ウォールストリート・ジャーナルが年度末の6月30日に向けて、会員獲得の動きを加速させている。新たなブランドキャンペーンを展開するとともに、5月にはペイウォールを停止する。同社幹部は潜在的なオーディエンスを抽出し、マーケティングやブランディングをスムーズに効果的に進められる、と強気の姿勢を見せている。
ウォールストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal、以下WSJ)が年度末の6月30日に向けて、会員獲得の動きを加速させている。新たなブランドキャンペーン「Trust Your Decisions(自分の決断を信じよう)」を展開するとともに、5月には今年に入ってはじめてペイウォールを停止する。
今回のキャンペーンでは、読者のビジネスや財務、私生活上の意思決定がテーマだ。ただし、2019年11月におこなった前回のキャンペーンとは少々毛色が異なっている。「Read Yourself Better(自分自身をより良く読もう)」をスローガンに掲げた前回は、巷に氾濫する虚偽情報、つまりWSJが「ノイズ」と称する情報に惑わされたり流されたりすることなく、質の高い情報を選び、読み解くことを目指すキャンペーンだった。
強気の無料公開の狙い
WSJの親会社ダウ・ジョーンズ(Dow Jones)でEVPを務めるスージー・ワトフォード氏によると、今回は5月20日限定で「オープンハウス(Open House)」と称して全コンテンツへのアクセスを無料化する予定だという。
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「このイベントを通して、WSJについて関心の薄いオーディエンスに対し、コンテンツを提供することによって潜在的なオーディエンスを抽出し、以降のマーケティングやブランディングをスムーズに効果的に進められるようになる」と彼女は強気な姿勢を見せる。無料アクセスを利用するにはメール登録が必要となる。このメールアドレスは有料会員への移行後もそのまま利用できる。ちなみに、WSJがペイウォールを最後に解除したのは2020年の大統領選挙日だった。
「今回の無料化で、WSJがいかに優れたコンテンツを提供しているかを幅広く伝えられる。会員や見込み会員の獲得につながるだろう」と、ワトフォード氏は自信を見せる。
過去のブランドキャンペーンがどれくらいの会員獲得に機能したのか、ワトフォード氏に尋ねた。直接的な回答は得られなかったものの、これまでは「ブランド構築、とりわけブランドへの信頼度や見込みオーディエンスの獲得という面で大きな成果を得られた」という。
WSJの現在の会員数は320万人となっている。ダウ・ジョーンズはバロンズ(Barron’s)やマーケットウォッチ(MarketWatch)といったメディアブランドも保有しており、総会員数は400万人を超える。2020年秋に有料会員を倍増させる目標を立てたダウ・ジョーンズだが、その期限は公表されていない。ダウ・ジョーンズを含む複数のパブリッシャーを傘下に持つニューズ・コーポレーション(News Corporation)の2021年第2四半期業績発表によると、ダウ・ジョーンズの発行部数とサブスクリプション収益は、前年比で8%増となる2300万ドル(約25億円)の増収となった。
屋外広告で大々的なプロモーションも
今回のキャンペーンについて、WSJは紙面、デジタルメディア、そしてSNSなどで広告を出している。さらにはニューヨークのタイムズスクエアを手始めに、世界各地で屋外広告も展開していく予定だ。キャンペーンはクリエイティブエージェンシーのザ&パートナーシップ(The & Partnership)が協力しており、同社の提携先であるメディアネットワークのm/SIXが広告販売管理を担当している。
今回のキャンペーンに投じられた金額は明かされていない。ただし「WSJはより積極的にマーケティングに投資していく」と、ワトフォード氏は話す。「新年度が近づくなか、今回のキャンペーンはブランディングや会員獲得面で大きな成果として結実するだろう」。また、これはWSJ史上で最長のキャンペーンとなる予定だという。
オーディエンス開発およびマーケティング事業を手掛けるトゥウェンティファースト・デジタル(Twenty-First Digital)の創業者でCEOのメリッサ・チャウニング氏は、「ダイレクトトラフィックが減少基調を見せるなど、WSJの今回のキャンペーンは、厳しいビジネス環境を切り抜けるべくマルチチャネルを駆使した堅実な戦略といえる」と分析する。「新聞をはじめ紙媒体の発行部数の落ち込みが大きく影響しているのだろう。WSJのブランディングにおいて、これまで紙媒体は大きな存在だった」。
「オンライン広告だけでなく屋外広告でブランドを宣伝すれば、物理的にその場所を訪れたことがある人にリーチできる」。
また、WSJは「Decision Maker(意思決定者)」という文字が書かれたマグカップとTシャツをメディアやマーケティング関連企業に送付予定だ。これらのノベルティ品は、キャンペーン中には会員にも送られる。また、このフレーズは5月4日に開催されたバーチャルイベントの「WSJ CEO Council」や、5月11日から13日にかけて行われたWSJでも最大規模の消費者向けバーチャルイベント「The Future of Everything Festival」などでも使われる。
アンケートから導き出したテーマ
WSJの今回のキャンペーンは、カスタマーインテリジェンスチームによるアンケートの影響が大きい。見込み読者の60%が、コロナ禍が終息するまで、重要な決定(投資やキャリア、健康など)を先延ばしにしていると回答している。消費者はこうした決定をおこなうタイミングを待っているというのがWSJの考えだ。
「キャンペーンには『Trust(信じる)』という言葉が含まれる。一方で、これは会員登録を促す効用も含まれている」と、ワトフォード氏は語る。「有料会員になりたいと思わせるような言葉を選んだ」。
[原文:Inside The Wall Street Journal’s latest push for new subscribers]
SARA GUAGLIONE(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)