北欧の大手メディア企業であるシブステッド(Schibsted)は、ひとつのニュースルームでコアプロダクトを開発し、それをほかの多くのニュースルームにスピンアウトする方針を伝統的に取っている。現在では、このプロダクト戦略を応用して、動画の制作や配信の効率を向上させているという。
北欧の大手メディア企業であるシブステッド(Schibsted)は、ひとつのニュースルームでコアプロダクトを開発し、それをほかの多くのニュースルームにスピンアウトする方針を伝統的に取っている。現在では、このプロダクト戦略を応用して、動画の制作や配信の効率を向上させているという。
シブステッドのストリーム(Stream)は、同社の40のニュースルームに加えて、ノルウェーで30の新聞社を経営するポラリス・メディア・グループ(Polaris Media Group)でも使用されている動画プラットフォームだ。ストリームでは、動画プレイヤーや複合レポーティングソフトウェアなどのツール開発やメンテナンスを10人の専任スタッフが行っている。同グループによると、2018年には動画配信全体で、26億回の動画ビューを記録。動画ビューを基準にした場合、シブステッドで最大のニュースルームは、ノルウェーのタブロイド新聞であるベルデンス・ガング(Verdens Gang、以下VG)と、スウェーデンの日刊新聞であるアフトンブラーデット(Aftonbladet)のふたつだ。
ストリームの誕生秘話
「シブステッドの経営陣は、6年前にはすでに、VGTV(VGのWebテレビチャンネル)をノルウェーで動画向けの優れた中核的な番組制作局に位置付けるべきだという考えを持っていた。それはつまり、VGTV向けに制作したものをほかのニュースルームでも利用できるようにすべきだという考え方である」と、シブステッドの動画プラットフォームの制作マネージャを務めるエリック・ソースタ氏は言う。このプラットフォームは3年前の時点で、北欧のほかのニュースルームでも十分に実用化できるほどに熟成していた。
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制作スタッフや技術スタッフの大半が、シブステッドのニュースルーム全体で共通のプラットフォーム上で作業しているが、同一のツールや技術を土台にしながらも、特定のメディアブランドを専任とするチームも存在する。
1カ月前に、ストリームは低レイテンシー放送を可能にした。この放送の特徴は、ライブ放送プロセスを迅速化するものだといわれている。アフトンブラーデットは1日あたりライブストリームを15本ほど放送するニュースルームで、この機能を近日中にもテストしてみる予定だ。「プッシュ通知が消えたら、放送を同期する必要がある」と、アフトンブラーデッドの動画部門統括者のマーティン・エーケルンド氏は言う。「プラットフォームにオンボードしたことで、スピードが飛躍的に上がった」。
アフトンブラーデットは、ここ3年間、動画制作に関してニュースルームを整備してきた。同紙には約300人の編集スタッフが関与しており、ニュースルームの中心には動画スタジオがあるため、すべてのレポーターがライブ放送にアクセスできる。同社によると、アフトンブラーデットには動画のレポートや編集を専門に担当する、30〜40人のスタッフからなるチームがあるという。
若年層開拓にひと役
動画は、若年層の視聴者がアフトンブラーデットに関心を持つのにひと役買っている。同紙は、9月に行われたスウェーデンの総選挙の準備期間には主要な党首間の討議を放送した。調査会社のウングドムズバロメタン(Ungdomsbarometern)が実施したスウェーデンの若年層の指標調査によると、この討議を視聴したのは、15歳から24歳の視聴者が28%、25歳から49歳の視聴者が11%であった。選挙戦当日の夜のライブ放送は、15歳から24歳の視聴者が13%であった。
ビュー数は、10秒視聴すれば閲覧したとカウントされるが、アフトンブラーデットの視聴回数は、選挙日当日に最高潮に達し、約1000万ビューを記録。これは、スウェーデンの公共放送サービスであるSVTの視聴回数を上回っている。通常、視聴時間では、SVTの方がアフトンブラーデットよりも多いが、これも選挙後の日は、そうはならなかった。「選挙結果は不透明だったため、視聴者はその説明を求めて我々を視聴した」と、エーケルンド氏は言う。
「この戦略は、ビュー数ではなく価値を重視するものだ」と、エーケルンド氏は付け加えた。「オンライン動画をどのように評価するだろうか? その方法はまだ定まっていない。ビュー数を稼ぐのは容易だが、ビュー数ばかりを重視すると、価値が忘れられてしまう」。
プラットフォーム戦略の効果
シブステッドのソースタ氏やストリームチームの目標は、関連動画を提供することで動画を1本以上視聴してもらえるように促し、プレロールやバンパー広告を介して広告収入を稼ぐことにある。動画広告はアフトンブラーデットにとって重要な収益源であると、エーケルンド氏は言ったが、その数字に関しては触れなかった。
コアプロダクトの一元管理で効率は大幅に向上するが、犠牲も伴う。「どのニュースルームも自分たちは特別であり、ほかとは少し違うやり方を行う必要があると感じているが、必ずしもそれが正解ではない」と、ソースタ氏は言う。たとえば、異なる広告プラットフォームに切り替えなければならないために、広告収入を失う部門も出てくる。「これは利益相反だ。シブステッドはこういった部分を巧みに乗り越えた。ニュースルームがオンボードすることで現実的に考えられるようになり、ニュースルームに必要とされているものに集中できるようになった。険しい道だったが、いまはこのプラットフォーム戦略の効果が結実している」。
広告以外では、動画はサブスクリプションを増やすために使用されている。VGはドキュメンタリー作品をライセンス化することで2万人の購読者をVGプラス会員にすることができた。アフトンブレーデットは、動画を使って購読者をアフトンブレーデットプラス(Aftonbladet Plus)に加入させられるようにできるかについてはまだ試験中だ。アフトンブレーデットプラスは、15年前に開始されたもので、25万人のデジタル購読者を持つ。同紙は、サッカーコンテンツのプラットフォームであるストライブ(Strive)を介して配信されるようなスポーツ放送権も所有している。そのため、イタリアのセリエA(Serie A)やスペインのラ・リーガ(La Liga)の試合を放映したときは購読者が急増したと、エーケルンド氏は言った。今年ははじめて、ペイウォールを敷いたうえでオスカー(Oscars)のライブストリームを配信。しかし、ライブストリーミングを行うにはそれを支える技術が必要だ。これは、今年の8月に全米オープンをストリーム配信したAmazonが学んだ教訓だ。
適したフォーマット探し
今年の末までに、アフトンブレーデットはペイウォールを敷いたうえで4分から6分のドキュメンタリー作品の配信を増やし、これによって視聴者がコンテンツを購入したり、プラットフォームに留まったりすることを促進できるかどうかをテストする予定だ。その可否は、シブステッドを含むすべてのパブリッシャーにとって喫緊の課題といえる。同紙は数年前、テレビ番組寄りの動画をプロデュースしたが、それほど数字は伸びなかったため、教育系ニュースコンテンツへの注力に切り替えた経緯がある。
「ドキュメンタリー番組も試しているところだ」と、エーケルンド氏は言う。「通常のフォーマットの問題点は、購入する場合に高価でユーザーの行動をニュースWebサイトと連携することが困難な点だ。もっとオンライン向けに適したフォーマットを探している」。
Lucinda Southern(原文 / 訳:Conyac)