テッククランチ(TechCrunch)のスタートアップ関連イベント「ディスラプト(Disrupt)」は今年、10周年記念を迎える。だが、半年前から会場開催は不可能と発表されていた。その代替としてバーチャル開催となるなか、リアルで提供していた要素をできるだけ詰め込むための取り組みを、テッククランチは続けてきた。
テッククランチ(TechCrunch)はこれまで毎年、ディスラプト(Disrupt)はサンフランシスコの展示会場、モスコーニセンター(the Moscone Center)で3日間開催されてきた。同会場ではスタートアップのコンペティションやさまざまな情報が飛び交い、ニュースの見出しを賑わせるようなコンテンツが目白押しとなっており、ネットワーキングの機会としても活用されてきた。
今年、10周年記念を迎え、9月14日から18日にかけて行われた同イベントは、半年前から会場開催は不可能と発表されていた。その代替としてバーチャルでの開催となるなか、リアルで提供していた要素をできるだけ詰め込むための取り組みを、テッククランチは続けてきた。
テッククランチのディレクター、ジョーイ・ヒルソン氏は、ディスラプト2020でも2019とほぼ同数の1万人以上の参加者と、485人のプレゼンターが参加予定だと語る。
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また、今後の同社のイベントでは、新製品の機能やアイデアが紹介される予想だ。
「これまで構築したデジタルサービスは、今後も提供していくつもりだ」と、ヒルソン氏は語る。「データと効率性の面で得られるメリットは大きく、将来的に手放すことは考えられない」。
モスコーニセンターの様子を再現
テッククランチのビジネスチームは3月下旬、今年のディスラプトをバーチャルイベントにする決定を下し、編集者のグレッグ・カンパラック氏のメモやリサーチに基づいて、バーチャルイベントのベンダーに連絡を取った。バーチャル化にあたってとりわけ重視したのが、コンテンツやプレゼンテーションの質の維持、ネットワーキングしやすい環境の構築、会場の雰囲気の再現だ。
このとき、スタートアップ業界を長年追い続けてきたのも役に立ったという。ヒルソン氏は、過去にディスラプトに参加したり、プレゼンを行ったベンダーも多く、「さまざまな企業と簡単に話を進めることができた」と語る。
テッククランチは実施計画の面でも工夫をこらしている。たとえば、セッションやプレゼンの数を減らさず、バーチャルイベントの疲労感を軽減するためにイベント期間を3日間から5日間に延長。また、異なるタイムゾーンでもイベントに参加しやすいように、米国向けに米国時間の午前9時から、アジア向けに同午後10時からという2つの時間帯で実施している。
さらに、同社はテクノロジー面でもさまざまな取り組みを行った。イベントプログラムをより魅力的に見せるため、同社はグリーンバックと本物のセットを用意。ゲストの動画と3Dレンダリングで合成し、モスコーニ・センターの様子を再現する。
10周年にふさわしいイベントに
編集長のジョーダン・クルーク氏は、イベントの内容として、ディスラプト10周年にふさわしいものを準備したと語る。たとえば、ベンチャーキャピタリストのアイリーン・リー氏やドリュー・ヒューストン氏をはじめ、これまでディスラプトでのプレゼン経験者らを集め、スタートアップの適切なピッチ方法について分析した「ディスラプト・テン」というプレゼン動画を配信する。
クルーク氏は、目的別のグループミーティングやネットワーキングセッションを増やし、同じような関心を持つ参加者がつながりやすい環境の実現を心がけたと語る。たとえば「クランチマッチ(CrunchMatch)」という機能を通じ、参加者は互いの関心分野が一致する相手を招待し、つながることができる。また、動画チャットの登録時に同じ関心分野を選択した人とランダムにつながる機能も提供する。また、参加者はセッション中に小グループを作成、別の参加者を動画チャットに招待することもできる。
さらに、会場でのイベント開催であればさまざまなブース巡りによる思いがけない出会いがある。今年のバーチャルイベントでもこれを再現するため、出展者は仮想ブースでライブを行い、イベント参加者に通知できるようになっている。
バーチャルならではの価格設定
テッククランチは、今年のディスラプトの入場料や出展料を約半分に値下げした。参加費用の最低価格は昨年の695ドル(約7万3000円)から350ドル(約3万7000円)に、出展料は1000ドル(約10万5000円)から445ドル(約4万7000円)に引き下げている。また、クランチマッチは利用できないが、ひとつのステージ限定で参加できる「ディスラプトデジタルパス(Disrupt Digital Pass)」というチケットを45ドル(約4700円)という価格で販売する。
これでもバーチャルイベントとしてはかなり高い価格設定だが、ヒルソン氏は今年の参加者数は昨年とほぼ同じ1万人から1万5000人を見込んでいるという。
また、収益面では前年比でチケット収益は減少する一方で、ディスラプトの収益の半分以上を占めるスポンサー収益は増加する。これはスポンサー料が6%値上げしたためで、同イベントにはモバイルマーケティング分析企業アプスフライヤー(AppsFlyer)やトヨタなど、35社のスポンサーが参加している。
スポンサー料の値上げの理由は、バーチャルイベントにより会場イベントにはないビジネスチャンスが生まれているためだ。たとえば、今年は例年よりも多数のブランドコンテンツのセッションやプレゼンが予定されるが、スポンサー企業はこのプレゼンの参加者を追跡しやすく、見込み顧客のデータを得やすい。
「会場でのイベントではできない、ビジネスパートナーを見つける方法がたくさんある」と、ヒルソン氏は語る。
追跡や測定がビジネスの機会に
会場イベントとバーチャルイベントの収益差について話題になることが多いが、実際、バーチャル環境における追跡や測定機能がビジネスチャンスになると考えているメディア企業は多い。体験型エージェンシー、メイクアウト(Makeout)の共同創業者エリック・フレミング氏も、「より多くのデータが生まれることで、より効果的な収益化の機会が生まれた」と語る。
一方、同氏は、実際の支出前に、実際にうまくいく証拠が必要だとも指摘している。「広告主にアピールするには、ケーススタディが必要だろう」。
MAX WILLENS(翻訳:SI Japan、編集:長田真)