パブリッシャーにとって、eコマースへ手を広げるというと、アフィリエイトリンクをコンテンツ上に散らばめることを意味する。だが、BuzzFeedのそれは違った。Facebookに書き込まれたコメントからアイデアを得て、2日以内にそれをプロダクトとしてまとめ、1週間以内に何千個も配送出来る状態にすることを意味する。
多くのパブリッシャーにとって、eコマースへ手を広げるというと、アフィリエイトリンクをコンテンツ上に散らばめることを意味している。しかし、BuzzFeedのそれはひと味違った。Facebookに書き込まれたコメントからアイデアを得て、2日以内にそれをプロダクトとしてまとめ、1週間以内に何千個も配送出来る状態にすることを意味する。
上述したのは特例中の特例(詳しくは後述する)だが、BuzzFeedはeコマースで何らかの法則を見極めたようだ。6カ月前、のちにプロダクト・ラブス(Product Labs)として運営される会社を買収したあと、BuzzFeedはそこのチームのスタッフ数を12名ほどに倍増。ベストセラーの料理本をリリースし、人気テレビ番組「トゥデイ(Today)」とパートナーシップを組み、Facebookのオーディエンスデータを活用して、次々とプロダクトを開発してきた。
「あらゆる戦略を試す」
最初はいくつかのキャンドルからはじまった「ホームシック(Homesick)」シリーズも、いまでは55種類のキャンドル、オイル、まな板と、種類を増やしており、急成長のブランドになっている。BuzzFeedのプロダクト・ラブスのトップであるベン・カウフマン氏は、「基本的に我々はあらゆる戦略を試す」と述べる。
Advertisement
eコマースに手を出すパブリッシャーは多い。しかし、アフィリエイトリンクやリードジェネレーション(見込み客獲得)広告以上の事業へと展開するパブリッシャーは少ないだろう。BuzzFeedもBuzzFeed Marketsと呼ばれるアフィリエイトビジネスを展開している。しかし、カウフマン氏がやって来てから、実際にプロダクトを製造し、販売し、配送するという複雑かつリスクを伴う分野へと参入しているのだ。
もちろん、全行程は可能な限り、効率的なプロセスが追求されているようだ。この6カ月のあいだにもBuzzFeedは、倉庫マネジメント、決算テクノロジー、そして顧客獲得に関する専門家を次々に雇っている。これはアフィリエイトの領域を遥かに超えている。パブリッシャーたちが取り組むeコマースの典型からは、大きくかけ離れているのだ。
小規模で低リスクの体制
「私たちは確かに大きなアフィリエイト戦略をもっている。しかし、我々のエディトリアルがもつ繊細さと、読者のアイデンティティをベースにしたコンテンツは、実際のモノのプロダクト開発にも活かすことができると気づいた」と、カウフマン氏は言う。
特定のコミュニティーがすでに欲しているプロダクトを開発し、販売するというこの考えのコアにあるのは、カウフマン氏が以前所属していたスタートアップ「クワーキー(Quirky)」に通じるものがある。クワーキーはコミュニティからのアイデアをもとに、記録的な速さで開発、マーケティング、配送を行うというコンセプトを持っていた(しかし1億8000万ドル[約195億円]のベンチャーキャピタルをたちまち使い果たして破産に至っている)。
それと比べると、いまのところBuzzFeedは、小規模かつリスクの低い体制を維持しているようだ。彼らのもつさまざまな製品の多くは、BuzzFeedがライセンス契約したものか、第三者パーティから購入したものとなっており、サプライチェーンも第三者プロバイダーと組み合わせることで柔軟なシステムを保っている。カウフマン氏によると、BuzzFeedのプロダクト・ラブスは、24ほどの異なるベンダーから完成品のプロダクトを購入してきたという。
短期間にプロダクト開発
しかし、BuzzFeedはまた、需要に応じて短期間にプロダクトを開発して販売することも学習してきた。冒頭で書いたプロダクトは「大統領と大きな子どものトラック」という子ども向けの本だ。BuzzFeedのニュースレポーター、デーヴィッド・マック氏が書いた、BuzzFeedの典型的なリスティクル記事がキッカケとなっている。それがFacebookでシェアされ、読者のひとりが「これは本にできる」と、コメントで提案したのだ。
これには多くの「いいね!」がつき、トップコメントとして表示され続けた。そこでBuzzFeedのダオ・グェン氏が、カウフマン氏へとアイデアを伝えたところ、別のプロダクトでたまたまオンデマンド出版社と関係があったため、本がただちに入手可能となったのだ。
「大統領と大きな子どものトラック」はかなりレアな例だが、Facebookはプロダクト・ラブスのチームにとって重要な情報源となっている。彼らの「ホームシック」キャンドルの開発にもFacebookのオーディエンスデータからカウフマン氏が得た知見が活用されているという。現時点でキャンドルの種類は50種類にのぼり、「数日毎」に新しい香りが開発されているとカウフマン氏は言う。
「まだ学ぶことは多い」
このような取り組みが可能になったのは、BuzzFeedがプラットフォームを越えてオーディエンスを構築しようとしているからだ。プラットフォーム上に1000万人のオーディエンスが存在している場合、情報にもとづいてこうした決断を下すのは簡単になる。「リテールビジネスにおいて最大の課題はオーディエンスを獲得することだ。しかし有り難いことに我々には、すでにオーディエンスが存在している。そのプロセスを逆向きに活用しようとしている」と、プロダクト・ラブスのマーケティング責任者であるクリスティーナ・ディルッソ氏は言う。
オペレーションの観点から言うと、プロダクト・ラブスにはまだ完成に向けて取り組んでいる点が多々存在している。たとえば、彼らはカスタマーサービスをアウトソーシングすることにためらっている。カウフマン氏自らがまだ、カスタマーサービスのeメールを手伝ったりしているのだ。
また、ヒット商品をいくつか生み出したものの、どうように売れる商品を生み出せるか魔法の法則を編み出したわけではない。「何が売れるか分かっていたら、いまごろウォルマートになっているだろう。まだまだ学ぶことは多い」と、カウフマン氏は語った。
Max Willens(原文 / 訳:塚本 紺)