日本の業界関係者たちは、2022年にどんな課題を感じ、2023年にどんな可能性を見出しているのか? この年末年始企画「IN/OUT 2023」では、 DIGIDAY[日本版]とゆかりの深いブランド・パブリッシャーのエグゼクティブ、次世代リーダーたちに伺った。
明るい未来、という表現はやや陳腐だが、2022年はコロナ禍を踏まえて次のフェーズに進む「新たな1年」になると、誰もが考えていたのではないだろうか。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻をはじめ、世界的な景気低迷とそれに伴う広告・メディア支出の混乱など、波乱に満ちた1年となった。DIGIDAY[日本版]恒例の年末年始企画「IN/OUT 2023」では、 DIGIDAY[日本版]とゆかりの深いブランド・パブリッシャーのエグゼクティブや次世代リーダーに、2022年をどのように受け止め、2023年にどのような可能性を見出し、新たな一年を切り開いていこうとしているのか伺った。
株式会社羽生プロ・代表取締役社長で、著作家・メディアプロデューサーの羽生祥子氏の回答は以下のとおりだ。
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――2022年を象徴するトピック、キーワードを教えてください。
2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は、メディアをつくる人間にとって衝撃と絶望を与えた出来事だったと思う。「戦争なんてしちゃいけない、非道なことはすぐにやめるべき!」というまっとうな声を報道することによって、スピーディーに収束すると世界中の人が春ごろにはまだ思っていたんじゃないでしょうか。ところが、どんなに非難の声を挙げても、悲惨な動画を流しても、いっこうに終わらない。それどころか悪化する。こんな現状を、国連だってNATOだって誰ひとり止められない。そして連鎖するように、中国や北朝鮮の不穏な動きも増長している。
「正しいことを正しいやり方で報道すれば、まっとうな道に進んでいけるのが人類だ」と信じていたのに、その報道の力とか、それを信じる気持ちが、この1年間で決定的に瓦解してしまったように思う。
――2022年にもっとも大きなハードルとなった事象は何でしたか?
「拡散力」なんていう言葉も信じられなくなった。だって「拡散オブザイヤー2022」は間違いなくゼレンスキー大統領でしょう? でもその彼が、いくら声の限りを尽くして終戦をうったえても、状況は遅々として好転しない。「拡散しても、助けてという声を発信し続けても、結局大人たちは何も変えられないんだ」という絶望を、SNSネイティブの子どもたちが感じ取ってしまうことが、私にとってはこれ以上ないハードルです。
地球の西側のほうで想像を絶する戦争が現在進行形で行われている。それを知りながらも、自分は淡々と食べたり働いたり寝たりと、日々暮らしを守っていくしかない。この無慈悲な両立が、なんともジワジワと健全な感覚を侵食していく。それが2022年の最も大きなハードルでした。
――2023年に必ず取り組むべきだと考えていることは何ですか?
“正しさ”をあきらめずに発信していくことなんじゃないかな。メディアだけじゃなくて、企業活動でもそれは同じ。これまでにないほど、企業は“正しさ”が求められています。パーパス経営が流行るのも、きっとこういった心理背景と無関係じゃない。戦争、フェイクニュース、気候変動。あまりに大きすぎる問題に取り囲まれている地球市民はいま、直感的・動物的に“正しさ”を強く求めているんだと思う。
SDGsやウェルビーイングなんていう言葉を持ち出すまでもなく、「利益が出るから、大きくなるから、競争に勝てるから」だけの組織には、人の心はもうついていきません。そしてここからがメディアの腕の見せ所だと思うけれど、“正しさ”と企業活動を、どう結びつけるのか。どう物語るのか。この物語をつくることこそ、2023年のメディアの使命だと思う。