老舗出版社の米コンデナスト(Condé Nast)は今年はじめ、雑誌ごとの発行人の役職を廃止し、営業部門をグループ全体で統合した。これに先立ち、ほかの複数の雑誌を発行する出版社でも、デジタルメディア企業のように広告営業チームを一本化した体制への移行が進められていた。新時代型の体制のメリット、デメリットとは。
老舗出版社の米コンデナスト(Condé Nast)は今年はじめ、雑誌ごとの発行人の役職を廃止し、営業部門をグループ全体で統合した。これに先立ち、ほかの複数の雑誌を発行する出版社でも、デジタルネイティブのメディア企業のように広告営業チームを一本化した体制への移行が進められていた。
その代表例は、タイム社(Time Inc.)だ。同社の規模が大きいために体制変更は難航し、時間がかかった。同社は2016年、発行する22の雑誌すべてで発行人の役職を廃止。それにともない、医薬、食品、自動車を筆頭とする11の広告カテゴリーでの営業体制に移行した。同社全体の営業チームが、クライアントの要望に合わせて対応する。
「以前は22の事業部門それぞれに、個別の営業・マーケティングチームを置いていた」と、同社のチーフレベニューオフィサー、ブラッド・エルダーズ氏は語った。「それでは、22のチームがたとえばP&Gに、可能なソリューション全体のごく小さな一部分を提案することになる。一部の大手に対しては取引をまとめたほうが、メリットがある」。
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そこで22の役職を廃して2つのコンテンツ管理体制に移行し、広告のフォーマットおよび価格を標準化。さらにソリューションベースの新たなアプローチについて、営業チームを再教育した。もちろんその道のりは容易ではなかったが、改革が進むにつれてより大きな契約が舞い込むようになり、クライアントからもいくらか好評を得ているという。エルダーズ氏は「正しい方向に進んでいる証拠だ」と語った。
従来型とデジタル時代型の体制
一方、従来型の出版社ボニアー(Bonnier Corp.)は、愛好家向けに自転車やグルメなどの専門誌を多数発行している都合上、発行人の職位を廃止していない。同社の収益の大半は雑誌ごとの専門分野の広告に占められており、それぞれの営業担当者が分野ごとに深い知識を持っているためだ。「弊社には、グルメや自転車などに関する真のエキスパートがいる」と同社のチーフデジタルレベニューオフィサーであるシーン・ホルツマン氏は語った。同社の専門分野とは関係のない日用品企業などの広告主が、より広範囲のオーディエンスへのリーチを希望する場合は、国内向け法人営業チームやプログラマティック広告営業チームの出番となる。
デジタルメディアのみに特化した企業は、従来型のビジネスモデルから生じやすい問題を抱えておらず、自社の複数のサイトの広告枠をまとめてひとつのネットワークとして販売している。Vox Mediaでは、ひとつの営業チームが同社の8つのサイトすべての広告枠を取り扱っている。2016年、ユニビジョン(Univision)のフュージョンメディアグループ(Fusion Media Group)傘下に入った米ギズモードメディアグループ(Gizmodo Media Group)も同様だ。Vox Mediaの収益およびパートナーシップ担当シニアバイスプレジデント兼グローバルヘッド、マイク・ハッジス氏によると、同社はブランドとして収益増をめざしているため、同社の営業チームは「サイト単位ではなく」ブランドとして営業活動を行う必要があると語った。サイトごとに固有のマーケターがついていて、サイトの特性や編集方針に関する情報を営業スタッフに提供しているのだという。
広告のリーチ規模を売りにする営業手法には、限界がある。ハードルは上がり続けるばかりであり、相当な規模のオーディエンスを獲得していなければ交渉のスタートラインにさえ立てないからだ。このためメディアは、エンゲージメントなどの特性を武器にする必要がある。そうした企業の幹部は、自社のコンテンツはサイトごとに異なるが、しかし自社のオーディエンスはすべてのサイトで高いエンゲージメント率を誇るなどの共通点を持つと話す。ギズモードメディアグループのCEO、ラジュ・ナリセティ氏によると、同社の各サイトにおけるトラフィックの40%は、同社のほかのサイトからのものだという。記事ごとの平均滞在時間は、効果測定企業チャートビート(Chartbeat)による複数のメディアでの調査結果(30秒)を上回る、49秒だ。
メリットとデメリット、いずれを取るか
メディアバイイングの観点から見ると、広告費は従来どおりブランドごとに異なる。そのため、メディアごとのオーディエンスと編集方針をよく知る人物に営業を担当させることが、依然として重要だ。そう語ったのは、メディアエージェンシーPHDの出版メディア部門グループディレクター、ジョン・ワグナー氏。同氏はさらに、タイム社の体制変更は少し行き過ぎだと評した。「タイム社はひとつの営業チームに26ものブランドを担当させているが、以前はフード&ライフスタイル誌『クッキングライト(Cooking Light)』部門だった人が、芸能誌『ピープル(People)』の営業を担当できるとは思えない」。
一方、タイム社のエルダーズ氏は、確かに同社の体制変更により多くのスタッフを再教育しなければならず、クライアントの担当者を変更することにもなったが、それでも行き過ぎではないと語った。「どんな改革でも問題は生じる。我々にはただバランスが必要だった。ブランドとデジタルプロダクトのチームを組み合わせたカテゴリー構造を築くことこそが、進むべき正しい道だ」。
Lucia Moses(原文 / 訳:SI Japan)