米ロサンゼルス・タイムズ紙(the Los Angeles Times:以下LAタイムズ)は5月、毎日更新のポッドキャスト形式ニュース番組「ザ・タイムズ(The Times)」の配信を開始する。ポッドキャストへの参入は、ニュース専門サイトとしては早いほうではない。しかし、米西海岸企業だからこその強みがある。
米ロサンゼルス・タイムズ紙(the Los Angeles Times:以下LAタイムズ)は5月、毎日更新のポッドキャスト形式ニュース番組「ザ・タイムズ(The Times)」の配信を開始する。ポッドキャストへの参入は、ニュース専門サイトとしては早いほうではない。しかし、LAタイムズの見立てでは、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)が配信する「ザ・デイリー(The Daily)」などが中心のこの分野には、アメリカ西海岸ならではの視点をもつメディアが入りこむ余地があるという。
「ザ・タイムズ」のホストはLAタイムズのコラムニスト、グスタボ・アレヤーノ氏。同紙が2020年4月に限定版として初めて配信した毎日更新のポッドキャストでも、アレヤーノ氏はホストをつとめた。番組は新型コロナウイルス感染症を題材とする40回シリーズで、LAタイムズから視聴率データの提供はなかったが、本格稼働に向けた試験運用の役割は十分に果たしたようだ。「ザ・タイムズ」第1回の放送は2021年5月3日で、平日毎日、米国太平洋標準時の午前5時から各回25分~30分間配信される。LAタイムズ広報担当者によると、番組のスポンサー1社(企業名は未公表)はすでに確保済みだという。
「『ザ・タイムズ』のポッドキャストは、その日のニュースをカリフォルニアの視点でとらえて報道するものだ」と、LAタイムズのエンターテインメント/オーディオ/戦略部門の副編集長、ジュリア・ターナー氏は語る。「アメリカでは、話題のニュースや生活・政治におけるトレンドの多くがカリフォルニアで最初に生まれ、発信される。たとえば気候変動、移民、アジア太平洋地域と中南米の影響力の高まりといった課題がそうだ。『ザ・タイムズ』は、その種の社会問題にも焦点を当て、エンターテインメントや文化、アジア系住民などのトピックと合わせて取り上げていくことになるだろう」。
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デイリーニュース人気の一因
LAタイムズでポッドキャスト/オーディオ部門のエグゼクティブ・プロデューサーをつとめるアビー・フェントレス・スワンソン氏によると、「ザ・タイムズ」のコンテンツはまだ制作中だが、ニュースルームおよび現場からの報道、「今話題の人」のインタビューなどが盛り込まれる予定だという。また、番組ではできるだけ多くのリポーター(その多くがリポーター未経験者)を登場させる意向だ。LAタイムズはフェントレス・スワンソン氏に加えて、新たにプロデューサー3名、エンジニア1名を採用し、「ザ・タイムズ」の担当とする。
今回LAタイムズが進出する「デイリーニュース」は、すでに多くのメディアが参入しており、オーディオ番組のなかでも特に人気が高いカテゴリーのひとつだ。ポッドキャスト分析サービス会社チャータブル(Chartable)の共同創業者兼CEO、デイブ・ゾーロブ氏によると、ポッドキャストの人気ランキングトップ20のうち7番組が「デイリーニュース」に分類される。このカテゴリーのポッドキャスト全体のダウンロード数は前年比でも前年同月比でも増加しているという。
オーディオメディア代理店のベリトーン・ワン(Veritone One)でポッドキャスト・メディア部門バイスプレジデントをつとめるヒラリー・ロス氏は、デイリーニュースの人気の一因として、聴取の習慣化をあげている。こうした番組のリスナーは、ニュースを聴くのが日課となっているという意味で「望ましいオーディエンス」だという。
「世界に発信する広告塔として」
LAタイムズはこれまでに10数本のポッドキャストを制作した。同社のデータによれば人気ポッドキャスト番組「ダーティ・ジョン(Dirty John)」はすでに7000万ダウンロードを達成している。新番組「ザ・タイムズ」は、「ナラティブ形式(自由な語り)の分野における当社の取り組みを補完する役割を果たす」とターナー氏は述べている。ナラティブ形式のポッドキャストは広告収入に加えて、番組がテレビ化された場合には「派生的な売上」も期待できる。とはいえ、ドラマ化およびドキュメンタリー番組化された「ダーティ・ジョン-秘密と嘘-(Dirty John)」がLAタイムズ制作の番組だと知らないリスナーもいるかもしれない(「ダーティ・ジョン-秘密と嘘-」は有料テレビのブラボー[Bravo]でドラマ化され、同じく有料テレビのオキシジェン[Oxygen]ではドキュメンタリー番組として放送された)。
「ザ・タイムズ」はLAタイムズを代表するポッドキャスト番組になりそうだとターナー氏はいう。「当社のニュースルームの顔として、我々の日々の取り組みを世界に発信する広告塔として機能するだろう」。
LAタイムズは今春6週間で、新番組に加えて既存場組の新シーズン計3本の配信を開始する。「ザ・タイムズ」「アジアン・イナフ(Asian Enough)」のシーズン2、そして「ダーティ・ジョン-秘密と嘘-」制作者による新シリーズで、実際に起こった犯罪を描いた「ザ・トライアルズ・オブ・フランク・カーソン(The Trials of Frank Carson)」だ。
有料購読者を対象とした配信
LAタイムズはポッドキャスト番組のスポンサー権を販売しており、新型コロナウイルス関連情報を主に扱うポッドキャスト「カリフォルニアにおけるコロナウイルス(Coronavirus in California)」では、カリフォルニア州内で事業を展開する医療保険会社ブルーシールド・オブ・カリフォルニア(Blue Shield of California)がスポンサーとなった。LAタイムズは番組司会者が読み上げるホストリード広告は扱っていないが、ロス氏によれば「ニュース媒体ではよくある慣行」だという。「報道番組の司会者が特定のブランド企業に代わってメッセージを伝えるのをよしとしない、いわば政教分離のような考え方だ」。
LAタイムズは、ポッドキャスト番組からの収入が同社の総売上に占める割合については開示していないが、広報担当者は「過去2年間で大幅に伸びた」とコメントしており、「2020年4月から8月に配信されたポッドキャストでは、広告在庫はすべて売り切れた」と述べた。
同社は今春、ポッドキャストの新たな収益モデルとして、有料購読者を対象とした配信を開始する。『ザ・トライアルズ・オブ・フランク・カーソン』の場合、8話は無料でダウンロード可能だが、LAタイムズ購読者の場合はボーナスエピソードとしてさらに8話分が視聴できる。
「収益などを増加させる牽引役」
有料購読者限定のサービスは「ザ・タイムズ」でもそのうち導入されるだろうとターナー氏は予想している。また、LAタイムズはオーディオ分野の新たな収益源を確保すべく、ポッドキャストにおけるプログラマティック広告と直販広告の組み合わせなどの可能性を探っているという。
一部のエピソードを有料購読者限定で配信する方法は、「収益、オーディエンス、購読者を増加させる牽引役となる」と、デジタル広告代理店ウォルトン・アイザックソンでマネージング・ディレクターをつとめるアルバート・トンプソン氏は語っている。
[原文:Los Angeles Times enters crowded daily news podcast market with a West Coast twist]
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)