パブリッシャーは、アドテクの複雑さと透明性についての不満を漏らし続けている。そして先月、英紙「ガーディアン(Guardian)」の最高売上責任者(CRO)ハミッシュ・ニックリン氏が、プログラマティックに投じられる広告費の30%しか同社の懐に入らないケースもあることを明らかにすると、パブリッシャーのフラストレーションはいっそう高まった。
パブリッシャーは、アドテクの複雑さと透明性についての不満を漏らし続けている。そして先月、英紙ガーディアン(Guardian)の最高売上責任者(CRO)ハミッシュ・ニックリン氏が、プログラマティックに投じられる広告費の30%しか同社の懐に入らないケースもあると明かす、パブリッシャーのフラストレーションは一層高まった。
この暴露は多くの疑問を投げかける。このようなケースは普通なのか? 誰が消えた金を懐に入れているのか? そして、この問題を緩和するために何ができるのか?
本記事では、これらの疑問に対する答えを追求する。ニックリン氏が述べているように、パブリッシャーが「消える広告費」という問題に取り組むことが重要だ。「広告主が有料パブリッシャーに払っていると思っている広告費の多くが、実際には我々のところに届いていない」と同氏は語る。
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これは普通なのか?
大半の消息筋は、「ガーディアン」の手元に届くまでに広告費の70%が消えてしまっていると聞いても驚かなかった。「さらにひどいケースがあるかもしれない」と、デジタルアドネットワーク、バイセルアズ(BuySellAds)の創設者でCEOのトッド・ガーランド氏は語った。
だが、70%は異常値だと考える消息筋もいる。メディア戦略企業マグナグローバル(Magna Global)でイノベーション担当シニアバイスプレジデントのビン・パオロッツィ氏は、パブリッシャーはオープンな取引からプライベートマーケットプレイス(PMP)へと移動しており、ここまで収益が少ないのは「どんどん稀なケース」になりつつあると語る。
ハースト(Hearst)のデジタルネットワーク部門であるコアオーディエンス(Core Audience)で広告プラットフォーム担当シニアバイスプレジデントのマイク・スミス氏は、ガーディアンの例は業界の現状を代表するものではないと語気を強める。
「私が『ハースト』のインベントリー(在庫)を購入しても、中間料金70%にはならない」と、同氏は語る。
スミス氏は、仲介手数料は20~30%の範囲だとして、「『ガーディアン』に調査結果の公開を要求して、その内容を我々が検証できるようにするべきだ」と語った。
料金が20%か70%かにかかわらず、この金がどこに流れるのか、分析してみる価値はある。
分析してみた
クロスチャンネル・プログラマティックプラットフォームのアデルフィック(Adelphic)のCEO、マイケル・コリンズ氏は、一般的にパブリッシャーは、取引および取引の手数料に関する清算価格を確認するのがせいぜいだと指摘する。だがバイヤーは、しばしば取引の清算価格の実態までをも見通せる。これについて、バイラルサイト「リトルシングス(LittleThings)」の売上担当バイスプレジデント、ジャスティン・フェスタ氏は、大抵の場合、仲介手数料はパブリッシャーに伏せられるため、「ガーディアン」が行ったようにパーセンテージを計算することは非常に難しいと語る。
「広告が私の帳簿に記入される前に、最後にその広告に触れる人物の取り分を私は知っている」と、フェスタ氏。「だが、その人物の前に広告に触れた者の取り分は私は知らない」。
ガーディアンが今回の数字を割り出した方法は不明だが、どのようにして、広告費の70%が同パブリッシャーに辿り着く前に消えるのかを、コリンズ氏が推測してくれた。
まず、ブランドのエージェンシーが5%をチャージする。エージェンシーは、15%の分け前をとるトレーディングデスクを利用する。そして、バイイングプラットフォームがさらに10%をとる。エージェンシーは、サードパーティーのデータやビューアビリティ(可視性)、アトリビューションサービスなど、広告に関してより多くの情報を提供するサービスも利用するかもしれない。これが合計で25%になる。そして最後に、SSP(サプライサイドプラットフォーム)が15%をとると、ちょうど30%が「ガーディアン」に残る計算になる。
以下のインタラクティブチャートは、コリンズ氏らが算出した見積もりの内訳を示している。タブをクリックすると、どこに資金が吸い上げられているのか、アドテク企業とアドネットワーク、パブリッシャーはどのように推測しているのかを確認できる。
最後の10%を手にしている仲介業者を特定できなかったある消息筋は「私がこの質問に答えられないのは、透明性が欠如しているせいだ。アドテクが創造したこの曖昧さのなかには、驚くほどの収益が存在している」と語る。また別の消息筋は「さまざまなSSPが入札を利用して何%かをピンハネしていると聞いたことがある」と語った。
当然、このような状況にパブリッシャーが懸念を抱く理由はある。「実際には業績の足を引っ張っている隠れた費用が存在している場合、パブリッシャーは業績不振を誤って伝えられる恐れがある」とマーケティングテック企業スティールハウス(SteelHouse)で最高マネタイゼーション責任者(CMO)を務めるクリス・インズ氏は語る。
パブリッシャーに対抗策は?
アドテク企業アンダートーン(Undertone)の共同創設者エリック・フランキ氏は、さまざまな戦略を用いていれば、「ガーディアン」は収益を改善できたはずだと語る。ヘッダー入札を活用したり、価格の底値を上げたり、「85%以上もの収益を維持」できるプライベートマーケットプレイスを検討したりなど、やりようはあるというのだ。
大半のパブリッシャーは、自前のDSP(デマンドサイドプラットフォーム)を構築するためのリソースをもっていないかもしれない。しかし、オンラインマーケティング企業パーチ(Purch)の最高技術責任者(CTO)ジョン・ポッター氏は、同社のDSPは仲介手数料の縮小に役立ってきたと語る。また、マグナのパオロッツィ氏は、パブリッシャーは、保証型のプログラマティック取引を介して、収益を上げることもできる、と述べる。
バウアーメディアグループ(Bauer Media Group)のグローバルデジタル部門であるバウアーエクセルメディア(Bauer Xcel Media)でプログラマティックの責任者を務めるマイケル・ショーネシー氏は、将来、取引に関与する当事者は少なくなるだろうと予測する。
「だが、我々が皆、同じ目的をめざしているとは思えない。そして、それこそがこのブラックボックスが存在している一因でもあるのだ」と、同氏は語った。
Ross Benes (原文 / 訳:ガリレオ)
Image via Thinkstock / Getty Images