「エンガジェット(Engadget)」「ザ・バージ(The Verge)」「ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)」で、長年テクノロジージャーナリストとして編集長を務めたジョシュア・トポルスキー氏は、デジタルメディア業界の良い面も悪い面もたくさん見てきた。
だからこそ、新サイト「アウトライン(The Outline)」の開設を控えて、まっさらな状態の現在、パブリッシャーとしてマネタイズするため、競って大規模化をめざしたり、Facebookに従ったりする以外の道に賭けている。
「エンガジェット(Engadget)」「ザ・バージ(The Verge)」「ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)」で、長年テクノロジージャーナリストとして編集長を務めたジョシュア・トポルスキー氏は、デジタルメディア業界の良い面も悪い面もたくさん見てきた。
だからこそ、新サイト「アウトライン(The Outline)」の開設を控えて、まっさらな状態の現在、パブリッシャーとしてマネタイズするため、競って大規模化をめざしたり、Facebookに従ったりする以外の道に賭けている。
政治、ビジネス、文化、未来についてのフレッシュな記事を革新的な見せ方で提供することには、財務面での将来性があるという理由について、同氏は持論を展開した。
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ーーほかのパブリッシャーが大規模化路線をとるなかで、大きく異なる目標を掲げましたね。その理由は?
規模にとりつかれたこの業界で、たった5000人しか読まないような、どこかの小さな町における汚職の記事の存在意義を認めさせるのは難しい。こうした記事は重要だが、それを掲載する適切な媒体を誰も作ってこなかった。だが、別のやり方があるはずだ。
目標は、本当に関心をもつ、ほどよい規模のオーディエンスを獲得すること。パートナーについても、本当に関心をもち、異なる種類のオーディエンスを求める相手を適度な数だけ集めること。そして、そんなパートナーたちと連携して、すぐに飽きられることのない、質の高いコンテンツを開発することだ。
ーーしかし、そうしたやり方では、相当数の広告主から広告出稿先として考慮してもらえなくなるのでは?
それでもかまわない。英雑誌社のモノクル(Monocle)は、相当規模の広告主から無視されているが、良好な売上を出している。24時間放送のラジオネットワークを所有し、デジタルでの取り組みも上々で、実店舗も展開している。経済ニュースメディアの「クォーツ(Quartz)」も、相当規模の広告主から無視されているが、やはり売上は好調だ。
私は持続可能なビジネスモデルに関心がある。スーパーマーケットチェーンのトレーダージョーズ(Trader Joe’s)とTwitterを対決させたらどうなるか、そんなことに興味がある。当社も10年後には、面白い事業グループをいくつか抱えるまでになっているのではないかと思う。
ーープログラマティック広告なしのメディアビジネスは可能でしょうか?
私が思うに、プログラマティック広告は問題の一部でしかない。傷を一時的にふさぐ絆創膏のようなものだ。20年前、パブリッシャーが(オンラインに)進出したいけれどマネタイズの方法がわからない、となったときに、Googleが「当社の技術で解決します」と言い寄った。そうしてこの20年、我々はプログラマティック広告に頼って問題を解決してきた。
だがプログラマティック広告は、消費者のためにも、パブリッシャーのためにも、広告主のためにもなっていない。問題を本質的に解決する取り組みはほとんどなされていない。そこへ突然、アドブロックが登場した。クリック詐欺の問題も顕在化した。それでも、これらに対して、技術主導の取り組みで協調的に対処している人はほとんどいない。
ーーお話をうかがうと、アドブロックに賛成しているように感じられます。
現実問題として、ネット上の広告は不愉快なものだ。パブリッシャーが、自分たちの仕事をマネタイズするのは当然であり、だからこそ、アドブロックの基本コンセプトは腹立たしい。
しかし、アドブロックを使いたくなる気持ちもわかる。我々パブリッシャーは、オーディエンスにフェアなものを提供していない。我々がオーディエンスに与えているもの自体が、敵対的で侵害的なのだ。そんなことはもうやめよう、というのが我々が選んだ道だ。
ーーそれほど価値のあるものを読者に提供している自負があるなら、「インフォメーション(The Information)」のように有料購読モデルを選択しないのはなぜでしょうか?
必要とするのが数千人程度の有料購読者なら、それもいいだろう。しかしそれでは、オーディエンスの機会を制限してしまう。私が関心をもっているのは、対話の一部になること。それは、オープンなウェブという、つながりが一層強まる世界でこそ、沸き起こるものなのだ。
ーー「アウトライン」がこれから提供する、いままでになかった記事とはどんなものですか?
現代のオーディエンスを対象とした、「ザ・ニューヨーカー(The New Yorker)」誌の規模の媒体は、これまで作られてこなかった。ミレニアル世代のなかには、まったくアプローチを受けていない層や、散発的にターゲットにされてきただけの層がいると思う。
我々は「ブルームバーグ・ポリティクス(Bloomberg Politics)」で、最高裁が多数の同性婚禁止法を無効化したことを取り上げる記事を掲載した。その際、ある記者が気づいたのだが、主要新聞50紙のうち、39紙が女性同士のカップルを取り上げ、男性同士のカップルを取り上げたのは数紙だけだった。
問題は、どんな切り口にするかだ。そこで我々は、全50紙をタイプ別に分類して分析するという、これまでにない記事の形式を生み出した。これが「アウトライン」の本質だ。
ーーあなたは、Facebookに過度に依存するパブリッシャーに批判的ですね。ソーシャルメディア以外で、現在十分に活用されていないツールのうち、自社で利用したいと思うのは何でしょうか?
動画、ゲーム、テキストの独創的な活用、オーディオ。デジタルで使えるツールは無数にあるが、そのうち4つか5つを使いたい。私がソーシャル以外のプラットフォームに関心をもつ理由は、そうすることでオーディエンスが何に反応するかを把握できるからだ。人々の求めるものは日々進化しているが、我々の仕事はその進化に対応できていなかった。
ーーFacebookの支配的状況に対する解答はありますか?
我々は、Facebookのプラットフォームに乗るのではなく、プラットフォームを中心に多様化できるよう、あらゆる手を尽くすべきだ。我々が大洋のなかの小さな波であることは、私も承知している。だが、波は我々だけではない。
オーディエンスはあっというまに適応する。すでに、Facebookに関心の薄い新世代のオーディエンスがいる。Snapchat(スナップチャット)には関心の薄い、新世代のオーディエンスもいる。変化こそがテクノロジーにおける唯一の常態なのだ。
Lucia Moses (原文 / 訳:ガリレオ)
Photo credit: Catalina Kulczar