来るサードパーティCookieの終焉に向け、企業は対策を進めている。しかし日本と海外とでは、その進度に差があるようだ。Cookieに依存しない広告手法「共通IDソリューション」を展開するLiveRampの今井則幸氏に、いま日本企業が行うべき対策を訊いた。
Cookie規制対策で、最適解を求めすぎてはいけない。まずは動き出すことが重要だ。
「いま必要なのは、さまざまなソリューションの組み合わせやテストを通じ、方針を具体化させることだ。実際、欧米企業はそのようなフェーズにある」と、パブリッシャーと広告主に対し、ポストCookieソリューションを提供するLiveRamp(ライブランプ)でヘッドオブパートナーシップスを務める今井則幸氏は語る。「日本企業ではCookie規制対策の遅れが目立つ。彼らの多くは最適解にこだわりすぎて、実際の行動を起こせずにいるのではないか」。
そうした傾向は、LiveRampのクライアント内訳を見ても明らかだ。同社が提供するATS(Authenticated Traffic Solution/認証トラフィックソリューション)は、現在グローバルで500社以上のパブリッシャーに導入されている。しかし、そのうち行動を起こしはじめている日本企業はまだ十数媒体。また広告主に関しても対策が順調に進んでいるとはいえない。同社が5月27日に発表した調査によると、サードパーティCookie規制対策のためにソリューションを導入している日本の広告主は、46%にとどまっているという。
ATSは、パブリッシャーの持つ固有のRampIDと、それを広告主が持つRampIDをRTB(Real-Time Bidding/リアルタイムビッディング)のビッドストリームのなかでマッチングするというソリューション。メールアドレスなど、個人情報にあたるものを不可逆的にハッシュ化し、独自のアルゴリズムを用いて各企業ごとに固有化したIDが作成されるため、高い安全性を担保できる。また同社のソリューションは、コンテクスチュアルターゲティングといったほかのポストCookieソリューションと併用することで、さらなる効果を発揮すると考えられる。
日本企業はCookie規制対策について、どのような姿勢で望むべきか? 以下、今井氏にインタビューした内容をお届けする。一部、読みやすさを優先して編集してある。
──サードパーティCookie規制対策は、国内でどの程度進んでいますか?
すでにAppleのブラウザであるSafariでは、2020年3月24日のITP(Intelligent Tracking Prevention)の更新によって、サードパーティCookieは完全にブロックされています。一方のGoogleは、6月24日(米国時間)、サードパーティCookieのサポート終了を2023年に延長すると発表しましたが、実施すること自体に変更はありません。
欧米と比較すると、これまで日本企業の対策の進み具合は順調とはいえませんでした。パブリッシャーも広告主も、危機感は持っているようですが、いまなお様子を伺っていて、手つかずというケースがほとんどだったのです。さらにそんな最中、GoogleによるサードパーティCookie終了の延期が発表された。これにより、日本企業の対策が一層遅れてしまうのではと危惧しています。
──そうですか…。ちなみに、その進捗の悪さは、具体的に?
3月に私が登壇したDIGIDAY PUBLISHING SUMMIT 2021でもお話ししましたが、LiveRampが提供する共通IDソリューションであるATSは、グローバルで500社以上のパブリッシャーにご活用いただいています。しかし、そのうち日本のパブリッシャーは十数媒体程度です。
ATSは、ユーザーによる同意のもと取得されたパブリッシャーのファーストパーティデータであるログインID(ほとんどの場合メールアドレス)から、プライバシーへの配慮と安全性の担保を行いつつ生成された「RampID」を、広告主がCRMなどで管理しているファーストパーティデータから同様に生成した「RampID」とマッチングするというもの。サードパーティCookieを使用せずに、高精度なターゲティングや効果測定を実現するソリューションです。
国内のパブリッシャー同様、広告主に関しても対策が進んでいるとはいえません。我々が5月27日に発表した広告主と消費者向けの調査では、サードパーティCookie規制対策のために、何かしらソリューションを導入している企業は46%にとどまっていることが明らかになりました。
一方、欧米の広告主たちの多くは、来るべきCookieレスの世界を見越して、自社が保有する分断化したCRMデータを、RampIDを使って一元化する取り組みを数年前から積極的に実施しています。さらに現在は、その一元化したデータを広告活動に活用していくための、具体的な取り組みを進めている段階で、実際に結果にも繋がっています。日本企業も、またサードパーティCookieの終わりまでに時間が出来たと、足踏みをしている場合ではないのではないでしょうか。

「米国と比較すると、日本企業のCookie規制対策は遅れをとっている」と今井氏
──日本企業の対策がなかなか進まない理由は、どこにあるのでしょう?
パブリッシャーとマーケター、さらには個々の企業によって理由はさまざまです。ただ共通している点として挙げられるのは、最適解にこだわりすぎていることでしょう。
ここ数年で、市場には多数のポストCookieソリューションが生まれており、その強みもさまざまです。いま大切なのは、それらをテストし、異なるソリューションの組み合わせも含め、どのような選択肢が最適かを探ることにあります。しかし日本企業の多くは最適解にこだわるあまり、調べれば調べるほど足取りが重くなってしまっている。
──なるほど。ポストCookieショリューションの組み合わせにはどんな例が?
代表的なポストCookieソリューションには、共通IDソリューションのほかに、コンテクスチュアルターゲティングがあります。コンテキストにフォーカスしたアプローチは、共通IDソリューションとはまったく異なるもので、どちらが良い悪いという尺度で測れるものではありません。実際、我々のATSにしても、コンテクスチュアルターゲティングと併用していただいて問題ないですし、むしろ目的によっては、より良い効果を発揮します。
広告主にご利用いただくケースについて考えてみましょう。コンテクスチュアルターゲティングは、ブランディングや新規顧客へのリーチに強いのに対し、IDソリューションは、リターゲティングのようなトラッキングができるのが強み。これは、エンゲージメント率が高い既存顧客に対しては効果的ですが、双方を組み合わせて活用すれば、より大きな効果が見込めます。
パブリッシャーに関しても、共通IDソリューションとコンテクスチュアルターゲティングを組み合わせることで、より幅広い広告主の要望に応えられるようになります。
──ただ、共通IDソリューションに関しては、覇権争いが激化しているように見えます。そうなると、十分な効果が発揮できないのでは?
数多くのソリューションが提案されているという事実は確かにあります。しかし今後は、独自のIDが増えることで断片化と競争が起こるというよりは、競合同士の協業が進んでいくと考えています。というのも共通IDソリューションは、相互連携が可能で、活用するパブリッシャーや広告主が多ければ多いほど、その効果を発揮するからです。
こうした方針のもと我々は、他ソリューションとの連携を進めています。たとえば先日も、代表的な共通IDソリューションである「Unified ID 2.0(以下、UID 2)」との連携を完了しました。
これにより、UID 2を採用しているDSPを利用している広告主も、SSPから送られてくるビッドリクエストに含まれたRampIDに対して入札を行うことができるため、リーチを確保することができる。
一方パブリッシャーも、RampIDと UID 2それぞれを採用する広告主両方から入札を受けることが可能になりました。さらに、今後もうしばらくはRampIDのような人ベースの共通IDによる買い付けだけではなく、Cookieベースのターゲティングによってもインプレッションの価値が判断されることが予想されるので、より多くの競争が発生するでしょう。その結果CPMが高まり、収益が向上するというわけです。

「LiveRampは、他ソリューションとの協業を積極的に推進している」と強調する今井氏
──それは効きそうですね。パブリッシャーと広告主、双方にメリットがある
はい。いうまでもないですが、昨今のデジタル広告市場は、GAFAを中心としたプラットフォーマーの寡占状態にあります。また、Cookie規制をはじめとしたプライバシー保護の潮流は、特にGoogleやAppleに関してですが、むしろその支配力を強めるという見方もあります。
我々は決して、打倒プラットフォーマーを掲げているわけではありません。しかし、彼らに対抗できるような勢力が、現在のデジタル広告市場には必要だと考えています。
その実現には、パブリッシャーと広告主、双方の理解が欠かせないのです。というのも、彼らが保有するファーストパーティデータを最大限に活用できれば、プラットフォーマーと協業しつつも、ときに張り合えるような、新しいエコシステムを構築ことができる。たとえば、AppleのSafariをはじめとするCookieレスのブラウザでも、我々のソリューションを活用すれば、再度ターゲティングを行うことができます。これは、パブリッシャーにとっては広告収益が向上し、広告主にとってもターゲット可能なリーチが増えるため、大きなメリットがある。Cookie規制はピンチではなく、むしろチャンスなのです。
──ファーストパーティデータ活用については追い風も吹いていますし、今後が楽しみです!
そうですね。2022年には改正個人情報保護法が施行され、GoogleによるサードパーティCookieのサポートを終了よりも先に、日本の個人情報に関するガイドラインは強化されます。ただこの法律では、厳しいオプトアウト規定が定められている一方、「仮名加工情報」という概念が新たに創設されています。この「仮名加工情報」は、きちんとユーザーの同意を得て収集し、正しく仮名化されたデータであれば活用して良いということを意味します。
つまり、ATSのような匿名化/仮名化を徹底し、ユーザーの安全性を担保できるソリューションを導入すれば、パブリッシャーや広告主はこれまで以上にファーストパーティデータを、機能させるれる。ちなみに、先述した我々の独自調査では、71%の広告主が顧客のファーストパーティデータを保有していると回答しています。つまり、資源はすでにあるわけです。
サードパーティCookieは近い将来、どうあってもいままでのようには使えなくなります。だとすれば、どうしたらいままでと同じように使えるかと抜け道を考えるより、頭を切り替えて、いままでとは違う取り組みにシフトする方が、圧倒的に生産的です。
▼今井則幸
LiveRamp ヘッドオブパートナーシップス
2010年に米Yahoo!社が提供していたRight Mediaに入社し、日本市場でのAd Exchangeビジネスの定着と拡大に尽力。その後MediaMath社をはじめグローバルの広告プラットフォームで日本市場のビジネス展開、デジタル戦略とソリューションの専門知識を身につける。2019年3月に現在のデータを安全かつ効果的に活用するためのデータ接続プラットフォームのLiveRamp JapanにHead of Partnershipとして入社。IDソリューションをパブリッシャー、テクノロジープラットフォームといったパートナーへの提供を担当。
Sponsored by LiveRamp
Written by Written by DIGIDAY Brand STUDIO(内藤貴志)
Photo by 渡部幸和