々よりもはるかに高い」とリビー氏は話す。「我々にとって、時間と予算を投じるに値する領域だ。サブスクリプションを促すためのファネルをしっかり構築すべきときだと実感した」。
[原文:Media Briefing: How publishers are seeking to stretch their subscriber funnels]
TIM PETERSON and KAYLEIGH BARBER(翻訳:英じゅんこ、編集:分島翔平)