「長期的計画の成果だ」: FT 、有料購読者100万人達成

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フィナンシャル・タイムズ(The Financial Times:以下、FT)が、有料購読者100万人の目標を1年前倒しで達成した。長期的視野とデータファーストのアプローチにより、新たなオーディエンスのためのプロダクト開発と、既存の読者のリテンションのバランスを保つことに成功したおかげだ。

FTによれば、現在デジタルサブスクリプションは発行部数の4分の3以上を占める。昨年、FTグループの総売上は3億8300万ポンド(約557億円)で、純利益は2500万ポンド(約36億4000万円)だった。CEOのジョン・リディング氏は、成功の要因として、サブスクリプションモデル、デジタル改革への投資、それにフェイクニュース時代における信頼性の高い報道の3つをあげる。

有料購読の時代に適応するため、多くのパブリッシャーが読者売上戦略を練るなか、FTは有料購読者100万人の達成に17年を費やした。メーター制からの移行は2015年に実施され、1カ月のトライアル期間中は割引価格で購読できる。

「長期的計画と長期的投資の成果だ」と、エンダース・アナリシス(Enders Analysis)のCEO、ダグラス・マッケイブ氏はいう。「我々が調査したすべての企業のなかで、FTは私が考える『第一原則』にもっとも近いアプローチを採用している。かれらはサブスクリプションファネルに何百人もの人材を抱えてはいないが、彼らの戦略的フレームワークと意思決定基準は非常に明確で、トレードオフをよく理解している」。

FTのオーディエンスエンゲージメント部門は、読者体験の向上・進化という点で目覚ましい成果をあげており、ジャーナリストに読者の視点を意識させることに成功したと、マッケイブ氏は付け加えて述べた。

データサイエンスを駆使

たとえば、FTはデータサイエンスを駆使し、いくつかの指標の点をつないで全体像を把握している。コンテンツのパフォーマンスや、読者がFTを訪問する頻度、1回の訪問あたりに読まれる記事の数、有料購読者の獲得数やリテンション。これらの指標はみな、読者と読者の行動に関連している。

「クオリティリーズ(Quality Reads)」と呼ばれる新指標は、読者が記事の半分以上を読んだページビューを、滞在時間、スクロール距離、それに有料会員の類似コンテンツとの相互作用データから推定したものだ。ニュースデスクはこの指標を毎週、デスク間のアナリティクスレポートとして受け取る。

またFTは、新たなオーディエンスの獲得のため、異なるタイプのフォーマットや記事も活用している。データビジュアリゼーション、インタラクティブゲーム、マルチメディアといったアプローチで、報道とアートを融合させているのだ。たとえば、「ブレグジット:アイルランド国境からの叫び」と題した動画は、ある詩人に依頼して制作したオリジナルの詩の朗読を国境で撮影したものだ。さらにイベント事業にも参入を果たし、4月9日に開催された「FTオンステージ(FT On Stage)」では、ニュースルームが劇場で再現された。

若い読者層へのリーチ拡大

若い読者層へのリーチ拡大も継続的なイニシアチブとして進められており、学生と教師にFTのコンテンツを定期的に読んでもらうための長期プログラムが実施されている。最近、解説記事のテンプレートがリニューアルされ、ターゲットに合わせて進化した。これは若者(得に女性)の読者からの、FTはとっつきにくいというフィードバックを受けての変化だ。

「ニュースレターやパーソナライゼーション機能『My FT(興味のあるトピックを選んだり、記事を保存できる)』は彼らの戦略の重要部分だが、それもすべてデータに基づいている」と、ロイター・インスティチュート(Reuters Institute)が発行するデジタルニュースレポート(Digital News Report)の編集者、ニック・ニューマン氏はいう。

新たにスタートした「ロング・ストーリー・ショート(Long Story Short)」は、女性記者が女性向けに書くシリーズだ。またFTは、M&Aに特化した「デュー・デリジェンス(Due Diligence)」などのニュースレターでも定期読者を増やした。関係者によると、2018年後半にプッシュ通知機能を導入したことで、FTの記事は公開後より早く、より頻繁に、より多く読まれるようになったという。

「まだ限界にはほど遠い」

メディアアナリストの見方によると、FTの有料購読者数はまだ上限に近づいてはいない。「オンラインニュースへの支払い意欲に関するロイター・インスティチュートのデータによると、ニュース有料購読の意思がある英国人は500万人弱であり、まだ限界にはほど遠いと考えている」と、マッケイブ氏は述べ、パブリッシャーのサービスが向上すれば、その上限も押し上げられるだろうと補足した。FTによれば、すでに読者の70%は英国以外の住民だ。30年前、同紙の読者はほぼ完全に英国人だけで占められていた。加えて、企業単位の有料購読者も増えているため、一般消費者だけを対象とした事業よりも持続可能性が期待できる

だからといって、次の100万人の獲得は容易ではないだろう。ますます多くのパブリッシャーが、読者売上戦略の策定を急いでいるからだ。最大手のひとつ、ニュースUK(News UK)傘下のタイムズ(Times of London)は、昨年夏に有料購読者50万人を達成した。昨年11月、ガーディアン(The Guardian)は寄付読者100万人突破を発表した(ただし寄付額はまちまちだ)。週刊誌のエコノミスト(The Economist)は、発行部数公査機構によれば、紙媒体・デジタル合わせて160万人の読者を抱える。

「究極的にはセグメンテーションの問題だ」と、サイモン・クチャー&パートナーズ(Simon-Kucher & Partners)で戦略・マーケティングコンサルタント部門責任者を務める、グレッグ・ハーウッド氏はいう。「正しい方向への投資、新たなイニシアチブの試行錯誤の継続、手付かずのオーディエンスの需要や関心の深い理解、彼らにハードルを超えさせるためのすぐれたコミュニケーション。これらが鍵になるだろう」。

なお、原文記事の公開までに、FTからのコメントは得られなかった。

Lucinda Southern(原文 / 訳:ガリレオ)