新型コロナウイルスの影響による景気後退は米ローカルニュース業界にも大きな打撃を与えている。地域に根付いた報道が喪失する危機を回避すべく、ローカルニュースメディアの支援に取り組む団体ライオン・パブリッシャーズのクリス・クルーソン氏は、「今こそ精力的に事業独立を手助けするときだ」と語る。
2008年の危機からも立ち直れていないなか、新型コロナウイルスの影響による景気後退が米ローカルニュース業界に大きな打撃を与えている。
「さらに大きな危機に直面しつつあるのは確かだ。だから、今回の危機からも業界が立ち直れるという希望はあまり見いだせない」。ライオン・パブリッシャーズ(LION Publishers)でエグゼクティブディレクターを務めるクリス・クルーソン氏は、米DIGIDAYのポッドキャストでこう語った。クルーソン氏の予測は、スローペースな回復を望んでいるわけではないのは明らかだ。「この危機的状況について、ローカルニュース支援の準備をする段階だと認識している」と、同氏は話す。
「ライオン(LION)」は、「local independent online news(地域の独立系オンラインニュース)」の略で、フィラデルフィア郊外とバーモント州、ワシントン州、カンザス州に職員がいる。営利目的かどうかを問わず、小規模な報道機関が事業を存続できるように支援するのを目的とする団体で、収益を改善する実験の実施や、広告市場を支配するGoogleやFacebookに敗れた旧弊なビジネスモデルの打破を促進している。
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「ニュースの未来を見るための方法はたくさんあり、もっと寛容でオープンであらねばならない。ローカルメディアと実験に取り組むことで、継続してテコ入れする価値があるビジネスモデルはどれか確認できる」とクルーソン氏は話す。
たとえばメンフィスでは、ライオンのメンバー2社が異なったアプローチを採用している。そのうちの1社、デイリー・メンフィアン(The Daily Memphian)はECショップを開設したり、サブスクリプションモデルを導入したり、数十人の記者を雇い教育から地元NBAチームのメンフィス・グリズリーズまで、メンフィスのニュースを幅広く報じることで、アメリカ最大の新聞社であるガネット(Gannett)傘下の報道機関に挑戦してきた。同社の手法はかいつまんで言えば、「諸経費が高い」とクルーソン氏は語る。
一方のMLK50はデイリー・メンフィアンと違い、小規模なチームが「貧困や権力、公共政策」について独自の言葉で報じることに焦点を合わせている。最近、非営利報道組織プロパブリカ(ProPublica)と協力した地元病院による貧困層患者への債務訴訟に関する報道は、反響が大きく、病院側の大規模な債務免除対応につながった。
「両者のアプローチに優劣があると言っているのではない。地域のニュースが影響を及ぼすのは多くの方法があると言っているだけだ。それに、新聞がかつてやっていたことを代わりにやるのに、30人以上の人間が必要とは限らない。印刷しないのだから」とクルーソン氏は話す。
この記事では、クルーソン氏とのインタビューのハイライトをお届けする。なお、読みやすくするため、以下の本文には若干の編集を加えている。
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ニュースルームの規模を縮小し、数を増やす
「以前の勤務先であるフィラデルフィア・インクワイアラー(The Philadelphia Inquirer)についてとても気に入っていることのひとつは、大都市圏で200人ほどのジャーナリストの雇用を維持する術を考え出そうと努めているところだ。だが私は、『なぜ1カ所に200人も必要なのか? なぜ近場で2~3人規模の事業を数多く展開して、200人が働く1事業所より多くの報道をおこなわないのか? それだけの人数が必要と判断するにあたって、どのような領域で進化していくと定義したのか?』とずっと考えている。オンラインローカルニュースの未来像はこれまで、従来の新聞のような体制になると想定する業界のゲートキーパーたちによって決められてきたのだと思う」。
会員向けに起業家精神に溢れたベストプラクティスを共有
「今取り組んでいる仕事の一部は、ベストプラクティスを集めるという狙いが大きい。ピッチデッキやブランディングキット、職務記述書、人事方針のようなものはすべてを1カ所に集め、会員や会員になることを志す企業向けに公開している。データベースを用意して、Y都市のXプロジェクトがZピッチデッキを用いてこれだけの利益を上げた、地域レベルでこれだけの金を投資家から集めた、どこそこの買収からこれだけ逃れてきた、といったことがわかるようにする。これが、多くの典型的な『LION』に向けた道筋だ。何らかの解雇手当を受け取り、場所を変えてまたメディアに勤める。そうしたことが米国のニュース業界に起き続けるのを目にするようになる。つまり、さらに多くのジャーナリストが職を失うことになり、(今我々が行っている)仕事の緊急性が高まると思う。このような状況を回避する手助けするために、私たちはここにいるのだと考えている。我々にとってのトレンドは、ローカルニュース支援の準備をすることだと認識している」。
助成金に気をつけて
「我々が今献身的に取り組んでいるのは、会員の事業が独自に十分な利益をあげられるよう手助けするプログラムだ。そのなかには助成金による資金調達も含まれているが、利益の大半が助成金であるべきではない。公共メディアの場合は特に助成金に依存しがちだが、このために地域の周辺情報の報道ばかりで、(ローカルニュースが注目すべき)市政の報道が十分ではなくなり、報道を一方向に偏らせてきた。これが『助成金モデル』につきものの危険だ」。
PIERRE BIENAIMÉ(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:分島 翔平)