ピンタレスト(Pinterest)とパブリッシャーの関係は変化しており、対ピンタレスト戦略に本腰を入れて取り組むメディアカンパニーも出はじめた。そのピンタレストの利用方法は、単なるトラフィックを取り戻す手段にはとどまらない。
ピンタレスト(Pinterest)とパブリッシャーの関係は変化しており、対ピンタレスト戦略に本腰を入れて取り組むメディアカンパニーも出はじめた。そのピンタレストの利用方法は、単なるトラフィックを取り戻す手段にはとどまらない。
こうした戦略の変更は、ピンタレスト自体が自社を再評価する段階に入っているという事実にも起因する。ピンタレストがいま求めているのは、オーディエンスの滞在時間を長くすることだ。この数年、ビジュアル検索プラットフォームとして位置づけようとしてきたものの、ここにきてまたSNS企業としてのアイデンティティを揺るがそうとしている。
パブリッシャーの助けを借りて現在同社が取り組んでいるのが、イメージチェンジである。
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主なポイント
- ピンタレストは、オーディエンスをほかのウェブサイトに送るだけでなく、お金と時間を使ってもらえる検索プラットフォームとして認識されたいと考えている。
- ピンタレストは、場合によってはパブリッシャーと提携して、このミッションを達成することもある。
- このアイデンティティのシフトにはほかのメディアも気づいており、ピンタレスト対策を調整しなければ、記事とブランド力のどちらの取組みも良い結果を維持するのは難しい状況にある。
ピンタレスト自らが提案した内容を受けて、ギャラリー・メディア・グループ(Gallery Media Group)傘下の女性向けライフスタイル誌ピュアワウ(PureWow)のエディトリアルチームは、「ピンタレストをSNSプラットフォームとして捉えるのをやめて、基本的にSEOプラットフォームとして捉えはじめている」と同誌編集長のジリアン・クイント氏は話す。同氏はピンタレストを、特に新しい「ローカロリーのブリトーレシピ」を探したり、自宅のインテリアやウェディング、秋のワードローブのヒントを探したりするときによくチェックする場所だと説明した。一方、ピンタレストのコンテンツ・クリエイター・パートナーシップ担当責任者アヤ・カナイ氏は米DIGIDAYに対して、「(ピンタレストは)オーディエンスの好みに合わせたカタログのようなもの」のほうが近いと思うとメールで回答しているが、このことから、ピンタレストが新たなショッピングデスティネーションになろうとしていることがわかる。
ふたつの新サービス
ピンタレストのこうした認識はいずれも、2021年に発表されたふたつの新たなサービスで裏付けされている。それが、5月にデビューした「アイデアピン(idea pins)」と、11月第1週に発表された「ピンタレストTV(Pinterest TV)」だ。
アイデアピン:インスタグラムストーリーズ(あるいはTwitterフリート、リンクトインストーリーズなど――両方とも今はもうないが)のようなもの。ユーザーがひとつのピンで最大20の動画や写真をまとめて投稿できる。ただ24時間経過しても消去されない。
ピンタレストTV:ライフスタイルメディア企業Brit + CoでCRO兼COOを務めるマシュー・シュルテ氏によると、ピンタレストTVは、クリエイターがピンタレストで製品を販売するためのよりよい機会を提供する、ショッピング機能のついた新たな動画サービス(FacebookとGoogleの牙城)。
とはいえ、こうした新サービスの開始により、パブリッシャーは今後もアルゴリズムの変更に対応せざるを得ない状況にある。というのも、ピンタレストがもともと重視しているピンのタイプを優先しはじめたからだ。
アルゴリズムの変更
「昨年2020年の1年間は、画像のピンでオーガニックリーチの減少が見られていた」とシュルテ氏。もともと画像ピンは投稿から30日で平均1000から6000ビューを獲得すると話す。その一方、アイデアピンであればBrit + Coが10万ビュー以上を獲得するのも難しくなく、ピンあたりのエンゲージメント数(たとえばボードに画像をピンすること)は2000ほどになる。
シュルテ氏はさまざまな事例を調査した結果、ピンタレストが「間違いなくアルゴリズムを変えている」という結論にいたった。米DIGIDAYはピンタレストに対して、従来のピンよりもアイデアピンを優先させるようにアルゴリズムを変更したのか尋ねたが、ピンタレストのある広報担当者は直接その質問に回答しなかったものの、「このタイプのコンテンツも、ホームフィードや検索のように、ピナーの皆さんがアイデアを見つけようと思えるような場所にしていくために投資を増やしている」と話した。
オーディエンスの滞在時間を向上する取組みついて尋ねたところ、「最近、ショッピングとクリエイターに関していくつか改善しているが、この動きは今後も続き、ライブ動画配信でその勢いにさらに弾みがつく」とピンタレストのカナイ氏が話した。
この変更は、Brit + Coがブランドパートナーを支えるために必要としてきたものだ。というのも、顧客のキャンペーン全体の80%にピンタレストのコンポーネントが利用されているからだ。これは、パフォーマンスの期待値を調整すること(つまり、アイデアピンであればオーディエンスが外部ウェブサイトにクリックしなくなるので、クリック率がピンのセーブ率に変わる)、魅力的で充実した投稿のために動画やさまざまな写真を撮影するには、顧客にこれまで以上に制作費を負担してもらうことを意味する。さらに、従来のピンのように、クリエイターがお金を払えばピンタレストでアイデアピンをパワーアップできる状態ではないので、キャンペーンの成果が保証できない。
アイデアピンの恩恵
ピュアワウにはピンタレストに対してしっかりとした編集方針がある。編集長のクイント氏によると、これはピュアワウのオーディエンスとピンタレストのユーザーとのクロスオーバー率が高いことが大きな理由だという。2021年11月、同社のピンタレストフォロワー数は85万アカウントを超え、ピンタレストがアルゴリズムを変更してからというもの、オーディエンス数も大幅に上昇している。アイデアピンのフォーマットが発表されてから6カ月の数字を、それまでの6カ月と比較すると、ピュアウワのインプレッションは32%の上昇を見せ、ピンタレストでピュアワウのコンテンツを投稿する投稿者数も22%上昇しているとクイント氏は話す。
メディアカンパニーBDG(バッスル・デジタル・グループ)で営業担当シニアバイスプレジデントを務めるジョーンズ・スタッドホルム氏によると、同社もアイデアピンを早くから取り入れている企業の1社だ。このフォーマットが発表されてからというもの、BDGのパブリケーション各誌のインプレッションはすでに数百万を数えるという。
とはいえ、これだけ大きな数字が出たのは、ピンタレストがBDGと提携し、BDGのオーディエンスにピンタレストの新サービスを利用するよう働きかけたことによる。なかには、これを機会にピンタレストをはじめて利用をするオーディエンスもいた。なお、スタッドホルム氏は今回の提携による具体的な収益について、公表を差し控えている。
「最優先のプラットフォーム」
8月30日、BDG傘下のバッスル(Bustle)、エリート・デイリー(Elite Daily)、ナイロン(Nylon)は「ストーム・ザ・ドーム(Storm the Dorm)」と銘打ち、1カ月間のコンテストを開始した。オーディエンスに呼びかけて、ピンタレストのアイデアピンを使い、憧れのドームルームを形にしたビジョンボードを作ろうというキャンペーンだ。スタッドホルム氏によると、3誌のZ世代オーディエンスをピンタレストのアクティブユーザーに変えることを目標に掲げたこのイベントでは、最終的に参加者から5人を選出、1000ドル(約11万円)のVISAギフトカードが贈呈された。
このキャンペーンでBDG3誌は、ほかのSNSやウェブサイトも利用し、オーディエンスをピンタレストに呼び込んだ。なお、BDGは今回のキャンペーンで得たインプレッションやリーチの数に関して、公表を拒んでいる。
「弊社が最優先するプラットフォームは間違いなくピンタレストだ」と語るスタッドホルム氏。
[原文:Media Briefing: How publishers are adjusting their Pinterest approaches]
Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:長田真)