サードパーティーCookieの終焉が近づくなか、独自のファーストパーティデータプラットフォームを構築したニュースパブリッシャーのリストに、新たにサウスチャイナ・モーニング・ポストが加わった。「ライトハウス」という独自のプラットフォームを構築し、広告主とオーディエンスのセグメントを共有して行く予定だ。
独自のファーストパーティデータプラットフォームを構築したニュースパブリッシャーのリストに、新たにサウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post:以下、SCMP)が加わった。SCMPのプラットフォーム「ライトハウス(Lighthouse)」の目標は、世界中にいるオーディエンスのアドレサビリティを増し、サードパーティCookieが無効化されターゲティングができなくなった場合に備え、最終的には広告キャンペーンの効果を高めることにある。
広告主はダッシュボード経由でライトハウスにアクセスし、嗜好やキャンペーンのターゲット、配信チャネル、コンテンツの傾向をもとにオーダーメイドのオーディエンスセグメントを作ることができる。アリババ(阿里巴巴)グループの傘下にあり香港を拠点にするSCMPの内部資料によると、ラグジュアリーライフスタイルやビジネストラベル、健康など、月平均5000万人いるユーザー(うち37%は米国のユーザー)の履歴に基づいてマーケターがいつでも選び出せるオーディエンスセグメントを25個構築済みだとしている。コムスコア(Comscore)によると、SCMPの月間ユニークユーザーは世界に2220万人いるという。
完成までに6カ月を要したライトハウスは、ブラウザや当局による規制強化に先駆けてサードパーティデータへの依存を減らそうとしているVOXやワシントン・ポスト(The Washington Post)、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)に追随したものだ。
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重要性を増すファーストパーティデータ
SCMPのデジタル担当バイスプレジデントであるイアン・ホッキング氏は次のように語る。「サードパーティCookieは頼りになるものであり、それがあれば『我々はオーディエンスをある程度理解している』と言える。なくなるのであれば、『広告主にどうすればサービスを提供できるか』と考えることに集中しなければならない。そして、パブリッシャーは正しい方法で動機付けされているのであれば、ファーストパーティデータを収益化できる立場にある」。
すべてのパブリッシャーにとってその「動機」とは、オーディエンスをよりよく理解し、その知識をセールスや編集、商業コンテンツ、マーケティングチームのために有益な情報に変えることだ。2020年6月後半は、Appleが広告識別子IDFAの導入を発表したことを受け、マーケティングや識別問題で忙しい週だった。次いでFacebookが、オーディエンスネットワーク(Audience Network)でIDを提示しないパブリッシャーは売上が50%減ることを明らかにした。パブリッシャーのファーストパーティデータ戦略は、サードパーティCookieの灯が消えるのを目前にして、一層重要性を増している。
SCMPは、ライトハウスでは1日あたり120万以上のデータポイントを世論調査や各種調査、アンケートなどの公表されたデータに加え、サイトでの行動、広告ログ、CMS、コンテンツ解析、感情、可読性、コンテクスチュアルデータといった要素からの観測データを通じて集めると述べている。
DMPからCDPへ
SCMPはオーディエンスにサインインを求める登録ウォールを設けているが、登録者数を明かそうとはしなかった。登録者の増加が担う役割は大きく、ログインしたユーザーには永続的な識別子が発行されて、アトリビューションがさらに効率化される。SCMPはアクセス地域やユーザー属性のような単純なデータを超えて、読者がコンテンツに見出した価値を推測できる。たとえば、子育てカテゴリを見ているユーザーは三つ子の誕生を待っているところかもしれないし、すでにヨチヨチ歩きの幼児がいるかもしれない。出産を前に緊張したりわくわくしたりしているかもしれない。
ライトハウスのダッシュボード(出典:SCMP)
SCMPは広告を主な収入源としており、顧客データプラットフォームのワンプラスエックス(1PlusX)と協業してきた。SCMPはワンプラスエックスの力を借りて、さまざまなIDをひとつのファーストパーティユーザーIDの下に集約し、そのユーザーについてわかっているすべての属性と同期させ任意の名称を割り当てる。さらに、ワンプラスエックスのオーディエンス拡張機械学習に当てはめ、ターゲットとなるオーディエンスを構築する。
マーケティングサービス企業、マインドシェア(Mindshare)の統合パフォーマンスビジネスユニットであるファストUK(FAST UK)を率いるアレクシス・フォークナー氏は次のように話す。「より多くのパブリッシャーがデータマネージメントプラットフォーム(DMP)からカスタマーデータプラットフォーム(CDP)への移行を進めている。つまり、セグメントデータへの依存をやめオーディエンスの理解につながる個々のユーザープロファイルへ移行するという意味だ。この動きは、さまざまなソースから顧客についての情報を得ている企業が、保有する多様なデータ資産へのアプローチ方法の統一を検討しはじめたということだ」。
だがCDPはまだ開発途中の空間であり、パブリッシャーが構築に着手してからほんの数年が経過したにすぎない。そして、データが集計される過程で曖昧になり、とどまるところのない混乱を引き起こす。SCMPでは、社内のデータ、テクノロジー、プロダクトコマーシャル各部門から14人を集めた部門横断的なチームがあり、プラットフォームの構築と管理に当たっている。
「データには投資する価値がある」
SCMPでは過去1カ月に事前構築した25のコアセグメントを使ってライトハウスをテストし、追加された観測データのパフォーマンスとサイト平均のコホート分析結果を比較した。ライトハウスの使用によってCTRが40%向上しており、ビジネスセグメントをターゲットにしたMBA取得を目指す教育キャンペーンではCTRが0.12%から0.3%に上昇したという。ホッキング氏はSCMPが事前構築した25のセグメント以外に、広告主のマーケターも独自検証してオーダーメイドのオーディエンスを作り、新たなターゲティング基準を適用してくれることを期待している。
「キャンペーンの結果をクライアントに報告する場合、CTRかビューアビリティを知らせるのが通常でほかのことは知らせない。これは、プログラマティック市場においてサードパーティベンダーが提供する内容とほとんど差はない」とホッキング氏は話す。
ホッキング氏は、これですぐに何百万ドルを生み出すわけではないとしつつ、名前は明かせないが3つの大手パートナーとすでに契約したという。この契約はインサイトを提供できる能力に基づいたものだ――だが、むしろ、増加し続けるオーディエンスを理解するためにパブリッシャーとより深く前向きな関係を築くことの重要性を表している。「パブリッシャーはこれまで、サードパーティデータの衰退について反応してこなかった」とホッキング氏はいう。「パブリッシャーはデータ分野において固有のポジションになかったが、データには付加価値があり、時間をかけて投資するに値する」。
[原文:‘It’s a crutch’: South China Morning Post is the latest publisher to swear off third-party data]
Lucinda Southern(訳:ガリレオ、編集:分島 翔平)