ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times:以降LAタイムズ)は2021年11月29日、同社の音声部門の新トップに、ジャズミン・アギレラ氏を就任させた。米DIGIDAYのインタビューで同氏は、LAタイムズのポッドキャスト番組を発展させ、いつの日か新聞本体と肩を並べる存在にしたいとの抱負を語った。
ロサンゼルス・タイムズ(Los Angeles Times:以降LAタイムズ)は2021年11月29日、同社の音声部門の新トップに、ジャズミン・アギレラ氏を就任させた。アギレラ氏は、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)のポッドキャストニュース番組「ザ・デイリー(The Daily)」の番組作りに携わったこともある人物だ。
米DIGIDAYのインタビューでアギレラ氏は、LAタイムズのポッドキャスト番組を発展させ、いつの日か新聞本体と肩を並べる存在にしたいとの抱負を語った。それが、「レンズ・オブ・ウエスト・コースト(lens of the West Coast)」アプローチだ。
その戦略の軸となるのが、ニューヨーク・タイムズの「ザ・デイリー」に対抗して、LAタイムズが旗艦的存在として7カ月前に始めた、ニュース番組「ザ・タイムズ:デイリー・ニュース・フロム・ザ・LAタイムズ(The Times: Daily News from the L.A. Times)」である。同番組の成功の鍵を握るのは、西海岸「らしい空気感と口調」であり、それはアギレラ氏いわく、現在ポッドキャストで配信中のデイリーニュース番組に欠けているものだという。
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ポイントとなるのは、「深刻になりすぎない、肩肘を張らない、堅苦しすぎない雰囲気と口調」だとアギレラ氏は語る。それはたとえば「これはとても重要なことだけれど、とりあえずコーヒーでも飲んで、あるいはビーチに腰を下ろして、ポッドキャストにのんびりと耳を傾けようじゃないか」と語りかけるようなものだと、氏は説明する。氏がLAタイムズのポッドキャストに不可欠と考える「西海岸的響き」とは、「既存番組に比べてよりくだけた、普段の語り口調に近いものであり、番組/新聞社の権威といったものにこだわらず、オーディエンスとのつながりを重視する」ものだという。例として、アギレラ氏は「ザ・タイムズ」の番組ホスト、グスタヴォ・アレラノ氏を挙げる。アレラノ氏は番組中に時折、「スパングリッシュ(ヒスパニック系米住民が日常的に使用するスペイン語混じりの英語)」をあえて挟むという。
100万ドル事業になる潜在力
LAタイムズには、ポッドキャスト番組群を100万ドル(約1億1000万円)の事業に変えられる潜在力があると、西海岸が拠点のポッドキャスト広告エージェンシー、アドプター・メディア(Adopter Media)の創業者グレン・ルーベンスタイン氏は指摘する。
「南カリフォルニアの拠点にリーチしたい顧客から計数百万ドルにも上る話があったが、我々はすべて断ってきた。これまで、これといった選択肢がなかったからだ」とルーベンスタイン氏。「広告主たちから連絡はひっきりなしに来る。『ポッドキャストに広告を打ったことはないのだが、予算はあるし、興味も大いにある、ただしLA市場だけにフォーカスしたい』と。したがって、LAタイムズならば、名前も地位もあり、西海岸市場に君臨する一社であるからこそ、大きな受け皿がないために行き場が見つからない、そうした資金をうまく活用できると思う」。
LAタイムズのニューイニシアティブ部門マネージングディレクター、シャニー・ヒルトン氏は、「ザ・タイムズ」は「有意な成長を見せている」と語ったが、リスナー数などの具体的な数字は明かさなかった。2021年12月2日午後のポッドキャスト人気チャート「チャートテーブル(Chartable)」では、同番組はApple Podcasts(アップル・ポッドキャスト)で配信中の米デイリーニュース番組中、32位だった。
LAタイムズは2021年、さほど多くのニュース番組を制作していないが、その理由のひとつはポッドキャスト部門トップの交代にあったと、ヒルトン氏は語る。前任の同社ポッドキャスト&音声部門元エグゼクティブプロデューサー、アビー・フェントレス・スワンソン氏は同年の夏に退社し、CNNオーディオ(CNN Audio)に転職した。「確固たる成長戦略は立ててある。すでに求人もかけているし、さらに求人を出す予定でいる(中略)」。それゆえ2022年には、「チームは2倍に膨らんでいると思う」とヒルトン氏は話す。アギレラ氏が率いるチームは現在、ナラティブポッドキャストプロデューサー2名、エンジニア2名、「ザ・タイムズ」のスタッフ6名からなる。
ッドキャストが入り込めるスペース
2022年に向けて、LAタイムズはポッドキャスト番組の拡充を図り、より深部に切り込む限定シリーズを導入するとともに、季節ものとレギュラーものも増やしていくと、ヒルトン氏は話す。ニューヨーク・マガジン(New York Magazine)のポッドキャスト番組「ザ・カット(The Cut)」のホストおよびプロデューサー、そして多国籍マスメディア企業コンデナスト(Condé Nast)の暫定エグゼクティブおよびシニアプロデューサーを務めてきたベテラン、アギレラ氏はポッドキャストが入り込めるスペースが「文化的エンターテイメント領域」にあると見ており、それは深く掘り下げるナラティブな番組と、日常会話的な、気楽に聴けるトークショーの中間にある「メディア」だと、氏は説明する。「避けたいのは、カルチャー寄りの事柄について冗談を連発する、軽すぎる印象のホスト。それは少々行きすぎだ」とアギレラ氏は話す。
アギレラ氏はまた、LAタイムズの調査部門/記事に基づいた番組も増やしていきたいと考えている――そして、それが人気シリーズとなり、ライセンス化できれば、さらなる収入源につながると期待している。「LAタイムズには優れた調査記事が山ほどあり、それらはいつでもストーリーとして音声配信できる状態にある」と氏は言い添える。LAタイムズがポッドキャストサービス「ワンダリー(Wondery)」との提携で制作し、TVシリーズ化された「ダーティ・ジョン(Dirty John)」をはじめ、実際の犯罪を取り上げるポッドキャストシリーズ番組は「IP開発、広告、長期にわたる固定リスナーを基盤にして、多大な収益を上げられる」とヒルトン氏は話す。
そして、こうした追加収益源はあるいは、LAタイムズが広告主との関係において直面する問題の相殺に役立つかもしれない――同社はホストリード広告(ポストが読み上げる広告)を認めていないからだ。「ホストリード広告を求める顧客は(中略)実に多い」とアドプター・メディアのルーベンスタイン氏は話す。なかでもダイレクトレスポンス広告主は特に、自社が押す商品の「伝道師」になれるポッドキャスト番組ホストを求めていると、氏は言い添える。ただし、ニュースパブリッシャーの番組はホストリード広告を認めない場合が多く、その理由は「レポーターとブランドメッセージ」のいわば「政教分離」にあると、音声広告エージェンシー、ヴェリトーン・ワン(Veritone One)のポッドキャストメディア部門VPのヒラリー・ロス氏は、4月のインタビューで指摘している。
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)