Facebookがニュースフィードでパブリッシャーのコンテンツを減らすことに決めたあと、リトルシングズ(LittleThings)のトラフィックとエンゲージメントは急降下した。そのため同社の幹部たちは2月17日、売却を試みたが実現しなかったので会社を閉じると、従業員100人に告げた。そこに至った背景を探る。
2年前の、カンヌの広告の祭典でのことだ。フランスのリビエラで、着飾り、飲み、語る1週間が繰り広げられた。デイリー・メール(The Daily Mail)のヨットの片隅で、リトルシングズ(LittleThings)が、手のマッサージ、爪のケア、そしてもちろんロゼワインを準備して、遅い午後の回復コーナーを開いていた。カンヌの基準ではつつましいものだったが、設立2年のメディア企業の意気込みが表れていた。
ペット用品のeコマースサイトとしてスタートしたリトルシングズは、人と動物のけなげな行動を取り上げた感動話など、Facebookのスイートスポットである中年女性を狙った感動コンテンツをFacebookにシェアすることで、ユニーク数が3年間で5000万を突破し、驚異的なオーディエンス増加を象徴する存在になった。Facebookが、リトルシングズなどのクリックされやすいコンテンツサイトに参照トラフィックで報いる限りは、この方法が通用した。リトルシングズは、ケーススタディとしてFacebookに取り上げられもした。
創業者でCEOのジョー・スパイザー氏は、アップワージー(Upworthy)やバイラルノバ(ViralNova)のような急成長しているFacebookパブリッシャーとの比較を、相手にしなかった。当時、オリジナルコンテンツのパブリッシャーだったリトルシングズは特別であり、Facebookも、プラットフォームのエンゲージメントを高めてくれるリトルシングズのようなパブリッシャーを必要としていた。Facebookが変われば、リトルシングズもそれにならった(特に動画の強化)。「常にFacebookのエコシステムを軸に動けば大丈夫だ」と、スパイザー氏は2016年5月のDIGIDAYのポッドキャストで語っていた。
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不十分なビジネスモデル
しかし、大丈夫ではなかった。Facebookが2018年のはじめに、ニュースフィードでパブリッシャーのコンテンツを減らすことに決めると、リトルシングズのトラフィックとエンゲージメントは急降下した。スパイザー氏と、プレジデント兼COOのグレチェン・ティビッツ氏は2月17日、売却を試みたが実現しなかったので会社を閉じると、従業員100人に告げた。

クラウドタングル(CrowdTangle)が測定したリトルシングズの数値 via
バブバ・アトキンソン氏/Axios
こうしてリトルシングズは、優先するものが合わなくなるかもしれない巨大配信パートナーに頼りすぎてはいけないという教訓の、ケーススタディになった。スパイザー氏とティビッツ氏は、リトルシングズ内にも、より広く業界内にも熱心な支持者がいる。冷静な判断ができるメディア経営者として知られており、ビジネスの細部に着目して、ネガティブなものになりがちな日々のニュースへのカウンターになるものをインターネットにもたらした。しかし、それでは不十分だった。
ビジネスモデルは本質的に危険をはらんでいた。リトルシングズは、トラ(Facebook)に便乗することを早い時期に決めたが、振り返ったそのトラに食べられてしまった。リトルシングズはFacebookによってあそこまで大きくなりはしたが、Facebookにリーチを封じられると、よそでオーディエンスを見つけることができなかった。
「プラットフォームがなければここまで大きくなることは決してなかった」とティビッツ氏はいう。「米国の中産階級の30歳以上の女性をターゲットにするなら、Facebookしかない。OTT(オーバーザトップ)やSEOやインスタグラム(Instagram)やPinterest(ピンタレスト)を模索したが、しっかりしたマネタイズはできなかった」。
借り物のオーディエンス
「ジョーは頭の切れる男だ。その彼にして、会社がFacebook依存から脱するように持っていけなかったという事実は、ほかのソーシャルパブリッシャーの脱Facebookがいかに困難なのかを物語っている」と、リトルシングズの元CROのクリス・マクロフリン氏は語る。「Facebookは素晴らしいパートナーかもしれないが、オーディエンスがすべて借りものになると、パブリッシャーの立場は極めてもろいものになる」。
リトルシングズは、Facebookの変化をしばらくは乗り切っていた。2016年夏にFacebookがクリックベイトを排除したときには、好奇心ギャップによる見出しを、もっと情報を含んだものへと変えた。Facebook投稿がうまく機能するように、徹底的なA/Bテストを実施した。「ダークポスト」を活用し、エンゲージメントの高い投稿をFacebookオーディエンスの一部にのみ表示するようにすることで、たとえば、医療問題に関する投稿を安全とはいえないと考えるような広告主には、そうした投稿が見えないようにした。皮肉にも、こうした戦術をマスターしたことが、大丈夫だという誤った感覚につながったのかもしれない。こうした戦術は最終的に、Facebookで支持されなくなった。
「Facebookの気まぐれに頼り切りなことや、Facebookが主なトラフィック源、収益源になる可能性に対しては、少し警戒していたと思う」と、元編集長のメガン・ホルムグレン氏。「でも、ジョーとグレチェンからは、関係はとても良好だという話しかなかった」。
当てが外れた動画シフト
2016年、スパイザー氏はその自信から、ニューヨーク市のヘラルド・スクエアに近い窮屈なオフィスから、卓球台、ビデオゲーム、オーガニックコーヒーといったデジタルスタートアップらしい装いを備えた、新しくできたハドソン・ヤードの開発コンプレックスに広がるスペースに会社を移した。リトルシングズは、VCからの資金調達は行わなかったので、ほかのメディア企業のような、不相応なお金の使い方をするという間違いはしていないかもしれない。しかし、デジタル動画がいつか大きなお金になるものと当て込んだ。Facebookライブ動画だけのためのスタジオを新設し、Facebookの最新の取り組みを追いかけ、2017年には予算を倍増して番組を13本作った。
ABCの「ザ・ビュー(The View)」のようにしたかった「ザ・デイリー・グロウ(The Daily Glow)」などのデイリーのトーク番組があれば、「スライス(Slice)」「ザ・ホステス・ネクスト・ドア(The Hostess Next Door)」「オー・ベイビー!(Oh, Baby!)」などウィークリーの番組もあった。
皮肉なことに、ここまで制作を増やしたことが、リトルシングズがFacebookとは別に多角化する助けになった。リトルシングズは、Amazon、Apple TV、ロク(ROKU)などのOTTプラットフォームに対するライブ番組の配信を開始した。これで、配信業者が販売する広告のお金が入ってくる。しかし、ティビッツ氏によると、はじまったばかりでオーディエンスの規模が小さく、たいした金額にはならなかった。
アルゴリズムによるトドメ
広告収益の多角化も遅すぎた。プログラマティック広告のベースを補完するものとして、30人を雇いダイレクト広告とブランデッドコンテンツの販売をはじめたところ、市場は歓迎した。
「運営停止の理由はアルゴリズム変更が100%だろう。素晴らしいパートナーで、一緒のキャンペーンはいつも成功していた」と、独立系エージェンシーのOMDで米国のソーシャルデイレクターを務めるケリー・パース氏は語る。デジタル動画プレイヤーの会社で、リトルシングズに技術ライセンスしていたJWプレイヤー(JW Player)の共同創業者、ブライアン・リフキン氏によると、動画マネー競争を有利に進めるための、投稿のエンゲージメントのテストやクリーンな環境づくりについては、リトルシングズは巧みだった。「動画に大きな収益があること、サイトは小さくしたほうがいいことを理解しはじめていた」と同氏は語った。
しかし、リトルシングズは、よりしっかりしたほかのライフスタイルサイトとの激しい競争に直面した。「非常に競争が激しい分野だったので、制作物に単調さが目立つという課題がより大きくなった」と語ったのは、メディアエージェンシーのメディアコム(Mediacom)でデジタルと投資の北米の最高責任者を務めるスティーブ・カーボン氏。「リトルシングズは大いに気にかけていたが、あのカテゴリーはもっと成熟した競合がいて競争が激しかった」と同氏。2017年、リトルシングズの収益全体のうち非プログラマティック事業の割合はパーセンテージにしてわずか1桁だった。そして、2018年にはオーディエンスが減少し、それに伴いプログラマティックの収益も落ちていった。
「『今日はFacebookのアルゴリズムがどう変わったのか? どれに対し何ができるのか?』と、毎日のように会議で話していた。常にそれが問題だった」と語ったのは、2017年4月に解雇されるまで、リトルシングズでニュースとブランデッドコンテンツのプロデューサーを務めていたジェシカ・ロトキウィッツ氏。「要するに、制御ができない外部に依存していたのだ」と同氏は語った。
Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)