Amazonやアリババ(阿里巴巴)などのeコマースプラットフォームが、オンライン買い物客へのリーチを拡大している。そんななか、大手小売業者は、店舗や自宅でより快適なデジタルエクスペリエンスを顧客に提供するテクノロジーをテ […]
Amazonやアリババ(阿里巴巴)などのeコマースプラットフォームが、オンライン買い物客へのリーチを拡大している。そんななか、大手小売業者は、店舗や自宅でより快適なデジタルエクスペリエンスを顧客に提供するテクノロジーをテスト中だ。たとえばウォルマート(Walmart)は、2017年にスタートアップインキュベーターのストアナンバーエイト(Store No 8)を設立し、会話型コマースと仮想現実(VR)に取り組んでいる。
ストアナンバーエイトの代表を務めるケイティ・フィネガン氏によれば、同社は単にAmazonに対抗しようとしているだけでなく、未来の顧客体験を強化するテクノロジーを見極めようとしているという。ウォルマートは、彼らの取り組みを通じて、自宅でコネクテッドデバイスを利用するモバイルファーストの消費者のニーズを探っているのだ。
「我々の戦略の真の狙いは、攻勢に出ることにある。そのために、我々の持つ能力を大きく拡大し、他社と異なる体験を実現できる分野を見極めるようとしているのだ」。
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昔からある大手小売企業はいま、スタートアップへの投資を拡大中だ。ホームセンターを手がけるロウズ(Lowe’s)のように、社内にインキュベーションラボを設置するところもあれば、大手量販店のターゲット(Target)のように、ハイテク分野のアクセラレーターであるテックスターズ・リテイル(Techstars Retail)と組むところもある。ウォルマートは、新たな顧客体験に取り組むためにウォルマート・ラボ(Walmart Labs)を設立したが、彼らが見据えているのは比較的近い将来(半年~1年後)だ。ストアナンバーエイトはもっと遠い未来に目を向けており、成果を上げるまでに少なくとも3年はかかると見込んでいる。
顧客体験に役立つ技術
ウォルマートは、ストアナンバーエイトを独立会社(自社傘下の有限責任会社)として運営しながら、さまざまな企業を買収して、完全子会社にしている。ベンチャーキャピタリストのように企業に投資するのではなく、「運用上および戦略上のリターン」、つまり収益性ではなく、各企業のツールが将来の顧客体験にどれほど役立つのかという観点で、各社のパフォーマンスを見極めているのだ。
ウォルマートが、顧客体験をカスタマイズするためのテストに利用しているのは、自動化ツールと仮想化ツールだ。こうしたツールは、販売員の業務を減らし、彼らがより付加価値の高い仕事に取り組めるようにするのに役立つ。たとえば、現在ベータ版として提供されている「ジェットブラック(Jetblack)」サービスは、顧客が小売業者とテキストメッセージでやり取りしながら、自分の好みや配送時間に合わせてどの製品を購入すればいいのかを判断できるものだ。このやり取りに、人間が介入する必要はない。フィネガン氏は、この技術が進化すれば、音声ベースのインターフェイスに移行するはずだと述べている。一方、ウォルマートが買収したVR関連スタートアップのスペイシャランド(Spatialand)は、顧客が製品の利用シーンを、店舗でじかに製品を触っているときよりもはるかに具体的に想像できるサービスを構想している(実際のサービスはまだリリースされていない)。
「たとえば、カヤックに乗って、仮想世界で川を下るといったことが考えられる」と、フィネガン氏はいう。VRテクノロジーを使ったサービスは、最初は店舗で提供することになるだろうが、徐々に顧客の自宅に展開できる可能性があると、同氏は語った。
幅広く網を張ることが重要
ウォルマートは、デジタル化とモバイル化が進む未来の顧客体験に備えて、大規模なイノベーション戦略を展開している。ストアナンバーエイトはそのひとつだ。また、ほかの小売業者と同じように、さまざまなテクノロジーに投資している。ストアナンバーエイトや自社のイノベーションラボであるウォルマート・ラボを活用するとともに、eコマースサイトのJet.com(ジェット・ドットコム)やフリップカート(Flipkart)などを買収することで、さまざまなテクノロジーに賭けているのだ。小売業者が競合他社との差別化戦略を判断するには、いろいろなテクノロジーに幅広く網を張ることが重要になる。
「特定のテクノロジー企業(小売企業)が拡張現実(AR)やVRに投資することのメリットについては、さまざまな議論がある」というのは、フォレスター・リサーチ(Forrester)の主席アナリスト、スチャリタ・コダリ氏だ。同氏によれば、「実際のところ、ほとんどのテクノロジーは、世界を本当に変えているわけではない」という。だが、複数の企業に投資することで、どこかの企業がうまくいかなかった場合のリスクを分散しているのだと、コダリ氏は語った。
ウォルマートの場合、より大きなテーマは、機械学習と人工知能の活用によって、顧客体験を阻害しているものを取り除くことであり、この分野では、ウォルマートもほかの小売業者も成長する余地がある。そう話すのは、小売テクノロジーのスタートアップに投資するミネアポリス拠点のベンチャーキャピタル、ループ・ベンチャーズ(Loup Ventures)のマネージングディレクター、アンドリュー・マーフィー氏だ。同氏によれば、小売テクノロジーにおける現在のベンチャー投資は、その多くがコンピュータービジョン(カメラなどのテクノロジーを使って、「Amazon Go」のような無人ストアでの決済を容易にする)と音声を対象としたものだという。
Amazonの底知れぬ強み
ただし、イノベーションを支援するこうした取り組みの一方で、企業文化や株主からのプレッシャーのせいで、新しいテクノロジーの実験に多くのリスクを取ることを懸念する声が出る可能性があると、マーフィー氏は指摘した。Amazonには、このような制約はない。
「(小売業者の)リスクは、慎重になるあまり、守りの姿勢に入りすぎ、十分な実験を行わないことだ」と、マーフィー氏はいう。「(Amazonの実験では)投資家は収益性を求めてはいない。そのため、彼らはAmazon Goのような実験的取り組みに、考えられないような額の資金を注ぎ込めるのだ」。
Suman Bhattacharyya(原文 / 訳:ガリレオ)