[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ライフスタイル系パブリッシャーは、業界向け出版物を作ることに挑戦しつつある。だが、過去の取り組みが示してきたように、パブリッシャーは、広告販売に生じうる軋轢や適量の編集リソースの配分など、さまざまな課題を乗り越えなければならないため、これは困難な事業になるかもしれない。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]ライフスタイル系パブリッシャーは、業界向け出版物を作ることに挑戦しつつある。だが、過去の取り組みが示してきたように、パブリッシャーは、広告販売に生じうる軋轢や適量の編集リソースの配分など、さまざまな課題を乗り越えなければならないため、これは困難な事業になるかもしれない。
この数週間に、ヴォーグ(Vogue)、アーキテクチュラル・ダイジェスト(Architectural Digest)、フード&ワイン(Food & Wine)など、いくつかのライフスタイル系出版物が、対象分野で働く業界人向けにビジネス中心のエディトリアル商品を投入(または投入計画を発表)した。ヴォーグは1月に、週2回配信のニュースレター「ヴォーグ・ビジネス(Vogue Business)」をローンチ。フード&ワインは3月15日に、ニュースレターやポッドキャスト、認可表彰プログラム、イベントなどがあるサブブランド「F&W Pro」を立ち上げた。アーキテクチュラル・ダイジェストは4月に、専用コンテンツや解説動画、求人掲示板、人脈作りの機会があるペイウォール型プロダクト「AD Pro」を投入する。
B2B参入の背景
B2Bに参入する動きの背景では、広告主導型の大規模なメディアモデルが疑問視され、特定のオーディエンスに焦点を合わせたモデルが、多様化されたビジネスモデルとともに、評価を高めている。B2Bは本質的にはその両方を追求している。
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消費者向けメディアを手がけるパブリッシャーの場合、B2B分野でのスピンオフにもたらす固有のメリットがいくつかある。もともと存在した大勢のオーディエンスの多くは、それぞれの出版物が扱う業界で働いているし、所有または共有するリソースが増えれば急成長できる。また、顧客になるはずの企業との関係もメリットだ。
だが、B2B事業とB2C事業を同時に運営しようとするパブリッシャーの歴史は波瀾万丈だ。たとえば、政治系パブリッシャーであるポリティコ(Politico)の高額なサブスクリプションが、いまでは収益の半分以上を占めるなど指摘すべき成功例もあるが、こういった取り組みがうまくいかなかったときもあった。コンデナスト(Condé Nast)は、6億5000万ドル(約720億円)でフェアチャイルド・ファッション・メディア(Fairchild Fashion Media)を買収してから15年後に、WWD(Women’s Wear Daily)の親会社である同社を1億ドル(約110億円)で売却したと報じられている。
「ふたつの並列した組織の創設が必要と言ってもいいくらいだ」と語るのは、旅行と食事に特化したB2Bパブリッシャー、スキフト(Skift)の創業者兼CEOであるラファット・アリ氏だ。スキフトは、会社立ち上げの前には、一般消費者のオーディエンスと業界人のオーディエンスの両方を追求する計画だった。だが、数年前にB2Cへの野心を捨てた。B2C事業にB2B事業を追加しようとすると、さまざまな部門に摩擦が生じかねなかったと、アリ氏は語る。たとえば、B2Cの営業チームは、新たなB2B広告主からの取引を拡大する(そして手数料を少なくする)ことについて不満をいうかもしれない。
B2BとB2Cの違い
B2BパブリッシングとB2Cパブリッシングの最大の違いは、専門知識と関係がある。編集面では、消費者向け出版物を手がける記者は、自らが扱う業界の企業について必ずしも何かを知っている必要はない。記者である必要すらないかもしれない。対照的に、B2Bメディアでは、数字やデータに焦点が当てられるので基本的な知識が必要だと、ロール・コール・メディア(Roll Call Media)のシニアバイスプレジデント兼最高コンテンツ責任者であるジョシュ・レズニック氏は語る。
アーキテクチュラル・ダイジェストとフード&ワインの新商品は、さまざまな形でこれに対処している。アーキテクチュラル・ダイジェストは、AD Proのために、「ビジネス・オブ・ホーム(Business of Home)」や「アーキテクチュラル・レコード(Architectural Record)」などの出版物を手がけていた10人を専任の報道スタッフとして雇用した。フード&ワインでは、業界人向け商品は、編集長がプロのシェフとして働いていたときに身につけた専門知識に依存している。そのうちに寄稿者として食品事業担当記者を利用する計画もある。
B2CからB2Bへの移行時には、広告販売も課題になりうる。消費者向け販売チームは、広告主からの提案の要請に応え、ブランドの既存のマーケティング予算の入札を勝ち取ることに成功して、収益を上げられる。一方、B2Bパブリッシャーの広告収益の原動力となる多くの企業(たとえば、サプライチェーンベンダーや事務処理用ソフトウェアのベンダー)は、そうした資産を持っているとは限らない。宣伝をまったく行っていない可能性もある。
「B2Bメディアを購入している広告主は、戦術上の理由でそうしている。そのような広告主が広告を掲載する理由をB2B面で作らなければならない。メディア予算の支出先を探している自動車ブランドとは違う」と、WWDの最高ビジネス責任者兼パブリッシャーのポール・ジョウディー氏は語る。ジョウディー氏は、WWDに移籍する前に消費者向けメディア分野で10年以上働いていた。
B2Bに見る機会
こうした新しいB2B出版物は、広告主との確立された関係に基づいて、初期段階でそうしたことを避けたいと思っている。たとえば、F&W Proは、ホテル経営者やレストラン店主のターゲティングに興味があるワイナリーに、さまざまなキャンペーンを宣伝する大きな機会を提供できると見ている。
広告主の企業は、こうしたものが最初から大きな規模をもたらせないことを気にしないだろうと、デパーチャーズ(Departures)やトラベル・プラス・レジャー(Travel + Leisure)、そしてフード&ワインのグループパブリッシャー兼バイスプレジデントであるジュリオ・カプア氏は指摘する。「多くのワイナリーは、デジタル広告に深入りせず、量より質に関心がある。優れたニュースレター戦略は、ワイナリーにとって大きなビジネスチャンスだ」。
コンデナストも、新しいB2B商品から消費者収益を得ることを検討するつもりだ。コンデナストのライフスタイルポートフォリオ担当最高ビジネス責任者であるエリック・ギリン氏によると、AD Proはメーター制課金方式で4月に始動する予定で、最初の1年間で1万5000人のサブスクライバーを誘引する見込みだという。
「広告は素晴らしいモデルだ。我々は幸運にもそれをメディアミックスのひとつとして保有している。だが、この事業に目を向けるときには、消費者収益にまず焦点を合わせる」と、ギリン氏は語る。
コンデナストの事例
ほかの課題のなかでは、B2B出版物とB2C出版物は技術や商品ニーズも異なり、それがペイウォールや消費者との関係重視など多岐にわたる可能性があると、レズニック氏はいう。
コンデナストでは、新しいB2B商品は、親会社が構築した既存のインフラから恩恵を得ている。ヴォーグ・ビジネスは、コンデナスト・インターナショナル(Condé Nast International)が考案した5段階の開発プロセスを用いて作られた。このプロセスでは、広告以外の手段でマネタイズされている商品の事業見通しを評価する。コンデナスト・インターナショナルのビジネス開発ディレクターのシアラ・バーン氏は、最近開催されたDIGIDAY PUBLISHING SUMMIT EUROPEで、そう語っている。
さらに、ワイアード(Wired)やバニティ・フェア(Vanity Fair)でペイウォールの立ち上げを助けた消費者マーケティング部門が、最初からアーキテクチュラル・ダイジェストと協力したと、ギリン氏は述べている。
Max Willens(原文 / 訳:ガリレオ)