失われた10年、ジャーナリスト たちが歩んだ「茨の道」:「すべてが完全に変わってしまった」

2年前、ゲイル氏(仮名)はメディアの大舞台へとステップアップするときが来たと感じていた。調査報道をメインに据えた地方紙の切り抜きをファイリングしながら、全国のオーディエンス向けに記事を書くことが彼女の夢だった。彼女はデジタルパブリケーションでの職探しを開始し、最終的にエリートデイリー(Elite Daily)での職を獲得した。

希望していたアトランティック(The Atlantic)とは違っていたが、全国ブランドを持つデジタルネイティブのメディアで仕事をすることで自分の仕事と名前を世間にお披露目できると思っていた。また、この仕事を通じて現代のメディアがどういう仕組になっているかも学べると考えた。しかし、それを学ぶ前に、現実を直視させられる出来事が待っていた。

「報道のやり方は理解していた。私がやりたかったことは報道だし、仕事として約束された内容もそれだった。しかし、やらされたのは、カーダシアン一家のまとめアレコレだった」と、ゲイル氏は言う。

「腐った部分を過小評価」

彼女に課せられたのは、各600単語ほどの長さの記事を、毎日3本から5本提出することだった。彼女はひとりで仕事をさせられ、ほかの遠隔勤務の同僚たちとつながる術はなかった。これはエリート・デイリーが、スラック(Slack)のような社内メッセージシステムへのアクセス権限をライターたちに与えないからだった。そのため同僚と関係性を深めたり、エリート・デイリー内で成長する助けとなり得るような関係を築くことが難しかった。

最終的に8カ月後に、彼女はエリート・デイリーを辞めた。しかし、今後の求職に役立ちそうな自分の記事は、ひとつも生み出せていなかった。彼女がここで得たのは「ハイプレッシャー」や「締め切りに対応できる」といった求人における表現が、現場でどのような意味を持っているか、という知識だった。

「いまとなっては、『お前を骨の髄まで使い切るぞ』という雇用側の意志が読み取れるような(求人における)表現を見抜くことが上手くなった」と彼女は言う。

それ以来、ゲイル氏はフリーランスで働いてきた。いま、彼女が持つメディアのエコシステムの理解は、より深いものとなっている。本稿の取材で、メディアのエコシステムについて語るよう頼んだところ、彼女は自信と確信を持って回答してくれた。

「デジタルメディアは完全にカオスな状態となっている。業界が窮地に立たされていることは理解していたが、腐った部分がどれだけ深いところまで根ざしているか、極めて過小評価していた」と、ゲイル氏は言う。

ライターたちの失われた10年

ここ数年間、多くの異なる危機がメディア業界で噴出した。今後の暗い見通し、そして業界の人々の決意がどんどんと弱くなってきていることは、あまり深堀りされない側面だ。10年に渡り、常に変化が続いてきた。そして次に何が起きるか確定したものはない。これによってレポーターたちの失われた一世代を生み出した。彼らの展望は、GoogleやFacebookがやろうとしていることと同じくらい、メディアの未来に影響を与えるだろう。

こういったライターたちは過去の偉大なライターたちを尊敬し、長期に渡るインパクトを持つような記事を書きたいと思っている。しかし、大流行したネット上のミームを集めたものは、ある点では同程度の価値を持っているというマーケットの論理を、彼らは内面化している。

容赦ないメディアビジネスの世界が10年続いたいま、ライターたちは彼ら労働者の組織化が重要であると確信している。これは報酬額を上げるためだけではなく、階級差別、人種差別、性別差別といった誤った行いを正すためにも必要だ。

ここに底流しているのは、報酬のためか、それとも仕事に対する情熱のためか、どちらにしても彼らの仕事に将来はあるのか、という点に関する深い不確かさだ。この不確かさが、彼らが作るあらゆる物に表れてきている。

デジタルメディアでも解雇が

「最終的には皆が合理的に結論に至ると思う。5回解雇され、10回フリーランスの原稿料が未払いになり、Vox(ボックス)が何百万回契約書を変更する。我々全員がこういった経験に我慢できなくなっている」と語ったのは、ケイト・ガーディナー氏だ。彼女はフリーランスのレポーター、そしてアルジャジーラ(Al-Jazeera)やPBSといったメディア企業でオーディエンス開発とソーシャル戦略の責任者を経験してきた。最終的にはジャーナリズムを去り、コミュニケーションズ企業のグレイホース(Grey Horse)を創立している。

このような不安を生んでいる一番の原因はメディア業界における解雇だ。メディアに関わる人であれば状況が暗いものであること、さらには具体的な数字まで覚えているかもしれないが、簡単にまとめたい。米・労働省労働統計局のデータをピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)が分析した結果、過去10年のあいだ、ニュースルームでの雇用は25%ほど、減少したことが分かっている。デジタルメディアにおける雇用増は新聞の雇用の崩壊を十分には補填していない。新聞社では2008年から2018年にかけて全体の47%が仕事を失っていることが前述の分析で分かった。

上記期間において、デジタルメディア関連の仕事についている人の数は82%増え、2018年には1万3500人となっている。デジタルメディアにおける雇用増ですら、業界が経験してきた混乱の姿を見えづらくさせている。ピュー・リサーチ・センターの調査対象となったデジタルメディアでは全体の25%が、2017年1月から2018年4月のあいだに一斉解雇を行っている。

絶え間ない戦略転換の末に

しかし、2番目に大きな問題は、業界が常に、実行可能なビジネスモデルを模索しながら戦略を転換し続けることだろう。メディア企業が自らの配布システムのコントロールを失い、その結果オーディエンスに対するコントロールも失ったことで、広告収益を求めて次から次へと新しい試みを試してきている。スケールを求めた結果のボリューム増加や、スライドショーから動画、そしてプロダクトガイドといったコンテンツの新しいフォーマットを追求して、広告主からの資金を得る、といった試みだ。

「WB・イェイツの言葉を下手ながら編集して使わせてもらうと、あらゆる物が完全に変わってしまった、という具合だ。20年前のジャーナリズム学校では、ページビューについて学ぶ必要はなかった」と、ジョン・クローリー氏は語る。クローリー氏は、テレグラフ(The Telegraph)やウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)といった新聞社で編集者として勤務経験があり、最近ではインターナショナルビジネス・タイムズ(The International Business Times)やデイリーメイル(Daily Mail)といったデジタルネイティブのパブリッシャーで勤務してきた。

ジャーナリストが学ばなければいけないスキルと言われるものも、しばしば数年後には無用のスキルとなってしまう。1時間以内に大量の記事を生み出す技術をライターたちは身につけたが、すぐにパブリッシャーたちはニュースデスクを中央化し、コモディティレポートから撤退した。90秒動画制作の技術を洗練させた動画チームも、いまでは長編の動画を作るように言われている。

組織化に頼る労働者たち

業界におけるこの混乱によって、労働者側が組織化に頼ろうとする傾向が生まれてきている。たとえば、全米ライター組合(WGA)の東地区ではデジタルネイティブのメディアであるバイス(Vice)やハフポスト(HuffPost)などの労働者を組織化した。そして、WGAでは過去5年間で40%以上の会員増を見せた。WGAの東地区には5000人の組合員が存在しており、そのうち1200人がデジタルメディア企業で勤務していると、今春公開されたレポートで書かれている。

「業界の混沌のおかげで、人々は自分の労働環境にフォーカスするというインスピレーションが生まれている。彼らは決して、天国のような労働環境にいる、というわけではない。これらは本当に問題であり、我々は何か対策を講じなければいけない」と、WGA東地区のエグゼクティブ・ディレクターであるローウェル・ピーターソン氏は言う。

ライターが求める物は、人によって異なる。たとえば、給与の改善を求めて戦った人々がいる。ピーターソン氏によると、WGA東地区が労働組合結成を助けた会社の多くは、週に60時間働くライターたちに対する給与が3万ドル(約320万円)しかなかった。その一方で、会社の方向性、その手法についてより多くの情報を得ることも、団体交渉チームにとってますます優先度が高くなっている事項のひとつだ。パブリッシャーの役員会の席を求めたライターたちもいれば、ニュースルームも会社の現状について知らされるために、四半期ごとの戦略ミーティングを開くことを求めたライターたちもいる。

こういった成果を獲得するのは比較的難しい。しかし交渉において、こういった要求を組み込んでいくことは生産的だと、考えるパブリッシャーは個々に存在していると、ピーターソン氏は言う。

億万長者も信用はできない

しかしニュースルームがコントロールを握ったとしても、どの方向性に向かえば良いか分かるかどうかは不明確だ。業界の混沌の一因は、ライター自身が何をすれば良いのか分からない点にある。

「資産家による慈善的寄付」というアイデアは盛んに議論されている。地方紙やレガシー新聞社の救済といった文脈で重要な役割を担ってきたアイデアだが、長年業界で勤めたベテランライターたちは希望を見出せない者もいるようだ。

「億万長者がジャーナリズムを救う、ということはない。そして、彼らに依存するのは非常に危険だ」と、ビレッジ・ボイス(The Village Voice)の元エディターのひとりは語った。

大資産家バービー一家の御曹司であるピーター・バービー氏は、経営難に苦しんでいたビレッジ・ボイスを2015年に買収した。そのときは、かつての栄光のときのようなパブリッシャーに戻すためには、必要な投資を惜しまないと発言した。これによって、ビレッジ・ボイスの社内では興奮と希望が広がったのを、この元エディターは覚えている。本稿執筆に際して、元エディターは匿名を希望した。

「最初はとにかく信じられないくらい感動した。宝くじを当てたような気分だった」と、元エディターは言う。お金が入ってきて、スタッフが増やされ、フリーランサーの報酬が増え、ウェブサイトはリニューアルされた。

しかし、最終的には、この幸運は長続きしなかった。積み重なる損失が数年続いた結果、バービーは2018年夏、出版を停止するとスタッフに告げた(バービーはこの結果を「ダメダメだった」と表現している)。

自身も解決策が見えていない

管理職側での失敗の結果、メディア企業が挫折する、という話が語られるたびに、現場のスタッフに舵切りを任せていれば物事をもっと上手くやれていた、という示唆が含まれる。多くの人々が失敗してきたにも関わらず、彼らなら解決策を見つけられただろうという響きだ。

しかし、失われた世代に属するライターの特徴として決定的なのは、彼ら自身も解決策が見えていない、という点だろう。

「もし私自身が答えを知っていたら、それによって大金を稼げていただろうし、それを使ってビレッジ・ボイスを買収していただろう」と、元エディターは語った。

Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)