オンライン学習は新たな時代をむかえ、いま、配信コンテンツの価値が高まっている。そんななか、ユーチューバーやブロガー、ポッドキャスターといったインフルエンサーの制作者が、グループ学習方式の、コホート・ベース講座(cohort-based course)を開設するケースが増えてきた。
オンライン学習は新たな時代をむかえ、いま、配信コンテンツの価値が高まっている。そんななか、ユーチューバーやブロガー、ポッドキャスターといったインフルエンサーの制作者が、グループ学習方式の「コホート・ベース講座(cohort-based course)」を開設するケースが増えてきた。
インフルエンサーたちが主宰するコホート・ベース講座は、4週間から6週間におよぶ集中講座で、受講料は1人あたり200ドル(約2万2000円)から6000ドル(約66万円)。新シリーズが配信されるたび、受講者が全世界で200人以上増えるといわれている。コースのテーマはビジネスライティング講座、研究マネジメント、ナレッジ・マネジメント、YouTube投稿ガイドなどで、人気の高い講座は募集開始後24時間以内に定員に達し、主宰者は何百万ドル(何億円)という収入を得る。
たとえば、デヴィッド・ペレル氏は「ライト・オブ・パッセージ(Write of Passage)」と題した文章講座で、仕事に役立つ人脈づくりにつながるネット上の情報発信の仕方を教えている。講座の宣伝は主にTwitterを通じて行い、数年にわたり毎日のように文章作成のヒントをツイートしてきた結果、フォロワー数が18万3000人に達した。また、ティアゴ・フォーテ氏は、個人向けにナレッジ・マネジメントを取り上げたブログで読者を獲得しつつ、コホート・ベース講座「ビルディング・ア・セカンド・ブレイン(Building a Second Brain)」を開設。ペレル氏もフォーテ氏も週に1度ニュースレターを発行しており、それぞれ4万人を超える購読者を誇る。
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認知度向上のため、スキルシェア(Skillshare)やマスタークラス(Masterclass)といったオンライン学習プラットフォームに登録するコンテンツ制作者もいないわけではない。しかし上記のようなコホート・ベース講座は通常、スポンサー契約もブランドとの提携も伴わず、オンライン学習を仲介するプラットフォームにも掲載されていない。主宰者は自ら所有するソフトウェアを活用して講座を運営している。仲介業者がいないため、主宰者として果たすべき責任は重大だが、そのぶん収益は増える。
130万ドルの売上を記録
アリ・アブダール氏は生産性向上のためのアドバイスで知られるユーチューバーで、チャンネル登録者数は150万人に上る。アブダール氏が運営する「パートタイム・ユーチューバー・アカデミー(Part-Time YouTuber Academy)」は、自身の経験をもとに、YouTubeチャンネルを開設して副業をはじめる方法を教えるコホート・ベース講座で、プログラムは講演、質疑応答、オンライン・コミュニティ、自分のペースで学べる動画といったコンテンツからなる。同氏は、コース運営を支援するチームを立ち上げ、ともに講座内容を繰り返し見直して、プログラム改善に励んでいるという。
アブダール氏が運営するユーチューバー養成講座ビジネスは、昨年130万ドル(約1億5000万円)を超える売上を記録。「もしグループ学習のコホートに400人参加したら、わずか数日間で100万ドル(約1億1000万円)稼げる計算になる。驚異的な数字だ」とアブダール氏は語る。「私が関わっているほかの仕事に比べても、格段に効率が良い。コースの価値と影響力の表れだろう」。
競合は大学のオンライン講座?
インフルエンサーはコンテンツ制作の達人だ。大学の学習課程の多くがオンライン授業になる一方で、インフルエンサーが制作したプログラムの内容は、大学の講義に劣らない。「私はケンブリッジ大学で医学を専攻したが、友人や知人はみな、学位取得に向けてデジタルコンテンツで勉強していた」とアブダール氏は回顧する。「YouTubeなどのプラットフォーム上で視聴できるオンライン講座は、コロナ禍以前からかなりの需要があり、一流大学の学生も、教材の勉強や試験準備の復習のために利用していた」。
大学のオンライン教育プログラムは、新型コロナウイルス感染症の流行以前からすでに人気が高まりつつあった。しかし、学生の就職準備という観点で見たとき、コホート・ベース講座が大学教育の新たなライバルとして台頭してくる可能性もある。最近では、プリンストン大学、スペルマン・カレッジといった一流大学が全課程をオンラインで履修できるコースを設置し、授業料割引を適用するようになった。
インフルエンサーが制作する学習コンテンツは質が高く、講座に出ないと取り残されるという不安(FOMO:Fear of missing out)にかられて受講する学生もいるため、大学にとっては厳しい競争になりそうだ。しかし大学側にはほかの優位性がある。校名、歴史、卒業生の人脈などに代表される一流校のブランドはいまだ健在だ。とはいえ大学側も、教育の現場において学習者がどんな体験を重視するかといったニーズをもとに、オンライン学習のコンテンツを改善する必要がある。
「コホート・ベースのオンライン講座は爆発的な増加を見せており、従来とは異なる多様な学習機会を提供するエコシステムが構築されつつある。ここ10年間で、大学に頼らずにスキルアップを行う選択肢が生まれている」。こう語るのは、フォーチュン1000に入る大企業を顧客にもつ教育コンサルタント会社、ギルド・エデュケーション(Guild Education)で上級ストラテジストをつとめる、マイケル・ホーン氏だ。「選択肢の幅がいっきに広がって、市場に急速な変化と活力がもたらされている。どんなトピックであれ、学習者が学びたいことを新しい方法で学べるチャンスが増えた」。
インフルエンサーが支持される理由
アン=ロール・ル・カンフ氏は、マインドフルネスを活かした生産性向上に重点をおくオンライン・コミュニティ「ネス・ラボ(Ness Labs)」の創設者で、週に1度配信されるニュースレター「メイカー・マインド(Maker Mind)」の購読者2万9000人を対象に、自己研鑽に役立つノウハウを脳科学にもとづいたアプローチで紹介している。なお、以前自らコホート・ベース講座を主宰した経験のあるル・カンフ氏は現在、アブダール氏のユーチューバーアカデミーを受講中だ。
コホート・ベース講座の主宰者がインフルエンサーであれば、多くの人が納得して受講するかもしれない。しかしル・カンフ氏によれば、学習者がインフルエンサーを選ぶ際に参考にするのは、オーディエンスの数だけではないという。「インフルエンサーのフォロワー数の多さより、どれだけ内容が専門的であるかが重要だ。アブダール氏がオンライン講座で成功を収めているのは、教えているトピックに関する造詣が深いからにほかならない。講師には専門家としての信頼性が求められる」。
一方、学習効果も重要視される要素のひとつだ。コホート・ベース講座のサイトでは修了者の声を紹介し、おすすめコメントを掲載して成功を印象づけている。「参加を申し込む前に、過去の受講者がどんな成果を上げたかをコメント欄で確認できる」とル・カンフ氏はいう。「コースでは、単にアイデアを学ぶだけでなく、決められた枠組みにしたがって考えを行動に移す方法を会得できる。私もアブダール氏の講座を受けて、わずか数週間のうちにYouTubeのチャンネル登録者数が2400人に達した」。
「共感」から「専門性」重視へ
オンライン学習におけるインフルエンサーの取り組みから、ブランド企業や大学が学べる教訓はいろいろある。特に、昨今評判のインフルエンサーの事例が参考になりそうだ。ディッキー・ブッシュ氏は昨年、副業として初のコホート・ベース講座「シップ・サーティ・フォー・サーティ(Ship 30 For 30)」を開設した。前出のペレル氏と同様、ビジネスラインティングを伝授する講座で、受講料は1人250ドル(約2万8000円)。配信開始以来、Twitter のフォロワー数はゼロから2万3000人にまで伸びた。
「私の主な仕事は、人が文章を書く習慣を身につけ、書いたものを投稿する場合にありがちな悩みの相談に乗ってあげることだ。こうした領域は、ほかの講座ではほとんど取り上げられていない」とブッシュ氏は説明する。「しかし、コホート・ベース講座の最大の付加価値は、そのコミュニティにある。学習者はお互い継続的にフィードバックを行い、説明責任を果たし、協力の精神で助け合う。我々は、本講座の価値観の原動力でもある『行動と反復の文化』をこのコミュニティに浸透させようとしている」。
人々はかつて、インフルエンサーのライフスタイルに共感し、その人のフォロワーとなった。ところがオンライン学習の世界では、インフルエンサーがもつ専門知識に魅力を感じてフォロワーになる人が多い。インターネット上で使える知見をわかりやすく伝授できるコンテンツ制作者が、大きな利益を得るチャンスがここにある。
[原文:Influencers are creating million-dollar incomes selling their expertise via online courses]
LAUREN RAZAVI(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)
ILLUSTRATION BY IVY LIU