ドラッジ・レポート(Drudge Report)に対するリベラルからの返答ともいえるハフィントンポスト。その発起人であり、2005年の発足以降編集長を務めてきたアリアナ・ハフィントン氏が、去年同社を去った。新編集長に指名されたリディア・ポルグリーン氏の使命は、その答えを見つけ出すことだ。
2017年のなぞなぞをひとつ:ハフィントンポスト(The Huffington Post)からハフィントンがいなくなると、どうなる? 新編集長に指名されたリディア・ポルグリーン氏の使命は、その答えを見つけ出すことだ。
米保守系のニュースキュレーションサイト、ドラッジ・レポート(Drudge Report)に対するリベラルからの返答ともいえるハフィントンポスト。その発起人であり、2005年の発足以降編集長を務めてきたアリアナ・ハフィントン氏が、去年同社を去った。彼女があとに残したのは、15カ国版を有し、ネイティブアドやデータ重視方針のパイオニアとなった、ミニ・メディア帝国だ。ハフィントンポストが短期間に比類なきスケールに発展した理由のひとつに、膨大な寄稿者ネットワークの存在がある。
ハフィントンポストが次にどこへ向かうかは、ポルグリーン氏にかかっている。同氏はニューヨークタイムズ(The New York Times)に15年勤めたベテランで、前職はNYTグローバルのエディトリアルディレクター。米DIGIDAYのインタビューで、ポルグリーン氏はハフィントンポストのビジョンを語った。回答には読みやすいよう編集を加えた。
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――気になるので、まず最初に。あなたの昼寝ポリシーは? アリアナが持ち込んだスリーピングポッドは存続しているの?
私も寝るのは好きだ。夜は8時間寝るようにしているし、週末の午後は昼寝をする。昼寝ルームを撤去するつもりはない。
――ハフィントンポストの現状は?
なにはともあれ、ミッションステートメントはある(笑)。我々は勢いがあって明るい、と言ってもいいだろう。だが、実情を示すには、それでは不十分だ。我々の本当の使命は、弱者に寄り添い、発言権がないと感じている人々の代弁者になることだ。我々は、そういう人々の声を聞き、大きく響かせるために、ここにいる。米国はいま、さまざまな面でかつてないほど分断されている。しかも、それは党派とは無関係の、奇妙な分断だ。
――米国の分断の実情をどうみている?
大統領選のあと、私は国内で湧き上がる怒りや不満の深刻さを本当に理解できているのか、ずいぶんと思い悩んだ。トランプ氏に投票した人や、投票に行かなかった人について、たくさんの記事を読んだ。そうして気づいたのは、取り残されたと感じる人々についての記事はあっても、彼らのための記事がないことだ。
――つまり、アンチ・ドラッジレポートとして発足したハフィントンポストが、トランプ支持者を読者層に取り込みたいと考えていると?
ドナルド・トランプ氏に投票した、たくさんの人々にハフィントンポストを読んでもらうことは、わたしの念願のひとつだ。
――でも、どうやって?
我々はみな、グローバリゼーションはすべての船を前進させる潮流だと思っていた。だがそれは結局、不平等を助長した。民主党も共和党もそんなことは言っていなかった。こうした不満が生まれるのはまったく当然だ。生産性は指数関数的に上昇し、誰もが以前より大きなパイを食べられると、我々は思っていた。しかし実際には、分け前が大きくなった人もいれば、まったく得られなかった人もいた。
――ハフィントンポストの成長は、膨大な寄稿者ネットワークに寄るところが大きかった。それとトランプ支持者を取り込むという目標、どう折り合いをつける?
昨年にかけて、寄稿者ネットワークを拡大した。また、寄稿者プラットフォームについての議論には、これまでも変遷がある。人々が自分の意見を表明する場は、いまではいくらでもあるからだ。
――寄稿者ネットワークの拡大には、いわゆる「フェイクニュース」や虚実入り混じる情報に堕してしまうリスクもあり、ジレンマなのでは?
典型的なレガシー報道機関にとって、重要なのは「これがいま起きていることだ」と伝えることだ。しかし、フェイクニュースを拡散することなく、人々の体験に積極的に耳を傾けることは可能だ。共感に満ちた場を設け、多くの人々に自らの生活や人生について語ってもらうのも、我々の使命のひとつだ。
――FOXニュースやブライトバート(Breitbart)も弱者の味方を自称するのでは
FOXニュースやブライトバートのようなメディアは、人々の脳内の「怒り受容体」をジャックして、人がもつ分断思考に訴えかけるプロダクトを提供している。わたしはハフィントンポストを、人々が断絶を深める場ではなく、連帯のキッカケを見出せる場にしたい。
――新聞社で働いた経験を持つあなたが、デジタルに挑戦することについては、どう思う?
1970年代のすぐれたタブロイド紙、たとえばシカゴサンタイムズ(Chicago Sun Times)やニューヨーク・デイリーニュース(New York Daily News)から、わたしは強い影響を受けた。新聞が持つ地域との強くて深いつながりについて、じっくりと考えた。わたしの地元ミネアポリスにも、スタートリビューン(Star Tribune)がある。こうした地元紙が衰退し、地元のコミュニティとの深いつながりもなくなった。
――その一方、ハフィントンポストはこれまで積極的に海外進出してきたが
グローバルな帰属意識やテクノロジーと、ナショナリズムの対立は、世界中で起きている。我々は米国内で起きていることを取り上げ、そこに見られる世界共通の現象としての側面を伝えることができる。それが、ハフィントンポストの強みのひとつだ。アメリカであれフランスであれ、イギリスであれオーストラリアであれ、我々はたくさんのグローバルな潮流のなかで生きているのだ。
――ローカルで直接的なつながりと規模の追求、どうやって両立する?
ローカルニュースのモデルが危機に陥っているのには理由がある。テクノロジーが読者をグローバルへと向かわせるのだ。米国内に数百ある地元紙すべてにとってかわる報道機関があるとは思えない。ソーシャルプラットフォームと、我が社のジャーナリストを活用して、現場取材をしたり、特派員をおいて現地コミュニティの日常生活に密着した報道を行うことは可能だと思う。ローカルとグローバルの対立は考えていない。だが、報道姿勢に変化は必要だ。
――Facebookはパブリッシャーの敵? 味方?
それは使い方次第だ。ビジネスの観点からいうと、無償配布媒体はアジェンダ設定にかなり苦労している。ニューヨーク・タイムズに勤めていたときは、有料購読媒体ということもあり、最終的にFacebookは味方だと考えるようになった。ニューヨークタイムズは、有料購読してくれそうな読者を見つける場としてFacebookを利用していた。ハフィントンポストの場合、Facebookはオーガニックリーチでもターゲットマーケティングでも呼び込めないオーディエンスにリーチする実験の場だ。我々はそこで独立性の高い実験を数多くおこなっている。
――たとえば?
我々が関心をもっているのは、プラットフォーム外の多様な政治思想をもつコミュニティが、特定のテーマの記事、たとえば麻薬の蔓延に対して、意見を述べる場を設けることだ。そのために、我々はさまざまなFacebookコミュニティを開設した。たとえばギグエコノミーで働く人々のコミュニティや、ミレニアル世代のイスラム教徒向けのコミュニティ「トゥモロー・インシャラー(Tomorrow Inshallah)」がそうだ。こうしたコミュニティは、ハフィントンポストのブランド色がきわめて薄い。我々は、コンテンツを押し付けるのではなく、コミュニティを作ることで、読者が何に関心をもっているか、どんなコンテンツに引きつけられるかを理解しようと試みている。そのために、(コミュニティでは)自社コンテンツと他媒体のコンテンツの両方を利用している。
――そういったオーディエンスをどうマネタイズする?
広告主には、米国の核をなす価値観に沿ったストーリーを展開したいという欲求が強い。アカデミー賞授賞式やスーパーボウルを見れば、このような分断のさなか、広告で米国らしいストーリーを語ることがいかに難しいかがわかる。米国人が考える米国的価値とは何なのか、読者の声に耳を傾けながら、その定義を一緒に見出していきたいと、私は願っている。米国的価値観をめぐる議論に参加したいと考えている広告主にとって、ハフィントンポストはよい提携先になるはずだ。
――ハフィントンポストはネイティブアドのパイオニアだったが、かつての勢いに陰りが見える。
ハフィントンポストとAOLはネイティブアドを重視している。パートナースタジオ(Partner Studio)は、いまもポートフォリオの重要部分だ。ハフィントンポストが制作したAR/VR作品は、ワクワクするような最先端技術の結晶だ。我々は新たな広告形態のパイオニアを目指している。乞うご期待、と言っておこう。
――あなたと同世代のジャーナリストの多くは、事業の収益性を度外視する傾向にあった。
報道機関の将来のための財務指針の設計に関して、ジャーナリストの役割は大きくなっている。これは私がキャリアのなかで経験した、もっとも興味深いことのひとつだ。
――成功をどう数値化する?
メディア事業の成功の本質はブランドにあり、ブランドはジャーナリストの名声によって定まると、私は心から強く確信している。ジャーナリストは主体的な存在として、変化を先導し、自社の価値観を表現する記事を書くべきだ。私はことあるごとにそう主張している。ブランドと感情面で絆を感じられないのに、その媒体の読者になろうとは誰も思わない。
――どうやって差別化する? ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストをはじめ、大手新聞はみな硬派なニュースや調査報道に力を入れている。
当然ながら、ニュースは今後もずっと重要だ。我々は、独占記事、長文記事、他媒体が取り上げていない題材への投資を継続する。私がトライしたいのは、照準を絞ることだ。我々が獲得をめざしている、幅広い草の根オーディエンスにもっとも響くのはどんな記事なのか? 読者は公共団体が何をしているのかに関心があると、私は思う。いま現在、我々は医療費負担適正化法(通称オバマケア)の行方や司法省を注視している。強大な団体がそれらのあり方を変えようとしており、それは読者にとって重要な意味をもつからだ。
――トランプ支持者を含めて?
保守派や中道派の読者は、みなさんが思っているよりずっと多い。叩くために読んでいるのかもしれないが、私はそうではないと思う。
Brian Braiker (原文 / 訳:ガリレオ)