エンゲージメント構築は、デジタルメディア運営において、いまや最優先課題のひとつだ。DIGIDAY[日本版]とChartbeatが共催したパブリッシャー限定のイベントでは、NHK・産経・ダイヤモンド・インプレス・Yahoo!から担当者が登壇し、「エンゲージメント構築」をテーマに語り合った。その詳細をご紹介する。
エンゲージメント構築は、デジタルメディア運営において、いまや最優先課題のひとつだ。
DIGIDAY[日本版]とChartbeatは1月28日、1DAYイベント「最新事例に学ぶ、エンゲージメント構築の新セオリー」を共催。パブリッシャー限定のイベントだったが、「エンゲージメント構築」というトピックに対する注目度は高く、会場は満員御礼の状態となった。
なお、Chartbeatは、サイト内におけるUX(ユーザー体験)をリアルタイムに改善でき、ロイヤルティ獲得に寄与するWeb解析ツールだ。すでに、フォーブス(Forbes)、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)、タイム(TIME)など、68カ国の700以上の企業に採用されており、日本でも多くの大手パブリッシャーに導入されている。
当日実施されたパネルディスカッションでは、そんなChartbeatのユーザー企業5社が参加。レガシーな新聞社・雑誌社・テレビ局だけではなく、デジタルメディア、プラットフォーマーなど多彩な顔触れが揃い、「デジタルメディアの指標が量から質へ転換したいま、何を行うべきか」をテーマに語りあった。
コンテンツ作りとその流通設計
「もはやストレートニュースで独自性を出すのは難しい」と、パネルディスカッションの口火を切ったのは、産経デジタル取締役の土井達士氏だ。「この媒体なら、ほかでは見られないコンテンツが必ずあるという印象をユーザーに持ってもらい、エンゲージメントを構築することが重要だ」。
そのためには、エンゲージメントを獲得できるコンテンツ制作だけでなく、それをいかに流通させるかも重要だと、土井氏は指摘。ユーザーのニーズに基づいたデータドリブンなコンテンツ作りと、その流通設計までをトータルで行うことが、エンゲージメント構築に繋がるという。
「コンテンツの流通を考える上で考えなければならないのが、ユーザーの行動や興味関心に合わせたUI設計だ」と、土井氏は続ける。実際、産経デジタルではChartbeatを活用し、直帰ユーザーとロイヤルユーザーを分類して、コンテンツを出し分けているという。これを実施することで、それぞれにベストな体験を提供しているのだ。

「エンゲージメント獲得のためのコンテンツ作りと、流通設計が重要」と土井氏
データをいかに活用するか
また、Yahoo!編成・制作本部でニュース制作サービスマネージャーを務める中村塁氏は、「Yahoo!ニュース」では、契約する媒体社から毎日約5000本の記事が配信され、約100本をYahoo!ニュース トピックスとして多くのユーザーに届け、その閲覧データを記事制作やコンテンツ掲載の編成に活用していると説明した。
たとえば、よく読まれた記事に関しては、できるだけ早いタイミングで各分野の専門家であるオーサー(書き手)に対してより深い解説や続報の執筆を提案したり、ターゲット層がよく閲覧した人物や事象から企画を検討して記事制作を行たりしていると語った。これについて中村氏は「これまでのデータから、関連記事や続報は、ユーザーのエンゲージメントを高めるために非常に大切な要素だと考えている」と説明する。

「関連記事や続報はユーザーのエンゲージメントを高めるために大切」と中村氏
ダイヤモンド社にてデジタルメディア局の局次長を務める麻生祐司氏も、データの有効活用がエンゲージメント醸成に大きく寄与すると話す。同社の看板サイトである「ダイヤモンド・オンライン」では、エンゲージメント向上のための取り組みとして、2008年に無料会員登録制度を導入し、サイトの一部に会員登録した人だけが読める、通称「鍵かけコンテンツ」を採り入れている。
会員獲得転換率が高いジャンルのコンテンツや無料会員がよく読むコンテンツの分析を行い、鍵かけの判断やコンテンツづくりに生かすなどして、無料会員の増加を図っている。その結果、エンゲージメントを測る指標である回遊率、滞在時間とも、鍵をかけていないコンテンツと比較して2~4倍の数字が出ているという。

「データに基づいたコンテンツ作りが効果を発揮している」と述べる麻生氏
アセットの蓄積と仕組み化
だが、いくらデータドリブンな施策を実施したところで、それらをアセットとして蓄積、そして共有することも忘れてはならない。インプレスで「Impress Watch」の編集長を務める臼田勤哉氏は、2018年9月にローンチされた新媒体にChartbeatを導入。現在、同社の媒体全体のエンゲージメントを高めるため、短期的(1、2日)に読まれる記事と、長期的(1~2カ月)に読まれる記事ごとに、Chartbeatの機能を使い分けて、それぞれに最適な施策を実施しているという。
短期的な記事に関しては、Chartbeatの見出しのA/Bテストができる機能「Headline Testing」を活用。どんなタイトルがユーザーから反応を得ることができるかを検証し、情報を蓄積している。
また、長期的な記事に関しては、3種類あるダッシュボードのうち、過去のデータをもとに長期的なパフォーマンスを評価する「Historical」の分析機能を活用。Historical は、たとえば1カ月でどれくらい読まれたかなどを、わかりやすく見せてくれる機能。エンゲージメントが高い記事をひと目で確認できるので、結果を編集部で共有し、知見の蓄積に利用していると臼田氏は語る。「Impress Watchでの施策が順調に進めば、我々の取り組みやデータを踏まえ、ほかの媒体にも横展開していきたい」。
だがその半面、臼田氏が課題として挙げたのが、Chartbeatに出ている結果をいかにWebサイトに生かすか、そのための仕組み作りだ。「今後は検証をして終わりではなく、その結果を受けて、モジュールを動かしたり、記事の配置を変えたりといった、次に活かすための仕組みも整えていきたい」。

「今後は仕組み作りにも注力していきたい」と語る臼田氏
直感的に「いま」が分かる
パブリッシャー企業のなかには、データ活用に対して懸念を抱く編集担当者も少なくない。組織をあげてアセットを共有、蓄積したところで、こうした課題を解消しなければ話ははじまらない。だが、Chartbeatは一般的に、テクノロジーやデータに明るくないスタッフでも扱えるように、簡易的かつ直感的に操作できるような仕様になっている。2011年からChartbeatを導入している産経デジタルの土井氏は、「編集スタッフでも、記事へのリアルタイムな反応を簡単に確認できるのが、Chartbeatの最大のメリットだ」と述べる。
「たとえば『Big Board』という機能を利用すると、アクセス数の上下がわかりやすく可視化されるので、ニュースへの数値的な反応に敏感になれる」と説明する。加えて「Heads Up Display」という機能を活用すれば、計測データを実際の画面に重ね合わせて表示することでユーザーの行動を直感的に確認することができるという。「Heads Up Displayは、特にトップページの編集作業を行っているスタッフには好評で、4~5年ほど活用している」。
NHK報道局 ネットワーク報道部・デスクの安井誠一氏も、数秒ごとにリアルタイムなアクセスを確認できるChartbeatの「Real-Time」というダッシュボード画面を愛用しているという。「『Real-Time』で、意外なニュースがアクセス上位に来ることを頻繁に経験すると、これまでのノウハウをいい意味で裏切られるような、新しい知見を得られる」。

「リアルタイムなデータだからこそわかることがある」と安井氏
「いわゆるNHK的なオーセンティックなニュースではなくて、意外性の強いニュースを、数字をもとにチョイスすることで、オリジナリティが出せるのではないかと考えている」と、安井氏。「テレビニュースとは別に、Web版の『NHK NEWS WEB』の独自性を出していくためにも、Chartbeatを活用し、エンゲージメント向上に尽力していきたい」。
モダンなデジタルメディアにおけるエンゲージメント構築は、データをもとにしたリアルタイムな対応が要となる。ユーザーが求めているものにしっかり向き合って、即時に改善を重ねていくことこそが、新しいパブリッシャーとユーザーの関係には必要なのだろう。
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Written by 内藤貴志
Photo by 渡部幸和