英LGBT+パブリッシャーが、サブスクモデルへ移行した経緯 :「コロナに背中を押されただけ」

LGBT+にフォーカスするUKのデジタルパブリッシャー、ピンクニュース(PinkNews)は2020年7月から有料会員制度を導入した。広告依存度を減らし、新型コロナウイルス感染拡大のせいで生じた収益減を埋めるのが狙いだ。

年間50ポンド(約7000円)を支払いマイピンクニュース(MyPinkNews)会員になると、最新の記事情報をeメールでいち早く受け取れるとともに、広告の少ない「アドライト(ad-light)」 エクスペリエンスも享受できる。さらに、同社編集部員およびLGBT+コミュニティの有名メンバーとのウェビナーやビデオミーティングにもアクセスできる。また、ピンクニュースショップ内での買物が10%オフという特典も得られる。

今年後半には会員のみに公開されるリサーチ記事にアクセスできるとともに、記事へのコメントも機能が整い次第可能になる。ピンクニュースCEOのベンジャミン・コーエン氏によれば、同性愛およびトランスジェンダーを誹謗中傷する投稿があまりにも多くなったため、コメント機能は3カ月前から停止されている。

コロナに翻弄されたピンクニュース

「確固たる、有意義なLGBT+メディアを支援していると感じてもらうこと――それが我々とユーザーとの会話のスタート地点となる」とコーエン氏は語る。「そうしたLGBT+メディアは今、かつてないほど強く必要とされている」。

コーエン氏の見積もりでは、新型コロナウイルスの影響による今年度の収益減は50万ポンド(約7000万円)にのぼる。有料会員制度であるマイピンクニュースの導入により、最低でもこの減益分を取り戻したいと氏は考えており、登録者が1万人に達すればそれが実現できるという。また、会員費とは別に金銭的支援をすることで、同社の開発およびキャンペーン事業に何らかのかたちで参加できるサポーター制度の導入も検討しているという。

同社は今年はじめ広告主である旅行関係企業との共同キャンペーンをいくつか計画していたが、いずれも取り止めざるをえなかった。毎年6月のプライド月間に世界各地でおこなわれるパレードも今年は相次いで中止となり、それを受けてピンクニュースが予定していたプライド関連のパーティやイベント、コンテンツから多くの企業がスポンサーをおりるという事態も発生した。

さらに、ほかのニュースメディアと同じく――そしてLGBT+デモグラフィックに関するニュースの発信者だけに、なおさら――ピンクニュースも広告主のキーワードブロックリストのあおりを受けている。

「たとえパンデミックが起きていなかったとしても、有料化の道を進んでいたと思う。必ずしも今ではなかったかもしれないし、喫緊の課題でもなかったかもしれないが、おそらく翌年にはしていただろう」と、コーエン氏は語る。「消費者は良質なジャーナリズムに対して以前にも増して進んで支出するようになっており、その変化を受けてメディア業界は大きく動いている。我々はいわば、コロナに背中を押されただけだ」。

Twitterの動画収入は大幅増

もっとも、3月から4月にかけて広告収入は「散々」だったが、イベントを除けば、収益は昨年の同時期程度に戻っていると、コーエン氏は断言する。ネット視聴率の測定・デジタル市場分析会社、コムスコア(Comscore)のデータによれば、2020年3月におけるピンクニュースのユニーク訪問者数は全世界で520万人であり、2019年の同月比で61%減。4月の数字は480万人で前年同月比65%減、5月は590万人で60%減となっている。

ただ、コーエン氏によればこの数値はピンクニュースが投稿するSnapchatのコムスコアの計測法に問題があるという。今年2月からピンクニュースはコンテンツの大半をストーリー(Stories)からショー(Shows:IGTVのような動画専門コーナーで日本からはアクセスできない)に切り替えたのだが、後者をコムスコアはカウントしていないという。同社のショーは月間数千万人のユーザーにリーチできると氏は語る。また、ピンクニュースのサイトトラフィックも昨年よりも増加しているという。

ピンクニュースはしばらく前から収入源の多様化に取り組んでいる。Snapchatからの収入は、多少の変動はあるものの、前年度のそれと同程度だとコーエン氏はいう。Twitterの動画収入は3月から7月にかけて前年比平均で約1000%の伸びを記録している。一方、Facebookのオーディエンスネットワーク(Audience Network)およびインスタント記事(Instant Articles)による収入は3月から7月にかけて前年比約40%減となっており、これはCPMとフィルレートがいずれも低下したためだと、氏は分析している。

財源確保に奔走する

先月ピンクニュースはダイバーシティにフォーカスする広告ネットワーク、ブランドアドヴァンス(BrandAdvance)の公式メンバーになった。これによって社内コマーシャルチームがディスプレイ広告以外にも注力できる財源を多少確保した。

「ピンクニュースは多くのトラフィックを得る大手パブリッシャーのひとつであり、デジタル収入において迅速なターンアラウンドを間もなく実現することになるだろう」と、ブランドアドヴァンスのCEOクリストファー・ケナ氏はいう。「ブランドは資金を投じ、こうした(ピンクニュースの読者のような)デモグラフィックを求めているが、実際のところ彼らは自分が近寄りたくないと思っているところでは何もできていない」という。氏が指摘するのは、ポジティブな論調の記事にのみ名前を出したがる広告主のことだ。

ピンクニュースは7月第3週、 Googleの欧州メディア支援策であるDNI(Digital News Innovation)基金から2018年に得た29万9338ユーロ(約3700万円)の支援金を元手に、LGBT+のアドボカシープラットフォームであるピンクニュース・アクション(PinkNews Action)を立ち上げた。同社はさらに英政府による新型コロナウィルス対応施策CBILS(Coronavirus Business Interruption Loan Scheme)を利用し、25万ポンド(約3400万円)の貸付も受けている。

LGBT+メディアとの訴訟も抱えるが

ピンクニュースは現在、同社と同じLGBT+向け雑誌である『アウト・マガジン(Out Magazine)』やPride.comの運営で知られる米パブリッシャー、プライド・メディア(Pride Media)と法廷闘争中にある。ピンクニュースによると、2018年5月にプライド・メディアと結んだ広告パートナーシップに関し20万ドル(約2100万円)近い収益の未払いがあり、その利息および懲罰的損害賠償金の支払も求めている。

今年1月――最初の提訴を受けてから半年後――プライド・メディアのCEOに就任したダイアン・アンダーソン・ミンシャル氏は、声明の中で次のように語ってい。「係争中の事柄については何も申し上げられないが、私はピンクニュースを支援しており、ベンジャミン(コーエン氏)が新たな事業で多くの成功を収めることを祈っている」。
裁判は今後も続く。

[原文:Inside LGBT+ publisher PinkNews’ pivot to paid

LARA O’REILLY(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)