創立7年になるオランダ語メディア、コレスポンデント(The Correspondent)が、英語版の同名メディアを立ち上げて1年が経つ。ニュースサイクルがますます過激に加速するなか、広告無しで読者からの収益によって運営されるコレスポンデントは、そのことをさらに強調し、資金を調達している。
創立7年になるオランダ語メディア、コレスポンデント(The Correspondent)が、英語版の同名メディアを立ち上げて1年が経つ。ニュースサイクルがますます過激に加速するなか、広告無しで読者からの収益によって運営されるコレスポンデントは、そのことをさらに強調し、資金を調達している。
コレスポンデントのコンテンツは、そのほとんどがペイウォールのなかに入っている。選ばれたいくつかのサンプル記事はサイトのトップで展開されており、有料会員たちは記事ごとに非会員へ「ギフト」としてアクセス権を贈ることができる。これによってまだ会員になっていない人々の興味を集める仕組みだ。そして彼らのビジネスは読者収益で完全に賄われている。会員たちが支払う金額は自由に設定できるが、英語版の1年目では平均年間会員費は43ユーロ(約5200円)、平均月間会員費は4.20ユーロ(約510円)となった。英語版開設から1年で会員が支払った総額は12万4000ユーロ(約1510万円)、2020年9月までに新会員から55万5000ドル(約5800万円)を集めるという当初の計画には及ばなかった。
英語版のサイトのためのクラウドファンディングが行われているあいだ、米国で大きく注目を集めたキャンペーンで260万ドル(約2.7億円)を調達した。その後、2019年3月には米国でのニュースルームをローンチする計画を取り止めている。コレスポンデントのゴールは、読者からの収益で完全に賄われている独立型のジャーナリズムプラットフォームを2022年の終わりまでに構築することだ。しかし、そこにたどり着くためには、クラウドファンディングのキャンペーンにお金を投じた人々が会員登録を更新する必要がある。
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とはいえ、読者収益や会員数だけを指標とするのではなく、「多様性があり、進歩的で、アクセスしやすく、国境を越えたメディアである」という目標に貢献している会員のコラボレーションのような、もっと漠然とした尺度で自らの成功を定義している。もちろん、より交流の多い会員は、解約する可能性も低い。
カンバセーションエディターの活躍
英語版コレスポンデントでカンバセーションエディターという職についているナビーラ・シャビール氏は、5万人以上の有料会員と、サイトが抱える5人のフルタイムジャーナリスト(コレスポンデント[特派員]と呼ばれている)、そしてフリーランサーのあいだのやり取りを円滑にすることが職務だ。コレスポンデントの原則の5つ目は「豊かな知識を持つ我々の会員である、あなたたちを我々はコラボレーションをする」と宣言している。そしてジャーナリズムのプロセス自体が透明であるべきだと信じる、と続く。
そのため、パブリッシュされた記事が完成されたプロダクトにはなっていない。コメント欄こそが知識交換の場所になることが彼らの野心となっている。会員がジャーナリストたちが報じる内容の形を決めるのだ。それぞれのジャーナリストが週刊のニュースレターを持っており、それによってフォロワーたちは彼らが取り組んでいる項目を常にアップデートしてもらえる。ホームページ上で、会員向けの会話タブは簡単に見つける事ができる。ジャーナリストたちは30〜50%の時間を会員たちとの交流に費やすことが推奨されている。
会員、専門家、プロフェッショナルたちは、シャビール氏に促される形で記事にコメントを残す。そして、ジャーナリストは彼らの視点が変われば、それをまたシェアする、といった具合だ。もしも、ほかの会員によって会員の誰かが「ネガティブなコメント」をしたと通報されれば(実際にそれが起きたのは15回以下)、もっとも悪いケースでシャビール氏は編集、もしくは削除の形で会話に貢献できるかどうかの判断をする。しかし、コミュニティガイドラインでは「知識や経験を共有するか、質問をすること」を求めており、ネガティブなコメントが増えることを回避している。
「ライターである、コレスポンデントにトーンを決める責任があり、彼らが反応しなくてはならない。彼らが隠れ蓑とできる組織は存在しないのだ」と、シャビール氏は言う。個人的な偏見を抱えてトピックについて知り、その後の努力の結果、偏見を克服する、といった形にもオープンだと付け加えた。
長年の計画と取り組みのおかげ
この1年において、シャビール氏は読書会、ライブチャット、テキスト形式のバーチャルパネルディスカッション、そしてコレスポンデントのジャーナリズムに関して議論を育むための呼びかけなどを実験的に取り組んだ。
政治、気候、メンタルヘルス、子どもの発育、そしてアザーネス(異質であること)の5つのトピックを通して、1週間に5本の記事が通常発行される。発行された記事はそれぞれに対して、シャビール氏はその分野における国際的なプロフェッショナルにコンタクトをし、その記事にコメント、そして彼らの知識や体験をシェアしてもらうよう依頼する。1週間に大体ふたりのプロフェッショナルからの返答がもらえる。トピックによっては非常にニッチな専門家が必要になるからだ。現時点ではこのプロセスは非常に手作業中心となっている。
テンプル大学のジャーナリズム教授であるアーロン・ピルホファー氏は、コレスポンデントがアメリカの人気テレビ番組「ザ・デイリー・ショー(The Daily Show)」に登場したことや、クラウドファンディングで何百万ドルも調達したことは、ただの運ではなく、何年にもわたる計画と取り組みのおかげだとが最近評した。
盛り上げるためのさらなる努力
サイトにおける会話を盛り上げるために彼らがしていることはこれ以外にもある。
より多様性を含ませること、よりリベラルな理想を持つメディアだが、政治や人種差別といったトピックに対するコメントは、それでも激しいやり取りになることがある。ほかのニュースメディアと同様、コメントを残すのは会員のたった2%、約1000人となっている。フリーランサーと比べると、フルタイムのジャーナリストたちはプロセスの最初から会員たちを絡ませることに慣れている。
ボリュームとカテゴリーを理解するためにやりとりを数週間かけて分析した結果、「サニティ(sanity)」と彼らが呼ぶメンタルヘルスのカテゴリーと、「最初の1000日(First 1,000 Days)」と呼ばれる子どもの発育のカテゴリーが、コメントを含めたやりとりの数がもっとも高いことがわかった。関係のある専門知識を持つ会員たちは、記事が掲出される前に読み、コメントをする。たとえばニュージーランドの首相であるジャシンダ・アーダーン氏が、「トゥースフェアリー(子供の歯が抜けたときに、歯を受け取りに来る妖精)」はエッセンシャル・ワーカー、つまりコロナ禍においても働き続けている必須業務の労働者だと発言したときに中傷を受けたが、コメントではこれは正しい形だと指摘された。またコメントを通じて、ジャーナリストたちにさらなるリサーチと報道をするように促すこともあった。たとえばこちらの障害を持つ人々が「触ること」について健常者に知って欲しいと思っていることについての記事が、その例だ。気候変動に関するテクノロジーからコロナウイルスにおける家計補助パッケージに至るまで、さまざまな専門家たちが記事で取り上げられたトピックに関する専門知識を共有している。
分析の結果、最初の4カ月間はコメント数が高いこともわかった。会員たちが特にメンタルヘルス、トラウマといった分野に関する記事で自らの経験をシェアする際も、感情的なコメントよりは正直なコメントをする傾向にある。これはネガティブなコメントに溢れるメインストリームのメディアとは対照的だ。
「グローバルな成功には至っていない」
コメントの大部分はコンテンツそのものに関するものだ。質問や、わかりにくい部分の説明を求めたり、反論をする、といった具合だ。女性が書いた記事は男性が書いたものよりもコメントを集めやすい。(透明性のために記すと、記者の52%は女性、47%は男性、1%はその他の性自認となっている。しかし、記事の情報源という点では北半球の白人男性が主になっている)。コレスポンデントはまだ改善の余地がたくさん残されていることを理解している。そのため、バーチャルイベントの数を増やして実験を行い、会員や寄稿者たちによりアクセスしやすい形式だと、彼らが信じている音声フォーマットでの体験の共有をしてもらうといった実験もしている。
「私のパキスタン人の家族がログインして読むような状況にならない限りは、サイトはエリート主義的であることに変わらないだろう。(国境を超えるという点で)まだ我々は成功していない」と、シャビール氏は述べた。
[原文:‘It’s on the writers’: How The Correspondent drives interaction between members and its journalists]
LUCINDA SOUTHERN(翻訳:塚本 紺、編集:長田真)