生き残りを目指すパブリッシャーにとって、サブスクリプションへの移行は急務の課題だ。そんななか、ニュースレターの紹介プログラムは、ペイドプロモーションと比べると、安定性の点でも、コスト効率の点でも、新規のサブスクライバーを獲得するための有効な手段となっている。
生き残りを目指すパブリッシャーにとって、サブスクリプションへの移行は急務の課題だ。そんななか、ニュースレターの紹介プログラムは、ペイドプロモーションと比べると、安定性の点でも、コスト効率の点でも、新規のサブスクライバーを獲得するための有効な手段となっている。
有形のインセンティブ(ブランド名の入ったTシャツや、非公開のFacebookグループへのアクセスなど)を提供するこうしたプログラムは、オーガニックによる読者の獲得をただ待つのではなく、既存のサブスクライバーにニュースレターを薦めてもらうという点で、より意図的で積極的な手段といえる。
ハッスル(The Hustle)、モーニングブリュー(Morning Brew)、デイリーピーナット(The Daily Pnut)、そしてフィニマイズ(Finimize)──これらニュースレターのサブスクリプションを手がけるパブリッシャーのリーダーたちは、既存サブスクライバーによる「口コミ」と「ブランドアドボカシー」こそが、良質な新規サブスクライバーの獲得にもっとも重要な要素だと話す。多くの場合、参加者がニュースレターのサブスクライバー基盤に与えた影響の大きさを、ゲーム感覚でトラッキングできる紹介プログラムは、こうした参加者が持つサブスクライバーとしての価値を、ほかの読者のそれよりも高いものにするという。
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とはいえ、紹介プログラムを軌道に乗せ、成功させるのは容易ではなくコストもかかる。多くの場合、プログラムのテクノロジースタックはインハウスで開発されるからだ。また、それがトップレベルのブランドアドボケイト(ブランド支持者)を、パブリッシャーの期待どおりに引きつけられるともかぎらない。
にもかかわらず、モーニングブリューとハッスルの紹介プログラムは、参加者たちの顧客生涯価値(以下、LTV)を高めることに成功しているのだ。
「多くの可能性が秘められている」
テック/ビジネス系ニュースレターのハッスルは、無料のデイリーニュースレターと有料のオンラインサブスクリプションを配信している。同ニュースレターのアクティブユーザー数は合計で150万人に達していると、ハッスルのプレジデントを務めるアダム・ライアン氏は話す。アンバサダー、つまりハッスルの紹介プログラムに参加しているブランドエバンジェリストの数も、1万人に昇るという(2019年10月時点)。
紹介プログラム参加者のLTVは、平均的なサブスクライバーのそれよりも何倍も高いと、ライアン氏は話す。平均的なサブスクライバーと比較すると、紹介によるサブスクライバーの開封率は2倍に昇るという。だが、アンバサダーは新しい有料プロダクトのベータテストを最初に利用し、フィードバックを与えてくれるという点でも、大きな価値がある。
ハッスルはまた、有料年次プロダクトのアンバサダープログラムをローンチすることも計画している。ライアン氏によれば、同社は「このグループが持つロイヤルティをさらに活用し、より効果的にマネタイズし、より速く彼らから情報を得られるようにする」ことを目指しているという。
モーニングブリューの最高執行責任者であるオースティン・リーフ氏によれば、モーニングブリューのサブスクライバー数は200万人を超えており、平均で1日に1000人が、紹介による新規登録を行っているという。22万5000人が、少なくともひとりを紹介しており、同ニュースレターの成長の35%がこの紹介プログラムによってもたらされているという。
この紹介プログラムの成功を受け、モーニングブリューは、エマージングテックブリュー(Emerging Tech Brew)やリテールブリュー(Retail Brew)といった、バーティカルニュースレターにも紹介プログラムを導入している。
「紹介プログラムには多くの可能性が秘められている。ニュースレターライターにとってのグロースチャネルにも関わらず、過小評価されている」と、エディトリアルニュースレターツール、レビュー(Revue)の創業者である、マルティン・デ・カイパー氏は語る。「紹介プログラムに参加する読者は、エンゲージメント率が高い。我々パブリッシャーとのあいだに、親密な関係があるのだ。だから、支持者なり、ほかの読者を紹介してくれることが多いのだ」と、同氏は付け加える。
プログラム開発にはしっかり投資を
デイリーピーナットはグローバルニュースを報道するニュースレターだ。デイリーピーナットの親会社、メディアモービライズ(Media Mobilize)でCEOを務めるティム・シャー氏によれば、同ニュースレターのアクティブサブスクライバー数は12万人で、平均開封率は約40%だという。また、紹介プログラムからの読者の開封率は、それよりもさらに高く、51%に達しているという。
2016年にメディアモービライズに買収された直後、デイリーピーナットは紹介プログラムをいったん終了したが、今年5月26日に再ローンチしたと、シャー氏は話す。オリジナルのプログラムは、技術的観点から見て維持するのが難しかったという。最終的に、デイリーピーナットのチームが紹介プログラムのためのテックスタックを独自に開発した。シャー氏によれば、時間と費用の両面で大きな投資だったという。
「しっかりした妥当な紹介プログラムの開発には、3~6カ月の時間をかけるべき」と、同氏は話す。わずか1カ月半で約2000人の新規サブスクライバーを獲得してはいるものの、シャー氏も、同社のグロースマーケティング部門を率いるニック・チェン氏も、先行投資を回収するにはまだほど遠い状態と話す。「紹介はきっとうまくいくと信じて、長期投資に踏み切った」とシャー氏。
サブスクライバー獲得の原動力に
また、必ずしもすべてのニュースレターパブリッシャーが、紹介プログラムによりトップレベルのブランドエバンジェリストのやる気を刺激できているわけではない。
「エンゲージメント率がトップクラスのユーザーが、必ずしも紹介プログラムを活用しているわけではないことがわかっている」と、金融リテラシーを扱うデイリーニュースレター、フィニマイズの創業者であるマクシミリアン・ロウファガ氏は語る。とはいえ、口コミ、つまりインセンティブのないシェアリングは、いまも新規サブスクライバー獲得の究極の原動力だと、同氏は話す。同ニュースレターのアクティブサブスクライバー数は、約100万人だ。
さらに、紹介プログラムを介して同ブランドに誘導されてきたサブスクライバーグループは、平均を上回る開封率を示しているという。その平均は約40%で、デイリーピーナットやハッスルと肩を並べている。フィニマイズの売上は広告によって支えられており、これら広告のCPMは開封率に左右されるため、このグループのLTVは平均的なサブスクライバーのそれよりも高いと、同氏は述べる。
ファーストパーティデータを収集できる
サードパーティCookieの終焉が近づいているいま、読者のファーストパーティデータをより多く収集できる点も、紹介プログラムの付加価値だと、メールマーケティング企業のライブインテント(LiveIntent)で、グローバルマーケティング部門のシニアバイスプレジデントを務めるケレル・クーパー氏はいう。
「サブスクションリストの拡大という短期的価値が、マネタイゼーションの成長へとつながる」と、クーパー氏は語る。「だが長期的には、サードパーティCookieの残り時間が少なくなっているいま、メールを中心に、ファーストパーティデータベースの構築を進めているパブリッシャーは、ほとんどのライバル企業よりも有利な地位を確保できるだろう」。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:ガリレオ、編集:Kan Murakami)