eスポーツチーム、チーム・リキッド(Team Liquid)。そのオーナーシップグループに、『大乱闘スマッシュブラザーズ』プレイヤーのホアン・“ハングリーボックス”・デビエドマ氏、WNBAのスター選手であるエリアル・パワ […]
eスポーツチーム、チーム・リキッド(Team Liquid)。そのオーナーシップグループに、『大乱闘スマッシュブラザーズ』プレイヤーのホアン・“ハングリーボックス”・デビエドマ氏、WNBAのスター選手であるエリアル・パワーズ氏ら、同団体のトップメンバー5人が新たに加わった。このオーナーシップグループの拡大が示すのは、チーム・リキッドへの資金の流入だ。各「プレイヤーオーナー」は自身の資金を使って、同組織の株式を購入しているのだ。
チーム・リキッドは、もっとも知名度の高いeスポーツ組織のひとつで、フォーブス(Forbes)による同組織の昨年の評価額は3億1000万ドル(約352億円)だった。同組織は、プレイヤーとコンテンツクリエイターを何十人も抱えているが、出資を呼びかけられたのは、ごく一部の選ばれたメンバーだけだったという。同社のこの決断は、共同CEOのスティーブ・アーハンセット氏によると、これらのプレイヤーが「チーム・リキッドのアイデンティティと哲学に近いところで活動している」という判断に基づいて下されたものだという。たとえばデビエドマ氏についていえば、同氏はもっとも長くチーム・リキッドに所属しているメンバーのひとりだ。同氏がチームに合流したのは2015年。まだ大学生のころのことだった。
「また、金銭的な観点からいえば、彼らには投資に回せるリソースもある」と、アーハンセット氏は語る。これら5人の「プレイヤーインベスター」のうち、ふたりはTwitch(ツイッチ)のサブスクリプションとトーナメントの賞金で財を成したプロゲーマーだ(デビエドマ氏と、『カウンターストライク[Counter-Strike]』のプロ、ジョナサン・“エリージ”・ヤブロノフスキー氏)。残りの3人は、eスポーツとは無縁の場所でリッチになった著名人だ(パワーズ氏とオランダ人ポーカープレイヤーのアレクサンダー・“レックス”・フェルトハイス氏、俳優でゲーマーのエイサ・バターフィールド氏)。具体的な金額は明らかにされなかったが、各プレイヤー投資家の出資額は相当なもののようだ。「少なくとも、ある程度の出資額は必要だった」と、パワーズ氏は語る。「もちろん、それ以上でも良いわけだが」。
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「プレイヤーオーナー」現象のシグナル
チーム・リキッド以外にも、オーナーにならないかとプレイヤーに声をかけているeスポーツのトップ組織はある。100シーブズ(100 Thieves)は今年4月、チームメンバーのレイチェル・“バルキレイ”・ホフステッター氏と、ジャック・“クーレイジ”・ダンロップ氏に株式を付与。フェイズ・クラン(FaZe Clan)メンバーのニコラス・“ニックマークス”・コルチェフ氏も同月、フェイズ・クランの株主になった。2019年には、セーアン・“ビャーグセン”・ビャーグ氏もTSMの株式を取得したが、今年10月にチームを離れる際に売却を要求されている。
タレント事務所のザ・キネティック・グループ(The Kinetic Group)で、コルチェフ氏のマネージャーを務めるジャスティン・ミクラット氏は、「いまはまだトレンドになっているとまではいえないが、やがてはこれが当たり前になってくれることを願っている」と語る。「このような価値を団体にもたらせるクリエイティブなタレントが、次々に出てきてくれればいいのだが、現時点では、私はそのようなタレントが市場にいるとは思っていない。いても、ほんのひと握りだろう」。さまざまなeスポーツ組織が、我先にと多様性に富むサステナブルな収入源の確立をめざしているが、プレイヤーをオーナーとして迎え入れることで、チームの首脳陣は彼らから有益な意見を得られるかもしれない。たとえば100シーブズでは、ホフステッター氏とダンロップ氏がゲーム以外の分野に収入源を求める活動を積極的に行っている。
プレイヤーに出資を呼びかけるというチーム・リキッドの決断は、やがて巻き起こる「プレイヤーオーナー」現象のシグナルなのかもしれない。
多様性の重要視しているからこそ
チーム・リキッドのケースが、ここ最近見られるほかのケースと異なるのは、それがプレイヤーにとって明らかに「出資」であるという点だ。契約交渉の一環としての、単なる株式付与ではない。「団体への協力を促すための報酬の一形態として、株を与えられる。それに対して、自らが所属する団体に自らの資金を自らの意思で投資する。これらふたつは似て非なるものだ」と、アーハンセット氏は語る。「そこで大きくものをいうのが、自身の意思決定力と周囲からの信頼度だと、私は思っている」。
デビエドマ氏は、2016年にエンジニアの仕事を辞めて、フルタイムのプレイヤーになった。そんな同氏にとって今回の出資の呼びかけは、大半のゲーマーの選手生命はさほど長くないことは確かだが、eスポーツの世界に長く身を置くことは可能であるということの証拠にほかならない。「以前はエンジニアをしていたが、会社が用意してくれるものといえば、401kなどのリタイアメントプランだった」と、デビエドマ氏は語る。「リキッドは、さすがはeスポーツ組織だ。そんなものよりもずっとユニークなものを用意してくれた」。
パワーズ氏はリーダーとして、チーム・リキッドの多様性とインクルージョン(包摂性)に関する取り組みを率いている。そんな同氏はこの出資を、同団体が多様性の重要性を理解していることの裏づけだととらえている。この意見に、アーハンセット氏も賛同している。「これが、イクオリティ(equality:平等)とエクイティ(equity,:公平/株式)の違いだ」と、パワーズ氏は語る。「ここで示されているのは、口先だけではない実際の行動だ。デトロイト出身の女の子がこんなチャンス、こんな幸運を手にできるなんて、普通なら考えられないことだ」。
プレイヤーと運営サイドの新たな関係
プレイヤーオーナーになっても、デビエドマ氏、パワーズ氏をはじめとする5人は、ゲームプレイヤーとして、そしてコンテンツクリエイターとして、自分の得意分野での活動を続けていく。彼らプレイヤーに自分のチームに出資するチャンスが与えられたということが示すのは、コンテンツと価値を生み出す基盤としてのチームメンバーの力と重要性を、eスポーツ組織が以前にも増して認めるようになっているということにほかならない。
「以前よりもずっと複雑な関係になったが、業界はいまいい方向に転じていると、私は思っている」と、ミクラット氏は語る。「『これだけくれたら、あなたのチームで、あなたのチームのロゴをつけて大会に出場してもいい』といったやり取りを越えたところに、どれだけの価値があるのかを、プレイヤーもチームを運営する側も理解しつつある。(過去の)そうした時代は、もはや終わったといっていいだろう」。
チーム・リキッドは今後、彼らプレイヤーが得てきた実体験を、そのオーナーシップグループのなかでフル活用していくことになる。「彼ら5人については、金銭的な面だけではなく、彼らがチーム・リキッドのビジネスにも強い関心を持っていることもわかっている。そんな彼らにチーム・リキッドは、大きな決断を下す前に意見を求められるようになった」と、アーハンセット氏は語る。「いうなれば、諮問委員会がチーム・リキッドのトップグループに加わったようなものだ」。
ALEXANDER LEE(翻訳:ガリレオ、編集:村上莞)