C Channel代表取締役社長の森川亮氏はDIGIDAY[日本版]のインタビューに対し、アジアで制作、流通、広告、コマースにまたがる動画ならではのモデルをスマホネイティブで築こうとしている、と語った。
昨年から日本でもモバイル動画が勢いを増している。2015年春に創業し、タテ型というスマホネイティブなフォーマットで動画市場に参画するC Channel。F1(20歳から34歳までの女性)層に特化した動画ビジネスは日本だけでなく、スマホネイティブの若年層が社会の多数派のアジアに拡大している。
C Channel代表取締役社長の森川亮氏はDIGIDAY[日本版]のインタビューに対し、同社の事業展開についてこう主張した。
*スマホネイティブにとってタテ型動画が普通、タテ型の動画広告の方が画面を覆うので効果が高い
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*すでに動画展開しているアジアはF1がマジョリティで、C Channelにマッチする
*アジアではインフルエンサーマーケティングの効果が高く、日本でも今月はじめに大型買収があり今年が「インフルエンサーマーケティング元年」だ
*制作、流通、広告、コマースにまたがる動画ならではのモデルをスマホネイティブで築こうとしている
動画もタテの時代?
「PCからスマホに変わる流れが起きてきたが、動画に関しては遅かった。動画は制作コストがかかる。タテ横の問題で圧倒的に在庫は横だ。スマートフォンのスクリーンはタテだし、ゲームもタテになった。スマホネイティブに当たるタテに特化した動画が来るかなと思っている」。
森川氏はタテ型の動画広告が効果的だと話す。「この前もSnapchatの人と話したが、横よりタテの方が効果的だ。タテはスクリーンを覆う。みんな横の動画もスマホをタテのままで見ている」。
近年はタテ型フォーマットを活かした動画クリエイティブが若年層に浸透している。Snapchatは米国のその先駆けだ。若年層が横型(16:9規格)を視聴する際もスマホを横に倒さない傾向があることが指摘されている。
「大きく分けるとBuzzFeedのような『分散型メディア』、中国のメイパイ(美拍)のような『ライブ配信、カメラアプリからコミュニティをつくる』というやり方がある。我々は分散型メディアとして伸びてきたが、その先で『何らかの方法でC Channelのブランドを訴求したい』と思っている。そこからどうやってアプリに流し込むかということを考えている」。
「ライブ配信はその場限りだったりとか『美女とオタク』の組み合わせになりやすい。女性向けとしては動画の組み合わせや動画のデータベースだ」。
「AI(人工知能)時代にはコンテンツマーケティングやインフルエンサーマーケティングのようなものが人間が得意なことだと考えている。いまそこに特化していて、ネイティブアドやインフルエンサーマーケティングを動画と組み合わせて、分散型メディアを展開していきたい」。
中国でも昨年12月から事業を開始。中国市場は寡占がきついことと外資系が活動しづらいことで知られるが、C Channelはうまくいっていると森川氏は説明する。
「分散型で入ったのが良かった。中国はバイドゥ、アリババ、テンセントのどのグループ(BATと称される)に入るかが重要だという感じ。その3者でソーシャルメディアをほとんど運営しており、各プラットフォームで数字を上げているのが良かった」。
動画広告は10倍高い
分散型はコンテンツビューで広告主/代理店を説得する必要があるかもしれない。「動画を見てアクションを起こす人が増えている。ファンを持っている人が説得する。動画+インフルエンサーは『最強の組み合わせ』だ。タイムライン、ニュースフィードの投稿は流れる。アプリのMAUは100万超だ。今後は500万、600万くらいはいけるかなと考えている」。
「動画広告は高い。(通常のバナー広告とは価格が)10倍くらい違う。動画プレミアムをもっているメディアはあまりいない。広告主はテレビを余り見ていない若い人にどうアプローチするかという課題をもっている。テレビや雑誌に出稿していた人たちが『若い人見ていないよね。じゃあC Channelに出稿しよう』という流れだ」。
広告主には動画の再生数、エンゲージメント、ブランドリフティングの数値をレポートしている。コンバージョンのような数字はアドの目的とは異なるので、余りおすすめしていない、という。
分散型で中国市場に訴求できる
同社ビジネスマネジャーの武藤崇推氏は「F1に訴求したいブランドは多い。一回だけではなく繰り返し出稿する企業も増えている」と語った。「C Channelでは興味がある人が集まっていて、コンテンツも広告も再生数が同じ程度だ」。
武藤氏は「ネイティブ動画を中国向けに製作し配信した。中国ではイラストを利用した動画が人気がある。日系化粧品大手の製品でも同様の動画を製作、流通させた。コメントが活発で、エンゲージメントは日本の倍くらいは出る」と語る。活用したプラットフォームは微博(ウェイボー)、美拍だ。
森川氏が注目するこの美拍は中国/世界でもっとも成功しているライブ動画プラットフォームで、ユーザー生成コンテンツ(UGC)で極めて高いエンゲージメントが生み出されている。

右のエンゲージメント数が3000超え、左の子役インフルエンサーのフォロワーが約10万人。ひとつの動画のエンゲージメント数やフォロワーが小さくなりがちなライブ動画において「規模感が中国」の美拍 via Meipai Top page
ひとつの動画を多言語化して他国に配信する例もある。日系医薬品大手のインバウンド向け製品の訴求に関しては、動画を中国/台湾、タイ、日本の3言語で制作したという。
「タイ、台湾、インドネシア、中国ですでに広告の販売を開始している。日本のメディアのなかで、アジアで純広の売上を出しているのはうちだけではないだろうか。実際結構売れる。日系からの受注もあるが東南アジアのローカル企業に営業に行って純広告が売れる。記者発表会をやって現地の企業に行って営業する」。
2017年は「インフルエンサーマーケティング元年」
C Channelは昨年6月に「インフルエンサー」の事務所であるYellow Agencyを子会社として設立。ブランドはYellow Agencyを通じて有名タレント、モデル、アーティスト、読者モデル、文化人、ソーシャルメディアで活躍するインスタグラマー、YouTuberなどをキャスティングできる。キャスティングは国内に限らず海外でもできる。
Yellow Agency執行役員の中山貴人氏は「2月にグリーがインフルエンサーマーケティング、動画マーケティングなどを手がける3ミニッツを買収した。今年は日本のインフルエンサーマーケティング元年になる」と語った。買収額43億円は3ミニッツの売上の10倍超であり、グリーのプライシングは日本のネット産業が、かなりこの分野に期待していることを語っている(あるいはゲーム以外の収益源をメディア分野に持ちたがっていることを語っている)。
中国や東南アジア諸国ではインフルエンサーマーケティングがとても効果が出ていると言われる。先述の「美拍」も格好のコンテンツマーケティングの場になっており、東南アジアでもソーシャル上でインフルエンサーが商品を紹介し、そのまま購買に至るという消費者のスピーディな傾向も見られる。
Yellow Agencyでは、C Channel内のインフルエンサーである「クリッパー」やインスタグラムなどのインフルエンサーを活用したキャンペーンを行う。「インフルエンサーとの独占契約にはなっていないが、今後はメディアの成長とともに展開を考えたい。特に中国はインフルエンサーの影響力が高い。現地のインフルエンサー養成学校と提携し、一緒にオーディションを奨めている」。
DIGIDAYでは「マイクロインフルエンサーを束ねた方が、著名な高単価のインフルエンサーを起用するより効果的だ」という議論を紹介した。
森川氏は必ずしもそうではないという考え方だ。「企業側が『この人でいきたい』ということもある。また商品とインフルエンサーの相性もあり、その部分はわれわれがコンサルティングしていく。中国ではインフルエンサーが企業と協力して商品をユーザーに進めるようになる。インフルエンサーが商品開発に関与するケースもでるだろう」。
新しいモデルのテレビ?
森川氏はキャリアを日本テレビで開始しており、C Channelの事業展開は「テレビのエコシステムをインターネットでも実現しよう」という発想に見える。インフルエンサーマーケティングのようなテレビらしい「わかりやすい」手法(アドテクやマーテックのような難解ではないもの)が生まれたり、FacebookがMTV幹部を採用するなど市場もデジタルとテレビが融合する側面を帯びている。
森川氏はC Channelで「制作」と「放送」をつくり、Yellow Agencyで「芸能事務所」をつくった。コマースも取り入れており、これを森川氏は「テレビショッピング」と呼んでいる。

(左から)インタビューに応じてくれたマーケティング / PRSJ認定 PRプランナー山浦総一郎氏、代表取締役社長 森川亮氏、ビジネスマネージャー 武藤嵩雄氏、YellowAgency執行役員 中山貴人氏=吉田拓史撮影
「いままでのコマースは『欲しくなってから買っていた』。でも、テレビショッピングは『コンテンツをみていると欲しくなっている』だ。動画ならではのモデルをスマホネイティブで築こうとしている。インフルエンサーが投稿する際の編集用独自アプリもつくっている。(動画のアジア諸国展開ができるように)字幕をつけられるようにしている。世界でもここまでやっている会社は他にない」。
若いアジアに届く分散型
「若い層がターゲットだが、日本は若年層は人口全体に対してパイが少ない。アジアは若い人が中心だ。フィリピンの平均年齢は23歳。マジョリティがF1だ。マーケティングでも、国ごともいいですが、今後はアジア全域で人気になる人を生み出したい。一時は韓流が強かったが、ぼくらはそれをひっくり返そうとしている」。
「地上波のモデルが厳しくなってくると地上波や雑誌の広告がネットに流れてくる。そこを取りに行くのが大事ですし、効果測定も整備する。インフルエンサーが独自に広告をつくったり、商品の開発を行ったりすると新しいマーケットプレイスができる。ここにコマースもつながり、企業と連携ができる」。
Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
Photo by GettyImage