米国でのコロナ禍発生以来、人々が以前にも増して注目しているのは地元に根差したローカルニュースだ。人々が地元のニュースをますます消費するようになったことで、大手ブランドの広告主たちの注目も集まりはじめている。各地の消費者に確実にメッセージを届けるべく、ローカルパブリッシャーとのつながりを求め始めているのだ。
今年3月、米国でのコロナ禍発生以来、多くのオーディエンスが新型コロナウィルス感染症に関する地元の最新情報を欲している。続いて5月、ミネアポリス市警によるジョージ・フロイド氏の暴行死を受け、各地で抗議デモが勃発した際も、人種差別反対運動に関する地域情報への需要が高まった。そして現在、米大統領選を間近に控えるなか、人々はやはり、地元の支持者数や投票場所および方法に関する最新情報を求めている。
「この8カ月ほど、ニュースの主軸はローカルおよびコミュニティに傾いている」と、ハイパーローカルメディアパブリッシャー、パッチ(Patch)の社長ウォーレン・セント・ジョン氏はいう。ローカルニュースがかつてないほど重要視され、オーディエンスが地域や州、そして地元のニュースをますます消費するなか、パッチは全国規模の広告主から大いに注目されている。
そこには、ローカルニュースへの関心そのものとは別に、コロナ絡みのビジネス的理由もある。メディアバイイングエージェンシー、ハバスメディア・ノースアメリカ(Havas Media North America)のCEOコリン・キンセラ氏によれば、コロナ禍への対応状況はマーケットごとにばらつきがあり、それにより人々の消費動向もマーケットによって変わってくる可能性が高いため、いまはローカルマーケットに向けて広告を打つことが、ブランドにとっては賢明だという。
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キンセラ氏によれば、これからは「それぞれの環境にふさわしいコンテンツで消費者に寄り添えるブランド」がより大きな成功を収められる。そして「ローカルで、なおかつスケールも有するメディア企業、なかでもブランデッドコンテンツをローカライズできるところが、とりわけ有利になる」という。
オーディエンスは大幅増
セント・ジョン氏によると、パッチのローカルセールス部門は今年9月、クライアント数、売上高ともに自社史上最高を記録した。さらに、具体的な数字は明かさなかったが、同社全体の収益も直接販売が増加したおかげもあり、前年比30%増の伸びを見せた。
この成長を主に支えているのが、ローカルパブリッシャーが各コミュニティで構築している「信頼」を利用したいと考える全国規模のブランド勢だと、セント・ジョン氏は指摘する。そしてその需要に応えるべく、同氏はパッチの体制を改め、スケール不足や優れたユーザーエクスペリエンスの欠如といった、ローカルパブリッシャーにありがちな欠点をいくつか解消したという。
パッチのセールス部門はナショナル(全国)とローカル(地方)の2チームに分かれており、スタッフ数は前者が約15名、後者が約10名。編集チームはこのコロナ禍中に20名増え、現在総勢130人以上で各地の町、都市、州にそれぞれ特化した1000超のPatchのサイトを管理している。
同社のオーディエンス総数は、デジタル市場分析会社コムスコア(Comscore)によると、2019年3月から8月にかけての月間平均ユニーク訪問者が1930万人だったのに対し、2020年の同期間のそれは2880万人に増加した。この大幅なオーディエンス増を受けて、パッチはユーザーエクスペリエンスをよりシンプルかつスムースにできるよう尽力したと、セント・ジョン氏はいう。
ブランドの利益を考慮した決断
多くのローカルパブリッシャーはこれまで、事業をどうにか成り立たせるために積極的かつ攻撃的な収益化戦略という定番の道を採択してきた。「それはプログラマティック的にはいいかもしれないが、ブランドの直接的な利益にはならない」と、セント・ジョン氏は指摘する。その典型例がバナー広告やポップアップ広告、自動再生動画でページを埋め尽くす手法だが、いずれもサイト速度を下げるという弱点がある。
今年2月、パッチはページ下部にサードパーティコンテンツのレコメンデーション広告を相応の対価で載せる企業、タブーラ(Taboola)との契約を解消した。さらに、ポップアップ動画をはじめ、ページの読み込み速度を遅くする技術的要素もすべて取り除いた。
「思い切った決断だったが、いまのところ結果は上々だ」と氏はいう。たとえば、タブーラは労せず得られる収入をパブリッシャーに約束する存在であり、多くのパブリッシャーがこれを利用し、長年にわたり漸増的な収益を上げている。そんな手軽な収益源との決別は「難しいことだが、多くのパブリッシャーができれば(決別)したいと考えており、我々はそれを実行した。おかげで、一流ブランド勢を高いブランドエクイティと予算に見合う形で、オーディエンスに見せる余裕ができた」。
タブーラや同様の企業との長年の提携でパッチがどれほどの収益を上げたのか、セント・ジョン氏は具体的な数字こそ明かさなかったが、彼らと手を切ったことで被った損失はすでに取り戻したと断言する。
ブランドはローカルコミュニティを重視している
現在、パッチのサイトに広告を載せている主な企業は、Amazon傘下のホームセキュリティ会社リング(Ring)や、ベライゾン(Verizon)、AT&T、T-モバイル(T-Mobile)といった通信事業者となっている。
「いまやどの広告主もブランドレベルでコミュニティを、それもローカルコミュニティとのつながりを重視しており、これまでとはフォーカスが明らかにシフトしている」としつつ、セント・ジョン氏はこう指摘する。「ただし、全国レベルのブランドが、いわば35000フィートの高みにいる状態から、その下に広がるコミュニティにフォーカスするのは、容易ではない」。
パッチがこれを成し遂げるのに利用した手段のひとつが、読者が選んだ地元の英雄を紹介する連載記事にスポンサーをつけるというものだった。たとえばリングもその1社で、1400人以上のこうした紹介記事のスポンサーとなっている。
またセント・ジョン氏によれば、同社のセールスおよびオペレーションチームは、ローカルサイトに載せるすべての広告について、広告主が全国に向けたメッセージを各コミュニティにあわせてローカライズできるよう、正しい綴りで町名や市名を自動で入れられるシステムも開発したという。
「地方を広くカバーすればするほど、ビジネスは上向きになる」とセント・ジョン氏。「これはまさに好循環であり、我々にとってはきわめて良い市場だ」。
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)