気候問題はニュースルームが考慮すべき重要なテーマになりつつある。国連の第26回気候変動枠組条約締約国会議、通称COP26の開催が11月に迫るなか、米DIGIDAYはワシントン・ポストのクリサ・トンプソン氏にインタビューを実施。気候関連報道のチーム編成やソーシャルメディアを活用した届け方について、話をきいた。
ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、総力を挙げて、気候変動の報道に取り組んでいる。
国連の「第26回気候変動枠組条約締約国会議」(COP26)の開催が迫り、ワシントン・ポストは11月の会議に合わせて全紙面を使って報道するべく準備を進めてきた。現地にチームを配置するだけでなく、複数のチームが同紙のフランチャイズやフォーマットに合わせてコンテンツを制作する予定になっている。ワシントン・ポストの多様性およびインクルージョン担当マネージングエディターのクリサ・トンプソン氏は、気候変動について話し合う世界のリーダーたちの会合から発信されるニュースを、「可能な限り身近なものにする」ことを目指す。
気候問題は、ニュースルームが考慮すべき重要なテーマになりつつある。米国海洋大気庁(National Oceanic and Atmospheric Administration)の国立環境情報センター(National Centers for Environmental Information)が最近発表した報告書によると、米国では2021年までに10億ドル(約1141億円)以上の損失を伴う異常気象災害が18件発生しているという。
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多くのニュースパブリッシャーがCOP26で発表されたニュースを取り上げるようだ。そこで、米DIGIDAYのはトンプソン氏にインタビューを申し込み、ワシントン・ポストがこの分野に多くの人材を投入している理由や、どのようにそれを行っているのかについてきいた。トンプソン氏によると、ワシントン・ポストは、政治・行政、ビジネス・技術、調査報道などの分野を中心に報道を行っているが、気候問題を重要な分野と捉える傾向が「ますます強くなっている」という。
トンプソン氏いわく、「それはワシントン・ポストの報道の重要な柱だ。必要不可欠なストーリーだ」。
以下、インタビューのサマリーをお届けする。なお、読みやすさを考慮し、若干の編集を加えている。
◆ ◆ ◆
──ワシントン・ポストは気候関連の報道に対してどのように投資しているのか?
我々の気候チームは、2018年から倍増して十数人の記者と編集者で構成されている(インタビュー終了後、ワシントン・ポストの広報担当者から、チームの人数について記者10人と編集者3人の従業員で構成されているとの報告を受けた)。マキシン・ジョスロー氏は、気候政策を報じるニュースレター「クライメイト202(Climate 202)」を立ち上げたばかりだ。昨年から気候問題の分野で活躍するビジョンを持った人たちを紹介し、彼らのソリューション志向の活動を紹介してきた「クライメイト・ソリューションズ(Climate Solutions)」シリーズに、最近レポーターのティック・ルート氏が加わった。また、グラフィックレポーター、データレポーター、デザイナーも加わり、ほとんど気候に関する仕事に専念している。
「キャピタル・ウェザー・ギャング(The Capital Weather Gang)」は、気候問題を扱うもうひとつのチームで、4人が所属している。彼らは当初、昔ながらの気象報道チームだったが、ソーシャルスペースで非常に精力的に活動し、気象関連のニュースやトレンドをいち早くキャッチし、その背景にある科学や気象学を提供している。異常気象や気候の変化については、我々気候チームとの連携が欠かせない。
より広範な環境関連の報道、たとえばフロリダのハリケーンやアリゾナの熱波に関する報道では、アメリカデスクのメンバーに全米を広くカバーしてもらい、気象チームと連携している。
──COP26において何を報道する予定か?
この気候変動会議は、我々がこの重要なテーマに集中する瞬間だと考えており、チームがこれまで行ってきた素晴らしい仕事をまとめ、それを際立たせるものだ。ここにいるエディターと現地のチームとで、COP26を報道するために多くの人にアプローチしている。
- グラフィックに明るいレポーターを現地に派遣し、解説用グラフィックスをすぐに作成する。
- サミット期間中、我々の気象チームのメンバー4~5人が交渉を主導する。
- ロンドン駐在の特派員が数人、グラスゴーに滞在し、取材協力するほか、気候変動をめぐる活動家グループや抗議運動の状況をカバーする。
- 世界中にいる我々のスタッフは、今回の会議に参加できなかった国や市民の声について、彼らの意見がどのように反映されているのか、あるいは反映されていないのかを考えていく。
- 特集記事担当者は、ニュース速報とは別に、サミットの意義について伝える。
- 動画では、カメラ担当者、プロデューサー、そして米航空宇宙局(NASA)から雇用したカーシャ・パテル氏をキャピタル・ウェザー・ギャング・チームに合流させ、現地での解説をしてもらうとともに、我々のウェブサイトと、インスタグラムのフィードやリール(Reels)の両方で、会議の様子やその日の交渉で起こった出来事を人々に伝える特集やハイライトを予定している。
- 現地班では、ジョスロー氏がクライメイト 202ニュースレターでニュースを伝えるとともに、その日のイベントに関する分析や解説を毎日提供することを考えている
我々の最近の大きな取り組みのひとつは、ロンドンとソウルにニュース速報用のハブを設置し、時差を超えてニュースを伝えることができるようになったことだ。これらのニュース速報チームは、気候に関する報道に非常に上手く対応していて、彼らの活動時間内に起こっているもっとも重要なニュースを探し、ワシントン・ポストに報告している。COP26は世界の最重要ニュースのひとつになるだろう。
──ワシントン・ポストは気候報道を伝えるために、どのように異なるフォーマットを使うのか?
分析、解説、ライブブログ、「ポスト・リポーツ(Post Reports)」のデイリーポッドキャストと動画の更新を行っている。ニュース速報がある日は、ライブブログを更新する。ニュースによっては、レポーターやアナリストを呼んで、イベントのライブ動画を配信することもある。また、インスタグラムのオーディエンスは、我々が行っている短尺の解説動画をとても気に入ってくれているようなので、それをホームページでも紹介したいと考えている。「ワシントン・ポスト・ライブ(Washington Post Live)」では、COP26の前後に、アル・ゴア元副大統領らのインタビューを行う長期シリーズを継続することにしている。
FAQはタッチポイントとして本当に役に立っている。我々は、サービスとしてのジャーナリズム、ユーティリティーとしてのジャーナリズム、解説としてのジャーナリズムを多くのトピック分野で構築することを目指しているが、気候分野もそのひとつだ。FAQのような、ユーザーや読者にとって使いやすいフォーマットは、こうした報道への入り口として非常に重要だ。
──そうした報道を人々が見つける方法は?
COP26での出来事を読者に伝えるために、気候レポーターとのライブチャットを行うかもしれない。会議期間中、ホームページにモジュールを設置し、読者が最新のニュースや解説記事を見ながら、関連する質問に答えることができるようにする。ランディングページでは、COP26の報道をより深く掘り下げることができるようになっている。
SARA GUAGLIONE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:小玉明依)